『ハルマゲドン・カウンターが止まらない!? ~このままだと1ヵ月で滅ぶ異世界だけど、能力【希望∞】で回避してみせる!』

たいら由宇

第1話 俺、異世界に転移させられる


 ――グアアアアァーッ!


 トカゲだ。でっかいトカゲだ。

 トラックくらい大きな巨大トカゲだ。


「うわああああぁーっ!」


 俺、悲鳴だけタメ張ってる。


 そんなこと考えてる場合じゃない!

 食われてしまう~!


(すぐ魔法玉を使って――)


 なんか聞こえた。

 でも、いまはそれどころじゃ……。


 ――ゴオッ!


 トカゲが火吐いたー!

 絶対、こいつトカゲじゃない!

 逃げる、ともかく逃げるー!


 気がつくと、俺のまわりを凄い数の魔物が走りぬけてる。

 前も後も右も左も、魔物、魔物、ぜんぶ魔物!

 どうしてこうなったー!


「く、来るなー! あっち、行けー!!」


 持っていた革鞄をふりまわす。

 鞄が開き、中からガラス玉みたいなのが飛びでた。


「うわ―――っ!!!」


 ――キュバッ!!


 すぐ近くで大爆発。

 目の前、真っ白。

 つぎの瞬間、なにもわからなくなった。





「死んだ?」


 俺、背を丸めて地面にうずくまってる。

 あれだけの大爆発だったんだ。死なないほうがおかしい。


 せっかくまでしたのに、もう死んじゃった?


 異世界ここにくる前は、モテないコミュ障36歳だった。

 それがやっと、18歳のちょいイイ男にイメチェンできたってのに……。


『ねえ春都はると君、素敵な自分にキャラメイクできるよ。チートスキル欲しいよね? あげるよ! とっておきの【希望】の力も。だから……!!』


 女神のあまい言葉にゃ毒がある。

 そんなことネット小説で知ってたのに、ついその気になってもうた。

 しかも転移してすぐ死んじゃったら、意味なくない?


「魔物以外、だれも死んでいない」


 すぐそばで声がした。

 体がビクッと震える。俺、すっごく臆病。


 あ……巨大トカゲに襲われてるとき、聞いた声だ!

 ほとんど感情のこもっていない、人工音声のような女の声。


「だ、だれ!?」


 おそるおそる顔をあげる。

 黒いエナメルの靴が見える。


 視線をあげていくにつれて、白いソックスに包まれた細い足、くりっとかわいい膝小僧、膝のすこし上にフリルのついたスカートの裾が見えてくる。


 小さい女の子だ。

 だいたい11歳か12歳くらい。


 不思議の国のアリスみたいな服を着てる。

 ただし、前掛けエプロンについてるポッケがすごく大きい。


 お腹あたりの真ん中に、大きなポッケ。

 それがアクセントになってる。


「ボクはナビ。天界を管理する者の一部。案内役ナビゲーターとして地上におりた」

「……天界の人?」


 どうやら恐い存在じゃないみたい。

 そう思って、ゆっくりと立ちあがる。


「……あ、ああっ! バケモノは!?」


 思いだした。

 たしか絶体絶命だったはず……。

 話すのがすごく苦手だから、うまく言葉が出てこない。


「魔物はで殲滅された。さすが春都、やることが違う」


「………俺、なんか、した?」


「討伐総数1934匹。土竜グランドドラゴンが2匹いた。古代遺跡のダンジョンが魔物暴走スタンピードを引きおこしたせい。アナベルの町が壊滅するところだった」


「いや、それ、爆発で勝手に……」


「言ったはず。魔法玉を使えって。ボクが鞄の中に魔法玉を入れた」


「………?」


「クリスタルの玉。春都は鞄をふりまわした。それで玉が外に出て起爆した」


 あ、思いだした。

 鞄をふりまわした時、なんか玉みたいなのが散らばったんだ。


「あの玉は天界システムが用意した救済策。地上に転移した春都を守るためのもの。でも、まさか、ぜんぶいっぺんに使うとは」


「………」


 そう言われても、あんな状況で冷静に忠告なんて聞けるか。


「本来、魔法玉はボクが使うもの。でも今回だけは春都が使えるようにした。なぜなら春都を強くするため。結果、春都のレベルが1から100へ上がった。ステータスをみて」


「……ステータス?」


 かるい振動音とともに、目の前の空間にウインドウが開く。



 氏名・種族 神崎春都 18歳(ハイヒューマン)

