冒険者


 盗賊を倒してしばらく、やっと街にたどり着く事ができた。


「おぉ、やっと街についた」


「メロウ」


「ふむ、そうですね、人間の街にしては綺麗です、及第点でしょう」


 何やら、クロノとメロウで採点が行われていた、まぁ、汚いと疫病とか恐いしね。


「タクト様、この街は入って大丈夫です、この後はどうしますか?」


「うーん、出来れば冒険者になりたいから、ギルドみたいなのが有るといいんだけど……」


「畏まりました、では、わたくしが街の者に聞いてきます」


「頼んだ!」


 メロウが、話を聞くために離れるのを見届けつつ、クロノ達に質問する。


「なぁクロノ、メロウってのこうゆうの得意なのか?」


「はい、恐らく我々の中でも一番適任かと」


「へぇ、まぁメロウなら、人当たり良さそうだもんな、でも、それならクロノでも大丈夫そうじゃないか?」


「いえ、私等は直ぐに完結を求めてしまいますなら」


「あぁー、長話しに付き合えないとか?その気持ちは何となくわかる」


 クロノと、雑談をしてると直ぐにメロウが帰ってくる、やっぱり慣れてるんだな。


「お待たせ致しました、タクト様冒険者ギルドと言う物の場所が判りました、ご案内致します」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「タクト様、こちらが冒険者ギルドです」


「へぇ、何かいかにもな建物だね」


 タクトが冒険者ギルドに関心を示している、後ろでは、メロウ達が聞こえないように話し合いをしていた。


(クロノ、フェン、エニ、わかっていますね?ここでは無闇にゴミ掃除をしてはいけません)


(ええ、心得ています、タクト様はそれを望まないでしょう)


(うん、でも、何かあった時は……)


(タクト様、一番)


(その通りです、わたくし達はタクト様の為に存在するのです)


「みんなどうしたの?中に入ろう!」


『はい、タクト様』


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ギルドに入るといかにもな冒険者が……いない!


「あれ?繁盛してない?」


「タクト様、恐らく今が昼時だからではないでしょうか?」


「昼時?」


「はい、どうやら冒険者は、朝依頼を受け、夕方報告に戻って来るのが普通のようです」


「なるほど」


 今は絶賛仕事中な訳だ。


「タクト様、どうやらあちらで登録手続きを行えるようです」


 クロノがカウンターを指差す、見ると受付の人が笑顔でこちらを見ていた。


「いらっしゃいませ、本日はご依頼ですか?」


 近付くと受付の人が要件を聞いてくる、さすがギルドの受付、美人だ、メロウも美人では有るのだが、それに引けを取らない美人、メロウが御姉さん系なら、受付嬢は幼馴染み系だろうか? 


「あの……」


 見とれていると怪訝そうな目で見られる。


「チッ……」


 後ろから舌打ちが聴こえた!?ヤバい、メロウと受付嬢を比較してたのがバレたか!?


「えっと、依頼ではなく、登録をお願いしたいんですけど!」


 後ろを見るのが怖く、話を進める。


「え?ご登録ですか?みなさんで?」


「はい、そうですが?ダメですか?」


「い、いえ、ただ、冒険者はとても危険な仕事でして……」


 あぁ、要するに俺達みたいな弱そうな人には、勤まらないよと。


「大丈夫です、こう見えて、腕っぷしには自信ありますから」


「そ、そうですか?ですが…」


 受付嬢がまだ何か言いかけたが、それよりも先に、ギルド入り口の扉が勢い良く開き、騒ぎが起きる。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 勢い良く開かれた扉から入って来たのは、一組の冒険者。


「た、助けて、ケインが、ケインが!」


 見ると抱えられたケインと呼ばれた冒険者だろうか?が、血だらけの状態だった、うっ、グロい。


「ずいぶん酷いな」


「右腕は食い千切られていますね、さらに左の目は溶かされていますね、酸でしょうか?あぁ、どうやら良く見えませんが左足も砕かれているようです」


 クロノが律儀に状態を報告してくれる、あまり聞きたく無いんだけど。


「ひ、酷い状態……」


 俺達と話をしていた受付嬢が状態を診に行く、まぁ、これじゃあ話し処じゃないもんね。


「チッ……タクト様を差し置いて……」


 又しても、舌打ちが聴こえた!?その先は聴こえなかったが、まだ怒ってるのかな?


「は、早く、早くメグミさんに、メグミさんになら治せるでしょ!?」


 メグミさん?日本人名?それとも偶然か?とりあえず成り行きを見守る事に。


「……クレア、落ち着いて、まずは落ち着いて?」


「落ち着けるわけ無いでしょ!?いいから、メグミさんを呼んで!」


「クレア、今ギルド長は居ないの、王都に喚ばれて、今朝出発してしまったの……」


「そ、そんな……」


「な、なら、他に回復魔法が使える人は!?」


「……並の回復魔法では、治せないわ、それこそ、ギルド長みたいな英雄クラスじゃないと……」


「そ、それじゃ、ケインさんは、このまま……」


「いや、いやぁぁ、ケイン、ケイン、死んじゃいやぁぁ」


「あぁ、神様……」


「誰でもいい、誰か助けてくれ……」


 うん、中々に切迫した状態のようだ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

冒険者ギルドに飛び込んできたパーティー、現状を確認するとこんな感じ。


 仲間が重体、ギルド長に回復して欲しい!

