演劇

春嵐

第1話

 先生不在の、ホームルーム。


 学校の出し物で、演劇をやることになった。


 クラスメイトに二人いる、俳優でモデルの男子生徒を、全面に押し出す企画。


「ねえ、たかが高校の出し物だよ。やめようよ。ふたりにわるいよ」


 と発言したら、クラスの女子生徒全員に睨み付けられた。それ以上何も言えなくなって、席に座り直す。


 そこからは、もうどうしようもなかった。


 脚本を、押し付けられる。圧倒的な女子生徒票。


 二人とも、いないのに。俳優でモデルの、二人。ひとりは私の幼馴染みで、もうひとりは、私の好きなひと。


 出し物の全権は脚本の私、ということになった。二人への出演交渉も、私の仕事ということにされる。女子生徒たち。さっきの発言をする前から、こうする予定、だったらしい。


 ホームルームが終わった。女子生徒が、着替えのために外に出ていく。


 かわりに、男子生徒が集まってくる。


 口々に、やりかたがきたないだの、これじゃ私がかわいそうだの、言ってくれる。


「ありがとう。ありがとう。着替えだから。出てくから」


 男子生徒は、私にやさしい。それも、女子生徒の気に障るらしかった。


「え、どしたんだ?」


 私の幼馴染み。教室に入ってくる。


 男子生徒がみんなで大挙して、彼に事情を説明している。


「それは、ひっでえな」


 彼。私の席の前まで来て。


「ここで着替えろよ。女子更衣室に今行くのは、なんかまずい気がする」


「いやでも、それじゃみんなが」


「俺たちが急いで着替えればいいだけだから。行くぞみんな。屋上で時間つぶそうぜ。今度の映画の裏話がある」


 彼が、みんなを連れて教室を出ていった。


 涙が出そうになったけど、耐えた。ここで泣いたら、たぶん、これからもずっと、耐えられなくなる。


 急いで着替えて、屋上に向かった。


「ありがとうございました」


 屋上を開けて、叫ぶ。


「うおお。わかったわかった」


 彼。みんなを連れて、教室に戻っていく。


 彼には、感謝しても、しきれなかった。


 彼だけ。なぜか私のもとに戻ってきて。


「ねえちゃん先生に話を通しておいたから」


 私のクラスの担任。異常な若さから、ねえちゃん先生と呼ばれていた。どこかでモデルもやっているらしい。担任なのに、よく学校からいなくなる。その間は、彼と私の好きなひとのふたりが、クラスをまとめていた。


 体育の授業に、女子は来なかった。


 男子全員と、女子私ひとり。サッカー。


 彼が、私と組んでくれた。パスを練習をして、試合。私は、試合を辞退して、横で見てた。


 彼の動き。機敏で、豪快で、うまい。シュートが決まった。拍手が上がる。


 体育の授業が終わった。


「どこで着替えよう」


 呟いた。


「お前だけ教室行っとけ。さっきと同じだ」


 呟きを、彼に聞かれてしまった。


「でも」


「はいダッシュ。時間ないよお」


 急いで走った。体育の授業のときよりも走った。急いで着替える。


 そして、もう一度走ってグラウンドに戻る。


 彼と、男子生徒。まだサッカーをしている。


 彼と男子生徒の優しさが、うれしいけど、つらかった。


 ここに、私の好きなひとはいない。

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