2瞬目.

 一瞬。


 彼女が来たと思った。プレゼントを一応持って、扉を開ける。


 違った。


 見知らぬ小さい女の子。玄関先に、立っている。


「え、うわっ。なんですか」


 近い。こちらを見定めるような、目つき。


「あなたが、姉と一緒に登校している方ですか?」


「え、姉?」


「毎日、姉と一緒に登校して、いますよね?」


「あ、そうか。妹さんか。はい」


「いつも姉がお世話になっております」


「いえいえ。それにしてもいきなり」


「姉を泣かせると許さないですよ?」


「え」


「姉から聞きました。街中を女性と歩いていたと」


「あ、え?」


「私の姉は。ばかですけど。誰よりもやさしいんです。私にはもったいないぐらいに。いい人なんです。だから、振るなら振るで、ちゃんとしていただけないと、怒ります」


「あはは」


「わらいごとではない」


「かあさん。ちょっと来てよ」


「なあに?」


「おかあさまですか」


「あら。どうしたの?」


「一緒に歩いてた女性。母です。最近海外転勤から帰ってきました」


「は?」


「若いでしょ?」


「若いですね、たしかに。でも姉からは女子大生ぐらいだと」


「よく見てください」


 近いなあ。かあさんも退がらない。似た者同士かな。


「若い。たしかに女子大生ぐらいでも」


「うれしいけど、あなたのほうがお若いわよ」


「そうですね。姉が失礼をしました」


「いえいえ」


「教えてあげたら?」


「そうだね。これ」


 ポケットからプレゼントを出す。


「これ?」


「香水です。あなたのお姉さんに、プレゼントしようと思って」


「香水ですか」


「だめ、ですか?」


「だめですね。姉はばかなので、香水よりも、もっとこう、毎日使える手軽なやつがいいと思います」


「あら」


「そうか。だめか」


「髪留めなど、どうでしょうか?」


「そっか。髪留め。いいかも」


「あの。よければ、私が、一緒に行きますが」


「ほんとですか?」

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