 職業 魔剣士


 レベル 100

 ステータスポイント 2400


 HP 388600

 MP 454500

 物理攻撃 11950 物理防御 10430

 魔法攻撃 11200 魔法防御 12340

  素早さ 3250 知力 2840

   幸運 5690 器用 2640

   希望 ∞


 生活魔法 種火/飲料水/微風/泥煉瓦/清浄/防音/灯光


 専門魔法1 火弾1/風刀1/石弾1

 専門魔法2 大炎球1/殲爆1/鋼槍1/極光1

       大治癒1/大回復1

 専門魔法3 火炎散弾1/大旋風1/重力自在1

       破壊防止1/切断強化1/邪気防御1

 専門魔法4 魔法障壁1/物理障壁1

 専門魔法5 多重防壁1/魔法盾1

 専門魔法6 轟雷爆撃1/隕石落下1/大竜巻1/岩石爆流1

       天の裁き1/障壁天蓋1

 専門魔法7 竜神炎息1/影隠密1

 専門魔法8 轟天爆雷1/猫ころがし1

 専門魔法9 荷電粒子砲1/記憶改変1

専門魔法10 流星雨1/大洪水1/樹林襲来1/殲滅フレア1

       魔法反射1/物理反射1


武器付与魔法 熱炎1/氷結1/乱撃1/空斬1/破防1/切断1

       爆砕1/質量1/硬化1/貫通1/強速1/硬化1/破砕1


防具付与魔法 硬化1/破壊不可1/重量減1/慣性減1


一般スキル 剣術皆伝1

      精密探索1/精密鑑定1/精密抽出1

      究極整体1/瞬間加速1

      錬金師匠1/木工師匠1/彫金師匠1/織物師匠1/料理師匠1


特殊スキル 眷属召喚/隷属

      女神の加護1 空間転移1/能力擬装1/完全隠蔽1


パッシブ別枠 HP漸次回復1/MP漸次回復1

       身体強化5倍1/魔法強化5倍1


       スキルポイント3倍

       経験値獲得10倍/必要経験値10分の1

       無制限空間収納/言語理解(全自動、翻訳/記述)



「な、な、な、なに、コレ!」


 レベル100はともかく、魔法とかスキルが凄すぎる。

 いや、まて。

 もしかすると、この世界じゃこれが普通?