         ↓

 でも、ギルド長は今居ない、直ぐには帰って来ない!

         ↓

 なら、他の人に頼もう、でも、こんな傷治せる人なんて居ない! 

         ↓

 さあ、この状態で俺達にできることは?


「無理ゲー」


 こんなの来て早々に発生する、イベントかよ?

俺って回復魔法使えるのかな?そもそもクラスって?など、分からない事が多すぎる。


 タクトが悩んでいる後ろでは、従者達がまたも小声で話し合いをしていた。


(どうしますかメロウ?ここは出直しますか?)


(タクト様に、そんな手間を煩わせる訳にはいきません)


(じゃあどうするの?中々終わりそうにないよ?)


(あの虫、しぶとい)


(そうですね、出来れば早く終わらせて、タクト様にはお休み頂きたいものです)


(じゃあ、止めさして来ようか?)


(お待ちなさい、それは慈悲深いタクト様が、お怒りに成るかもしれません)


(怒られるの、嫌)


(そうですね、では、仕方ありません、エニお願いできますか?)


(うん、タクト様の為、頑張る、がまん、する)


(いい子ですエニ、きっとタクト様も誉めてくださいますよ)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「タクト様、よろしいでしょうか?」


 どうするべきか、悩んでいると、後ろからメロウが話し掛けてきた、うっ、この状況で怒られるのかな?


「な、何かな?メロウ」


「僭越ながら、エニの力を使ってはどうかと」


「エニの?」


「はい、エニならあの程度の傷直ぐに治せます」


「治せるの!?」


 聴こえたらしい、クレアさんだっけが、こちらを見る。


「お願い、治せるなら早く!」


「図々しいですよ、人間……」


 早く治してと、叫ぶクレアさんに対して、メロウはひどく冷たい声で言う。


「な、何を……」


「対価も払わず、ただ助けろ等、図々しいとは、思いませんか?」


「お、お金なら払うわ!」


「その傷を治すのに見合う額を払えるの?」


「うっ、いや、それは……」


 明らかに治すなら、少なくない額を払わなければならないだろう、場所によっては全財産でも足りないかも知れない。


「待った、待ったメロウ、幾らなんでもムチャだろ」


「し、しかしタクト様」


「まぁ、まぁ、今回は冒険者成り立てサービスって事で、な?」


「畏まりました、慈悲深いタクト様に感謝しなさい人間」


「………」


 クレアさんはまだ何か言いたそうだが、その前にエニに回復させよう。


「エニ、頼めるかい?」


「わかった」


 エニが前に出て、両手をかざす、するとケインを中心に魔方陣が広がる。


「す、すごい、こんな術式見たことない」


「英雄クラス?ううん、それ以上の!?」


 やがて、ケインの体が光に包まれる、光は直ぐに収縮して、ケインの傷が消える。


「あ、あぁ、良かった、ケイン、ケイン」


「ん、終わった」


「偉いぞ、エニ」


 功労者のエニの頭を撫でてやる、嬉しそうに目を伏せ、もっとと催促するように頭を突き出す。


「あなた達すごいわ!さっきはごめんなさい、受付で疑うような事して……」


「いえ、いえ、いいんですよ、お役に立てて何よりです」


「直ぐに手続きをするから、待ってて?」


「はい、お願いします」


 受付嬢さんが、パタパタとカウンターの奥に消える、それと同時に、ギルドに居た少量の野次馬も解散し始める。


「……先程は助かったわ、ありがとう」


 ようやく落ち着いたのか、ケインをギルドの医務室に運ぶのを仲間に任せて、クレアさんがこちらに来る。


「いえ、いえ、治って良かったですね?」


「ええ、全て君達のお陰よ、名前を聞いても?」


「あ、はい、俺は……」


「待ちなさい!」


 名前を言いかけると、メロウが大きな声を出す。


「恐れ多くも、恩人に対して、先に名乗らせるのですか?」


「お、おい、メロウ」


「失礼したわ、その通りね、私はクレア、朱の鳥のメンバーよ」


「朱の鳥?」


「ええ、私達のパーティー名よ」


「へぇ、あ、俺はタクトです、冒険者登録をしに来てて、まだ冒険者じゃないですけど」


 苗字は念のため名乗らない、この世界で苗字はどんな扱いか分からないからな。


「そうだったの、ごめんなさい巻き込んでしまって」


「いえ、いえ」


「それで、お礼なんだけど……」


「気にしないで下さい」


「でも、それじゃ……」


「あ、なら、冒険者とか、ギルドについて聞いても良いですか?」


「え、ええ良いわよ」


こうして、受付嬢さんが戻るまで、クレアさんにいろいろ聞いて待つことにした。

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