ちびっこ探偵、プリン消失事件に挑む

譚月遊生季

消えたプリンの謎

「犯人はこの中にいるッ!!!」


 まーた始まったよ。弟のヘンな癖。


「姉ちゃん!! 俺のプリン食べただろ!」

「違いマース。証拠はあるんですかぁ~?」


 そういうお年頃なのかどうか知らないけど、弟は最近、探偵ごっこにハマっている。

 ……と、いうよりは、口調だけ探偵を真似しているって感じかな。


「それでは、推理を始めよう」


 コホン、と咳払いまでして、弟は話し始める。スマホで録画撮っておこ。

 カメラを起動すると、弟は一瞬うろたえる。でも、そのうち「えへん」と胸を張って腕を組み、カメラ目線でポーズを決めた。


「冷蔵庫にプリンが三つあるのはよくあることだ。ばあちゃんが家に来る時、たまに買ってきてくれるからね」

「そうだね」

「……で、大抵ひとつは俺、ひとつは姉ちゃん、残りひとつはジャンケンで決めることになっている」

「うんうん」


 テキトーに相槌を打ちつつ、マンガを読む。

 前提条件をきっちり提示できてるあたり、若干だけどモノマネの質は上がってきているっぽい。


「けど、今日帰ったら冷蔵庫にプリンはひとつしか無かった。……と、なると、『誰かがふたつ食べた』としか考えられません」


 ぐるぐると、部屋の中を無駄に歩きながら弟は推理を続ける。

 せめて語尾は統一しような、弟よ。


「そして……今、家にいるのは姉ちゃんだけ……。と、なると、犯人はおのずと見えてくる」

「異議あり!!」


 マンガをパタンと閉じ、テーブルに置く。

 アタシは颯爽と立ち上がり、ダンッとテーブルを叩いた。風圧で、テーブルに置いてあったチラシがちょっと浮く。


「その証言はおかしい」

「姉ちゃん、それなんのアニメのセリフ?」


 ふっふっふ、弟よ、所詮オマエは小学生。法廷ドラマの良さはわからんだろう……。


「まず、証人の通う小学校は片道10分。対して、被告人の通う中学校は片道20分……」


 説明していると、弟は「ん?」と首を捻った。


「ヒコクニン?」

「アタシのこと」

「あ、なるほど」


 どうした弟、探偵ごっこはこれでおしまいか?

 でも、アタシの方はまだまだこれからだよ。

 人差し指をビシッと突きつけ、畳みかける。


「朝、出かけるのは少なくとも被告人の方が早い。……さて、ここで質問。証人、被告人が『部活動』をしているのは、ご存知かな?」

「……!!」


 ハッと目を見開き、弟の頬にたらりと冷や汗が伝ったのが見えた。


「つまり! 被告人ことアタシがオマエより早く家を出ることも、早く家に帰ることも有り得ない! これはれっきとした濡れ衣だぁっ!」

「そ、そんなはずは……!!」


 ガクッと膝を折り、弟は項垂れる。

 ふっ……これは今回もアタシの勝ち、かな。


「……いや……それはおかしいですね、姉ちゃん」


 と、何かひらめいたように、弟は顔を上げた。


「姉ちゃん……俺は知っている。そう……姉ちゃんの学校は今……『テスト期間』だッ!!!!」

「ぐ……っ!」


 ま、まさか、そんな鋭いところに気が付くとは……! 相変わらずキャラクターはブレッブレだけど!!

 弟はすっかり自信を取り戻し、再びすくっと立ち上がった。さすがは小学生。おそるべし成長期……!!


「し、しかし証人……今日、自分で鍵を開けて家に帰って来たのは覚えているはずだ!」

「確かに、俺は今日自分で鍵を開けて家に帰ってきた……。でも、それをなぜ姉ちゃんが知っているんだ?」

「……あっ!!」


 し、しまったぁ!!

 思いっきり墓穴を掘ってしまった!!

 弟は勝ち誇ったようににやりと笑い、今度はアタシが人差し指を突きつけられる。


「答えはひとつ! 自分の部屋で、鍵が開く音を聞いていたから……そうだね!」

「うっ」

「いつも姉ちゃんと俺は、どっちが先に帰っても『あれ、帰ってきてたの?』ってなってた。だけど今日は違う。こっそりプリンを食べてた姉ちゃんは、俺が帰ってくる音を気にしてたんだ!」

「うわぁぁあ!!」


 見事な推理に追い詰められていく。ううう、小学生ってバカにできない……!!


「やっぱり……犯人は姉ちゃんだね!!」


 床にガクッと膝をついたのは、今度はアタシの方だった。


「なんで……プリンって、三つパックなんだろうね……。二つなら、こんな争い、起こらなかったのに……」


 静かに語るアタシに、弟も「姉ちゃん……」と返す。

 ……よし、ここであの「情報」が生きる時がきた。


「……そうだ! この前スーパーで、四つ入ってるのを見つけたんだ。このチラシにも書いてるよ……!!」


 立ち上がり、テーブルに置いてあったチラシをちびっこ探偵に見せる。


「もしかして……ちょっと良いやつ?」

「今度はコレ買ってきてもらおうよ。そしたら……こんな悲しい争い、もう起こらない」

「えっ、二つずつ食べていいの? すっげーー!!」


 弟はプリンを不正に食べられたことなんて忘れたかのように、ぱっと明るい表情になった。

 計画通り。……まあ、本当はパパかママが帰ってきてからケンカする予定だったんだけどね。

 録画はできたし、ま、いっか。




 ***




 後日。


「……なんか、このプリンいつものと違う」

「アタシも安い方が好きかも」


 そんな会話が行われたのは、また別の話。

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ちびっこ探偵、プリン消失事件に挑む 譚月遊生季 @under_moon

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