『グレインズのダンジョン』【4】
「ふん、貴様らが強くなったところで我をどうこうなど出来るものか! そもそも我はこの世界の神により呼び出されたのだ。その点では勇者、貴様と同じよ」
「え?」
そういえばそうだったな。
魔王ステルスをこの世界に呼び出したのは、この世界の神。
魔王は基本的に、その世界の神によって呼び出されるものらしい。
主な目的は人間を間引く事。
けれど、聖剣や勇者、『神託』も与えているし……うーん、本当に神の真意が分からない。
「とにかく師匠の待つボス部屋に行こう。正直このままはつらい」
「あ、そうね。愛夏様とロニ様とサカズキ様、タニアは真ん中。私とライズが前衛。ヨルド様とステルスは背後をお願い。『グレインズのダンジョン』は推奨レベルが50以上。この中でまともに戦えるのは、私とライズとヨルド様、そしてステルスくらいですから」
「はい、分かりました」
セレーナの提案を、アイカ殿はあっさり受け入れてくれた。
ユイ殿はなにかにつけてセレーナを責め立てていたからなぁ。
なんか、逆に変な感じがする。
「おい」
「なんだ」
では行くぞ、という時にヨルドが話しかけてきた。
お前は後方だろうが。
「お前たちの、あの『師匠』は何者なんだ? 只者ではないだろう?」
「ああ、あの人は王獣種という魔王よりも神に近い生き物だよ。お前が師匠に喧嘩を売った時は『終わったな』と思った」
「…………」
そんなわけでヨルドが見た事もない顔になったのを見届けてから、いよいよダンジョン内部に入った。
両手の違和感はずっと拭えず、しかし魔物は次から次に現れる。
それも、おそらく師匠がそのそこ強化している……!
「ライズ、気づいてる?」
「ああ……『エリアブースト』だな」
「エリアブースト?」
ダンジョン序盤。
弓使いのサカズキが眉を寄せて聞き返してきた。
エリアブーストとは、術者を中心にエリアを作り、その中の生き物に強化を与える魔法。
なお、師匠のやる事なので器用に人間は除外されている模様。
その代わりブーストの影響をもろに受けた魔王ステルスがさっきからテンション高らかに「見たか小娘、我が力を!」とタニアに向けてドヤっている。
タニアも素直な子なので「すてるす、すごい! もっとやって!」と褒めるので、後方は大変安全地帯となっているようだ。
それはともかく、エリアブーストの効果で魔物がステータスアップしている。
シンプルな底上げだが、これがまたキッツイ。
正直ステルスがいないと、前衛がヨルドを含めた三人でもキツい。
ヨルドはこの辺りの推奨レベルジャストなので、すでに息切れしている。
「……お、お前らの師匠、クソ野郎すぎないかっ……!」
「やめろ、聞こえるぞ」
「そうですわ。師匠の耳は私たちの何倍もいいんですよ、ヨルド様」
「まあ、聞こえていたら即座にメギドランスが飛んでくるけどな」
「ああ……あの空間転送魔法とセットのやつね……アレは、本当に…………うん……」
「ああ……」
「な、なっ……なんか言えよー!?」
忘れよう。
あの恐怖は、二度とごめんだ……。
「? すてるす、どうした?」
「おい、この中の……誰も感じぬか?」
「え?」
恐怖を再び封印していると、ステルスが天井を見上げた。
『グレインズ』は巨大な洞窟型のダンジョンだが、『ククル』のように地下へ降りるのではなく山の中を登るように少しずつ上へ向かう。
薄い水色の岩肌がほんのり光っていて、洞窟内の見晴らしはとてもいいのだが、コウモリ系の魔物が多いため守りながら戦うのはとても難しい。
そんな中、ステルスが見上げた天井を俺たちも見上げる。
おかしい、天井の岩に、不自然な光が走っていく。
「魔力、か?」
「我の城の魔力だ。間違いない」
「!」
魔王の城の魔力?
