『アマードのストラスト』【中編】
そんな微笑ましい食事を摂ったあと、宿を探そうとレストランから出た。
その時だ。
「これはこれは、『剣聖』ライズ様と『聖女』セレーナ様。ようこそ我が『ストラスト』へようこそお越しくださいました」
「「!」」
「私を覚えておいででしょうか?
「……え、ええ……もちろん」
セレーナが少し緊張したように答える。
それでもちゃんと笑みを保っているあたり、さすがだ。
……この男、アマードを前に……。
「なにかご用でしょうか?」
セレーナの前に立ち、遮ってしまったが……少し声が低く、威圧するようになってしまったのは仕方ないと思う。
この男が原因で、ゲームの中のセレーナは勇者にパーティーから追放されてしまうのだ。
もちろん、とうに離脱している俺とセレーナは、そのストーリーには沿わないが。
それでも目の前にこの男がいるのは、気分がいいものではない。
「はい、とても……これはもはや運命的とさえ思う……お話がございます。宿をお探しなら、どうか我が屋敷にお越しください。そちらで『依頼』をしたい。
「「…………」」
顔を見合わせる。
俺たちが冒険者に戻っている事は、すでに知られているらしい。
別な依頼を受けているからと言っても、相手は
俺たちが断っても、他の冒険者を雇うだろう。
この男の依頼の先に戦うのは……ビックゾンビドラゴン。
一介の冒険者では、危険すぎる魔物だ。
「……分かりました。話を聞くだけなら」
「ああ! 良かった! 助かります! さあ、どうぞどうぞ、こちらです!」
生き生きして俺たちを案内するアマード。
やはり腹の底が透けて見えるような笑顔で、不快感が先立つ。
案の定石で出来た豪邸に通され、応接間らしい部屋に入るなり「実はですね」と早速切り出してきた『依頼内容』はやはりアレだった。
「大型結界石が見つかったのです。しかし、その大型結界石はドラゴンの巣の中! お願い致します、どうかお二人のお力で、大型結界石をこの町に持ってきてはくださいませんか? それがあれば、結界の範囲を広げ、より豊かな土地に我が領地が届くかもしれないのです!」
「「…………」」
俺とセレーナはまた、お互いの顔を見合わせる。
聞いていた話通りなのだが、いざ『ストラスト』を見たあとだと……これは、確かに、と思ってしまう。
食の都『フォブル』と、水と木々の都『ドラドニエン』のあとだと、やはりこの町は豊かそうには見えないのだ。
レストランにあったメニューもヘビだの砂ウオだの、他の町に比べてとても品数が少なくシンプルなものばかり。
「……大型結界石なんて……どうやってもってこいというのか」
そう、それが問題なのだ。
大型結界石は、
順番が違う。
大型結界石が、そこにあった、が先なのだ!
それにこの男はすでに一つ嘘をついている。
巣の魔物を『ドラゴン』と語った。
俺がセレーナから聞いている魔物は『ビックゾンビドラゴン』。
この二種は同じドラゴンだがまったくの別物!
対処方法が異なるばかりか、俺とセレーナだけに依頼するような魔物ではない!
人数を集め、討伐隊が組まれるレベルの魔物だ。
……まあ、正直に言えば俺とセレーナでもなんとかなるだろう。
ドラゴンは魔王よりは弱いはずだから。
だが……。
「確かに……五百年ほど前ならば、大型結界石を動かす技術はありませんでした。なにより、大型結界石はその他に根を張る石と言われていますからね」
「で、ですよね? そんなもの、持ってくる事なんて出来ませんよね?」
「しかし、最近の研究でこれを使えば大型結界石であろうとも、動かす事が出来ると分かったのです!」
「!」
「こ、これは……」
「うー?」
アマードがテーブルに差し出してきたものを、タニアが興味深そうにして触ろうとするから思わず抱き上げる。
大型結界石を動かせるもの、というからなんだろうと思ったら、そこに差し出されたのは魔石……。
魔石はどんな効果を持つか分からない。
タニア、勝手に触るんじゃありません。
「なんですか、それ」
「見ていてください」
そう言って、アマードは魔石に魔力を与える。
すると魔石は鏡になった。
……変化の鏡? いや、しかしそんなもので大型結界石をどうにかするなんて……。
「もう一つ」
「?」
もう一つ、アマードは同じ魔石を取り出して起動させる。
現れたのは同じく手鏡。
一体そんなものでなにを……。
「これをこう、合わせると……合わせ鏡となります」
「あ、ああ……」
「魔石の合わせ鏡で映したものは、魔力が無限の世界に吸われ、一時的に魔力を失うと分かったのです。大型結界石が一時魔力を失っている間に、ライズ様がお持ちの『空間魔法』で大型結界石を収納して頂ければ……」
「!」
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