衝動

 僕は彼女のことが好きだ。うん、それは確信を持って言える。

 健全な恋だったことだろう。会話をするだけでドキドキしたし、手を繋ぎたくてたまらなかった。

 だから、いきなり告白まではできなかったけれど、遊びに誘った。2人きり、は高望みだろうと思っていたのに、彼女の方から2人で、という提案をされた。ふたつ返事で頷いた。

 そういうわけで、当日。雑貨を見たり、食事をとったりしたあとで、広い公園を見つけて。

 ――僕は彼女の首を絞めている。

 ベンチに腰掛けて話しているとき、ふと彼女の首に目がいったのだ。ほどよく日焼けをした健康的な、けれど女の子らしく細く綺麗なそれ。控えめなペンダントのかけられたそこから、視線が離せなくなった。

 楽しそうに言葉を発するたびに微かに動いている。気づけばそこへ手が伸びていた。

 簡単に手が回って、やっぱり細いなあなんて実感。驚いて抵抗をされたが、そこは男女の差がある、僕の手から逃れるには至らない。途切れ途切れに叫ばれもしたが、周りには誰もいなかった。

 押し倒して、上に乗る。彼女の腕が振り回されて危なかったから、膝で押さえつけた。

 段々と顔が赤くなってゆく。かわいい。

 固く瞑られた目の端から涙の粒がこぼれる。かわいい。

 抵抗する力も、もともと弱かったものがさらに弱くなってゆく。すごくかわいい。

 なんてかわいいのだろう。いつまでだって見ていられそうだ。

 ふと、彼女の目が薄く開いた。もうその焦点は合っていなくて、でも僕を見ようとしていることはなんとなく伝わってきた。そんな仕草さえも僕を幸福にする。あぁ、この子を好きになれてよかった。

 光のぼやけ始めた目で僕を見つめながら、彼女は何か言おうとしているようだった。声など出ず、唇も震えるようにしか動いていない彼女の口を見て、その言葉を推測してみる。

「なんで……」

 と、そう言いたいようだ。

 なんでって、なんで? 何を疑問に思うことがある? 僕は君を好きだから、だから……、

 だからなんだというのだろう。

 考えたら、力が緩んでしまったらしい。彼女が僕の下でもがいた拍子に、バランスを崩してベンチから転げ落ちてしまった。

 肩を強かに打ち付けて痛かったけれど、それどころではない。地面に身を横たえたまま自分の両手を見つめた。

 何をしたのだ、僕は。どうしてあんなことを。

 うぅ……、と彼女のうめき声。そちらを見れば、喉を抑えて何度も何度も咳き込んでいる。体を起こしながら、ぽろぽろといくつも涙を落としていた。

 慌てて起き上がって、どうしたらいいのか分からないまま、とにかく口を開く。

「ご、ごめん……っ」

 謝ればいいという問題ではないのだろうが、それ以外の言葉が思いつかない。自分でも自分の行為に理解が追いついていないのだ、今僕は、何を言えばいい?

 まだ呼吸の落ち着いていない彼女は僕の謝罪に視線を向けてきただけだった。絶対に怒っているだろうと思ったから、目を合わせられずにいたら、ぽん、と僕の頭に彼女の手がのせられた。

 驚きのあまり、反射的に目がそちらを向く。

 彼女は、力なくとも笑っていた。

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