独占欲(恋情ではない)
「お前、わたしのこと好きでしょ」
出し抜けに、ヤツにそう言ってやったら、面白いくらいにその顔が赤くなった。
ボッチのくせに、勉強もスポーツも大してできないくせに、その上根暗なくせに、恋だけはいっちょまえにしやがるらしい。それも、このわたしに。
不釣り合いだ、とは思わないのだろうか。
わたしは自分のこと、それなりにかわいい部類だと思っているし、告白されたことだってたくさんある。付き合った人数だって自慢できるほどだし現に今、かなりかっこいい彼氏だっているのだ。そんなわたしに好意を抱くことに抵抗はないのだろうか。
まぁ、まぁ。夢を見るのは自由だし、恋は落ちるものだって言うし? 仕方ないかなって思う部分もなくはない。それくらいの理解力だったらこんなやつにでも発揮できる。ストーキングされたわけでもないことだし、恋人のいる相手だというだけで諦めなかった、という所も、見ようによっちゃあ好感を持てる、かもしれない。
だからといって、私がヤツにときめくかと言えば、別にそんなことはないけれど。
ヤツはわたしの言葉に、馬鹿みたいに狼狽えて、あわあわと目を泳がせる。周りに誰がいるわけでもないのに、例えいたとしても誰もヤツのことなんか見向きもしないだろうに、助けを求めるみたいにあっちこっちを見てなかなか答えない。
……なんかイライラしてきたな。こっちは質問してんだっつの。あー、なんでこんなやつに話しかけちゃったのかなぁ。
なんでかといえば大した理由もなく、ちょっとした出来心だったわけだが、それに早くも後悔をし始めていたら、いつの間にかヤツがこちらを真っ直ぐに見ていた。その表情には若干の怯えが見て取れて、もしかしたらイライラが顔に出てしまっていたのかもしれない。
それはさておき、さっきまでのオロオロはどこへ消えたのか。見つめられると、それはそれでムカツク。
その上、小さく頷いたと思ったら、
「ごめん、好きだよ」
目を逸らしもせずにそんなことを言う。
どうして謝るのか、謝るのならどうして頷くのか。どうせ否定して逃げ出すのだろうから、その背中を指さしてゲラゲラと笑ってやるつもりだったのに。そうしてあとでウワサにでも流して、ボッチをさらにボッチにさせてやろうと思っていたのに。これじゃあ、あとに引けない。「冗談だし」なんて誤魔化したら、わたしが負けたみたいじゃん。
ムカツク。こんなやつがわたしに告白するとか、分不相応だ。だいたい調子に乗ってる、ボッチのくせに知らない女の子とお喋りしてデレデレしやがって。
「ふぅん。それなら、さ」
お前みたいなやつが告白したんだから、付き合ってなんかやらないけどそれなりの責任はとるべきだ。
一回鼻で笑ってやれば、ヤツはびくっと肩を震わせて顔を伏せる。やっぱり軟弱な人間だ、こんなのにときめくなんてありえない。こんなやつを好きになる女の子なんているの?
そう思いながら口にする。
「キスしてあげるから、お前はもう、わたし以外と話したらダメ」
どうせ誰からも好かれないのだから、それだってなんの問題もないでしょう?
ヤツは驚いたような顔をして、曖昧に笑って、それから小さく、けれどはっきりと頷いた。
やーい、お前はこれでずっとボッチだ。寂しい人生を送るがいいさ。
内心でそう笑いながらも、そっと目を閉じた。
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