「れ、レベル100って、強い?」


 つい気になって口にでる。


「伝説の勇者が魔王を倒した時、105」


「………」


 言葉がないとは、この事。

 予想以上にチートだった。


「あ、あ、あの……」


「はい?」


 かわいい女の子を前にすると、顔が真っ赤になる。

 まともにしゃべれなくなる。


 理想的な肉体をメイクできても、中の人がこれじゃ台無しだ。

 そう思って、思いきって聞いてみる。


「……き、君、な、ナビって、いうの?」


「うん」


「さ、さっき、天界を管理する者って、い、言ったよね?」

「うん」


「だったら……もう、ひとつ、お願い、聞いて!」


「ボクにできることなら」


「ホント? お、俺のコミュ障、なんとか、ならない?」


 ここまで言うのに、全精力の9割を消費した。

 本来なら天界にいる時、女神にお願いするべきだったんだろうけど、あの時は女神の誘いにうなずくので精一杯だったんだ。


 真剣さが伝わったのか……。

 ナビと名乗った美少女は、すこし小首をかしげて考えている。


 やがて胸元にある大きなポッケから、ピンク色のクリスタル玉をとりだした。


「……雄弁玉」


 ぽいっと俺のほうへ放りなげる。

 なんか太った某猫型ロボットみたい。


「う、わ……!」


 思わずのけぞる。

 あの大爆発した玉に似ていたからだ。


「心配いらない」


 玉はあたる直前、まばゆいピンク色の光をはなって消えた。


「これで普通くらいになった」


「えっ、もういいの? あれ……思ったことがすんなり言える!」


「雄弁玉をつかうと、思ったことを適確に言えるようになる。雄弁になると自分に自信がついてくる。だから


「うまく話せるようになっただけでも嬉しいのに、そんな作用まで……ありがとう!」


「……春都」


 ナビが、なにか言いたそうに見あげている。


「ん?」


「ボクは春都の役にたった。御褒美に……名前をつけてほしい」


「名前ならあるでしょ?」


「ナビはナビゲーションの略。名前とちがう」


「うーん……うーん……うーん……ヒナじゃだめ?」


 ヒナは初恋の子の名前。雛子のヒナ。

 女の子との思い出の中で、ゆいいつ、つらくないもの。


「ダメかなあ」


「………」


「ごめん、俺、こういうの苦手なんだ」


「ヒナ……」


 ナビが胸元に両手をあげてつぶやいている。


「あっ、嫌ならいいんだ。そうだよね、俺なんかが考えたのってダサいよね!」


「ううん、とても良い」


「ええっ?」


「気にいった。春都、ありがとう。これからボクはヒナになる」


 そう言うと、ぺこりとお辞儀する。

 マジでかわいい。

 愛らしすぎて思わず抱きしめたくなる。


 と……。

 ヒナになったナビを見ていて、きゅうに思いだした。


「そういえば、なんで女神……リアナがいないんだ? たしか異世界を破滅に導いたとかで、大神様から天罰をうけて俺の眷属にされたって聞いたけど」


 このことは、こっちにくる前、天界の仕組みを制御するシステムから教わった。

 さっきヒナが言ってた【天界システム】ってやつが、それ。


 ヒナも、その一部らしい。

 たぶん人工知能AIの端末みたいなもんだと思うけど、さすが神様の作るものはちがうよね。


「女神リアナはいま、上級神に監視されながら残務処理中。それが終わったら地上へ堕天させられる。だから、


「眷属って、そういう意味だったんだ」


「自業自得」


「だよねー。俺が死んだのリアナのせいだもん。まだ死んだって実感ないけど」


 ようやく落ち着いてきた。

 ヒナが相手してくれてるだけで、すごく安心できる。


「さて……どうしよう」


 疲れたので腰をおろす。

 ヒナもとなりにちょこんと座った。


 見ればあたり一面、焼け野原。

 俺がうずくまっていた場所のまわりだけ、ぽっかりと草が残ってる。


「春都はすでに仕事をこなした」


「……仕事?」


「春都は魔物の大群を吹きとばした。魔物のスタンピードが消滅したから、北にあるアナベルの町が救われた」


「へっ?」


「ボクの探索機能センサーが、町の人が歓喜しているのをとらえている。春都は町ひとつ丸ごと救った。とても偉い仕事をした!」


「えへへへ」


「魔物の殲滅で、アナベルの民に希望が生まれた。あのままだと町は滅びていた。だからみんな喜んでる。住民の思いを【希望の力】が汲みあげたので、


「……なにそれ?」


「あとで落ちつける所にいったら教える。いまは感謝をうけとるだけでいい。春都は、それだけすごいことをした」


 ヒナが励ましてくれた。

 とても心地よい。


「そこで春都に忠告。いまのうちに、ステータスに【擬装】と【隠蔽】のスキルをかけて」


 ヒナが真剣な顔になってる。


「そういやステータスに、そんなスキルがあったな。でも、なんで?」


「春都は目だたないほうがいい。そっちのほうが楽に行動できる」


「そういうもんなの?」


「権力者に力を知られて戦争に利用されたり、力をひがんだ者に暗殺されたりしたい?」


「い、いやだ!」


「だったら、言うとおりにして。ボクが指定する項目をスキルで操作する。他人が見ても普通に思うくらいに擬装する」


 擬装作業はすぐ終わった。

 言われたとおりにしたら、すごく平凡になった。

 スキルとか魔法も、レベルにあわせたものになってる。


 レベル 17

 HP 665

 MP 420

 物理攻撃 24 物理防御 25

 魔法攻撃 22 魔法防御 23

  素早さ 35 知力 32

   幸運 13 器用 34



 いろいろ、ヒナには感謝だ。

 感謝ついでに、もうすこし、この心地よい状況を楽しみたい。


 寝転ぶ俺の横で、ヒナがちょこんと座ってる。

 こんなこと、前の人生じゃなかった。


「うーん」


 俺は背伸びをすると、わずかに残っている草地に背をあずける。


 なにかする前に、ステータスを確認するのも大事だし。

 強くなったと言われても、まだ力を使ってないから実感がない。

 だから小休止してるあいだに、せめて能力をしっかり把握しておきたいんだ。


 火事のせいでコゲくさいけど、見あげる空はどこまでも青い。

 ぽっかり雲が、ゆっくりと流れていく。

 こうしてると、地球でのギスギスした生活のほうが夢に思えてくる。


 俺、こっちの世界のほうが好きになれそう。

 だいいち、となりにヒナがいる。

 俺の話を真剣に聞いてくれる女の子なんて、生まれてはじめて……。


 問題は、自分の性格をなんとかできるかってこと。

 さっきヒナは、性格もそのうち変わってくって言ったけど、ホントかな?

 もしそうなら、自分でも気づいたら直していこうかな……。


 でも今はもうすこし、こうしていたい。

 そう願うの、俺なんかには贅沢かな?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る