資金力を活かして中ボスを仲間にする③

魔物セレスと俺は一定の距離を保って対峙していた。彼女が肩の上に掲げたハルベルトには、青白いオーラのようなものが発生している。


「セレスと言ったな。さっそくだけど俺と交渉を……」


「人間がなんのようか知らないが、ここに来た知らん奴は全て叩き壊す! わたしの使命はそれだけだ!」


興奮した様子のセレス。

俺の言葉が届いている様子はない。


「……おいおい、いきなり来るのか!?」


そして、セレスはハルベルトをその場で一振りすると、波動のようなものが発生した。


「真空破斬! 序の形!」


「待て! お願いだから待ってくれ!」


必死に止めようとしたがもう遅い。

ハルベルトから発せられた流線型の波動はあっという間に俺の方に向かってきた!


「やめろっ!!」


次の瞬間。


その波動が俺の身体を貫いていく感触がした。


遅れて熱を帯びた突風が皮膚を撫でていく。どうやら、俺は敵の攻撃をまともにくらってしまったのか。



「死んだ……か? 俺」



しかし、なおも俺の足はしっかりと地面を踏みしめていた。なんとか立っているらしい。その場で頬をつねってみるとちゃんと痛みを感じる。


「良かった……生きてるみたいだ」


「む……? さすがにこの程度では倒れんか?」


なんとか一命を取り留めていた俺。

一撃で倒せなかったのが不満なのか、セレスは眉間に皺を寄せていた。


助かったのも理由がある。もしものときに備えて、カーミアの保護魔法ミネルヴァガードに加え、アイテムとして買っていたバリアブルシールドを複数回重ねがけしていたのだ。


しかし、これだけの準備をしても魔物セレスの攻撃をゼロにすることは出来ないかもしれない。とカーミアには言われていたのも事実。


もしかしたらこれは牽制の攻撃で、魔物セレスにしてはジャブ程度の攻撃だったのかもしれない。偶然助かったに過ぎず、もしかしたら死んでいてもおかしくなかった。


「次は全力で行こう」


そう言って、もう一度ハルベルトを構えるセレス。次の攻撃を喰らえば今度こそあの世行きだ。チャンスは二度とやってこない。

俺は必死に語りかけることにする。


「待て待て! 俺は別にお前と戦いたい訳じゃない!」


手をブンブンと振り回して必死の無抵抗をアピールをする俺。ハルベルトを構えるセレスの動きが一瞬止まった。


「ならば、なにをしにきた?」


相手が聞く姿勢を見せている。

チャンスだ!

一気に叩き込むことにする。


「セレスのことを心配しにきたんだよ!」


「わ、わたしのことを……!?」


驚いたような表情を浮かべるセレス。

上級魔物として戦いの日々を送ってきたはずたが、身を案じられた機会はなかったのかもしれない。


「セレス。いつからここで見張りをやっているんだ?」


「いつからって……ここ数年間はずっとだが……」


「数年間も、休みもなく?」


「や、休みだと? そんなものはない! 人間との戦いに勝利するまで休みなどあるはずがない!」


「いや、いくらなんでも年中無休は無理があるだろ? 大変だなぁ。魔王にこき使われて。そういうの、こっちの世界ではブラック企業って言うんだよ」


「ぶ、ぶらっくきぎょう? なんだその言葉は?」


聞いたことのないワードに目を丸くするセレス。


「すまん、すまん。聞いたことないよな?」


「ああ……わたしは馬鹿だから。そういう言葉はよく知らないんだ……」


「要するに人をこき使う悪い奴ってことさ」


「……ま、魔王様がそんなこと! お前……さっきからわたしのことを惑わせて! 正体はシャーマンなのか?」


「いやいや、当たり前のことを言ってるだけさ。惜しいなぁ。もしセレスが俺たちについて来てくれれば完全週休二日制にするのに」


「ち、ちょっと待て! かんぜんしゅうきゅうふつかせいってなんだ?」


「7日間に2回、丸々の休みがあるのさ」


「そ、そんなにか? そんなに休めるのか? 休みすぎじゃないのか?」


「それだけ休めれば、やりたいこと色々できるだろうさ」


「やりたいこと……? わからない……そんなに休んだことがないから」


「それは自分の可能性を狭めてるってことになるなぁ」


「自分の……可能性」


さっきの威勢はどこにやら。シュンとした表情を浮かべて地面に視線を落とす彼女。


「どうだ? 魔王の元から離れて俺たちの仲間にならないか?」


「わたしが人間の一味に!? そんなこと考えたこともなかった……。しかし……魔王様を敵にすることはできない……」


「そんなに忠誠心でもあるのか?」


「い、いや……単に私は魔王様にお使えすることしか、生き方を知らないだけだ」


セレスに迷いの色が出てきた。

汗を大量に流し、既に武器のハルベルトは地面に落としてしまっている。


よし、もう一押しだ。

そろそろ奥の手を出すとしよう。


「もし仲間になってくれるのなら。これはお近づきの印だよ」


「こ、これは!?」


俺は彼女の前に数個の宝玉(ガラス玉)を差し出した。

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