『賢者の森』再び【前編】


「レルム!」

『はい!』


 胸の中に隠れていたレルムを町の外に出て元の姿に戻す。

 だが、乗る前に魔法石を入り口に穴を掘って埋めて……結界を張って完成。


「さあ、行くぞ。場所は『賢者の森』だ!」

『はい! 行きますよー』


 レルムの飛翔、約一時間で『賢者の森』に到着。

 イヅル様の家に向かって走ろうとした時、地鳴りが起こる。


『え? え? な、なんですか!?』

「地震?」


 ゴゴゴゴゴゴ、と小刻みに地面が揺れて気味の悪い鳴き声も聞こえるような……?

 まさか、スタンピード?

 このタイミングで……!?


「勇者召喚で魔物どもがはしゃいでおるわ」

「師匠! 俺が対処して——」

「よい。あの程度向かうまでもないわ。たまに自分でやらねば腕も鈍るしのう」


 木の上に、音もなく降り立った師匠を見上げる。

 相変わらず気配も感じない。

 師匠の指先に黒い炎が灯る。

 その灯った黒い炎に、師匠が息を吹きかけただ。

 俺のサーチ魔法に入った魔物の群れは、大小合わせて数百近い。

 それが一瞬で吹き飛んだ。

 感知した途端にロストする。

 一際大きな地響きがして、危うく地面に膝を下りそうになった。

 タニアが俺の膝にしがみついてきたので、なんとか踏みとどまったけれど……。


「っ……」

『な、な、な、な、なにが起きたのですか……!?』

「魔物が……消えた……すべて……!」

『ええっ!?』


 あれだけで……?

 たった、あれだけの動作であの数を?

 一瞬で?


「……っ遠視!」


 遠くを見通す魔法。

 索敵の時に使える、と教わったそれで見たのは、縦長にえぐれた大地。

 所々に煙が舞い上がり、魔物の死体が転がっている。

 なにが起きたのか、おそらく魔物たちにもよく分かっていないだろう。


「……一体なにを……どうやって……」

「儂の黒炎能力は『剣』だから、ちと大地ごとえぐっただけじゃよ。やりすぎるとこの惑星ごと壊してしまうから手加減が大変じゃが……だからこそたまに使わねば

「……っ」


 ほんの、あれっぽっちの力で……。


『い、一体本気でやったら……どうなってしまうんだ……』

「ハハハ。こんな若い惑星ほし、儂の戯れで割れてしまうよ。で、なにか動きでもあったのか? 異界の裂け目が出来たり閉じたり、また出来たり……忙しないのう? 魔法石を埋め終えたのか?」

「あ、は、はい! あ、いえ、魔法石は、まだすべては終わっていないのですが……それが、あの…… 八大型主町エークルーズの一部の長たちが多嵐デッド・タイフーンの事を知って緊急八大主町会議ルーズ・アルディッドを開きたいと言ってくれました。なので、イヅル様と師匠にも、同席願えないものかと……」

「うんん? イヅルはともかく、儂も? 儂、この世界の者ではないから行かんよ。ステルスを放っておくわけにもいかんしな」

「う……」


 そう言われると、確かにステルスを一人にしておくのには不安がある。

 それに、師匠の事を 八大型主町エークルーズの長たちに説明するのも……どう説明したらいいものか。


「儂がこの世界に来たのは勇者じゃよ。勇者が『勇者足り得る』かどうか。それを見に来た。……この世界に平和をもたらすものでないのなら、始末するのも致し方なしと思ったが……」

「……あ……ユイ殿は元の世界に戻られました。聖剣が彼女を帰還させた、のだと思います……」

「ふむ……先日開いた時かな? で、今日開いたのは新しい勇者が召喚されたからか?」

「はい」


 さ、さすが師匠。

 すべてお見通し……!


「次の勇者はどんな感じだろうな?」

「すみません、俺もまだ会っていなくて……」

「そうか。ダメそうなら教えておくれ」

「は、はい」


 優しく微笑んでいるが、目が笑っていない。

 師匠はこの世界に『勇者』を見定めに来ている。

 勇者が勇者足り得るのならば、それでよし。

 もし勇者らしからぬ者ならば——……。


「そういえば……そのわらべはお主とセレーナの子か? 人は本当に増えるのが早いのう」

「ち、違います! この子は魔物の群れに育てられていた子です! ……あのままにしておけなくて、保護しました。タニア、と名を与えています」

「ほう、魔物に育てられた子か。……たまにそういうのがおるのは知っているが……ほうほう」


 地面に降りて、タニアを覗き込む。

 身長が、あんまり変わらないなぁ。

 いや、師匠は見た目で判断してはいけない。

 穏やかな人ではあるが、本当にこの惑星を滅ぼすのに一息だろう。

 俺の鑑定でもレベルエラーになっている。

 この世界の枠に、収まらないのだ。

 タニアもそれを察してから俺の足の裏に回り込む。

 俺を盾にしたところで師匠がその気になれば俺ごと……い、いや、そんな事はさすがにしないだろうけれど、多分。


「怖がらずともよいぞ。我らケルベロス種は弱い者に手をあげる事はない。弱い者いじめは弱い者がやる事だからなぁ」

「…………」

「お、そうだそうだ。先程狩った魔物を処理しておこう。イヅルが鶏肉ばかりでは飽きると言っておったが、セレーナが教えてくれた調理法なら色々な食べ方が出来る。……セレーナが手を加えなければ誰も死ぬ事はあるまい」

「耐毒があれば基本死にませんよ?」

「お主真面目にそれ言っとる?」

「え? はい」

「頭イカれとるわお主」


 ええ……解せぬ……。

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