それは、つまり——。
「異界の魔力、という事か? なぜそんなものが……」
「このダンジョンを侵食しているように見える。我以外が城の魔力を扱えるとは、忌々しいが……心当たりがないわけでもないならな」
「……ダーダンか?」
「然り」
ここに来て、またダーダン。
セレーナの言うゲーム中にも出てくる奴だったはずだ。
アマード氏が
元々『魔王の城』に続く空間は、『グレインズ』にしかない。
それが、広がっている……?
「師匠は、まさか……」
「この事を分かっていて、私たちをここへ? けど、愛夏様たちは?」
「分からない。偶然、とは、思うが……」
ヨルドの話では、ヨルドがここへレベリングに来ようと提案したような事を言っていたし。
しかし、このタイミングでこの場に勇者——あと魔王——がいるのは、些か都合が良いようにも思う。
「とにかく進もう」
「そうね」
「……っ」
進むにつれ、空気が重くなる。
これは、魔王の城の魔力。
この世界のものではなく、体に合わない。
師匠曰く、異世界の魔力とはその世界特有のものが多いという。
それはその世界の核たる神が、別物だから。
師匠のような特殊生物や魔王族などは個々がその固有魔力を持っていたり、その世界の魔力に即座に対応したりと、やはりとんでもない。
ステルスも、こんなだが——タニアを肩車してキャッキャとはしゃいで片手で魔物を吹っ飛ばしている——やはり魔王という事か。
その魔力に侵食されているせいで、俺たちは明らかにステータスダウンしている。
体が重く、動きづらい。
以前来た時にはこんな事にはならなかったのに。
「おい! アレはボス部屋か!?」
ヨルドが指差した先には階段があり、一際高い天井の広場がある。
その先に『魔王の城』へ続く空間の入り口があるのだ。
セレーナと頷き合い、階段を駆け上がった。
「!」
そこにいたのは師匠……と、人型の魔物だ。
黒い無数の剣にがんじがらめにされてうめいている。
「ダーダンではないか。ハハ! 愚かにも王獣種に喧嘩でも売ったのか」
アレがダーダンなのか。
というか、ステルスは自分の部下だろうになにをらっているんだ。
嘲笑うところか? ここ。
「ま、魔王様……ご、ご健在で……」
「無論だ! …………。まあ、色々あった」
間が、なんとも言えないな。
セレーナに封印されてから、ステルスは確かに様々な事があっただろう。
師匠に預けたあと、どういう生活を送っていたのかは分からないが……イヅル様も一緒だったしきっと平和すぎてイライラしっぱなしだったんだろうな。
まあ、奴がイライラしたところで世界が平和ならそれでいいだろうが。
「それで、ダーダンよ。なぜ城の魔力がこのダンジョンに流れ込んでいるのだ? お前が行っている事なのだろう?」
「は、はい、魔王様が不在となって一年近く……城の魔物たちも不安がっておりましたので……僭越ながら魔王様に代わり不肖このダーダンが、この世界へ侵攻を再開致しました。し、しかし、突然この者が現れて……! お、お助けください、魔王様!」
「ふ、ふむ……」
偉そうな感じを保とうとしているが、師匠がニコニコ微笑んでいるのを見ただけで顔を背けている。
うん、とても分かるぞ。
ダーダンを絡めているあの黒剣は、すべて師匠の黒炎能力により具現化しているものだろう。
師匠の扱う黒い炎……幻獣ケルベロス族が扱う神という概念を殺す力には、一体につき一つだけ個々を表す能力を持つそうだ。
師匠の場合は『剣』。
炎で作られた、実体剣。
一本一本が神を殺す力を持つ……魔王といえど——いや、魔王だからこそ、触れるとまずいはず。
なので師匠はずっとニコニコしている。
ステルスに対する「やれるもんならやってみ?」である。
「師匠、呪いを解いてもらえませんか」
「え。……セレーナに解呪を覚えさせようと思ったんじゃが、覚えないままここまで来たのか。いっそ清々しいのう」
「えっ」
衝撃の真実。
でも呪いは解いてもらえた。
良かった。
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