第7話
「意外にも冷たい男でしたのね」
大広間を出たところに、なぜか王女が立っていた。
親衛隊になったので、高貴な方々の顔も見られるようになった。
俺は、どう対処するのがバットエンド回避に最適か咄嗟に考えた。俺は攻略対象のシオンである。シオンルートとコレットルートが絡むとほぼバットエンドへのフラグが立ちまくる。シオンとコレットは絡まないのが安全なのは確かだ。
で、王女とコレットが絡んだ場合。コレットと絡んだ令嬢が破滅エンドを迎える。害虫による被害が起きた領地を治める公爵に、令嬢を嫁がせようと画策され、その令嬢は飢えに苦しむ領民に襲われて死亡する。
コレットは、絡んだ令嬢をもれなく破滅エンドに導く悪役なのだ。が、王女だけはバットエンドも破滅エンドも迎えない。コレットと一緒になってそれを楽しんでいてしまう。悪役令嬢(王女)となって君臨するキャラになってしまう。
だから、王女とコレットが絡むルートが開かなければ、多少なりの令嬢がバットエンドを回避できるはずだ。そして、それに俺が巻き込まれるフラグも立たない。と言うことになる。はず。
よし!
「ここにいる以上俺はシオンなんですよ」
俺は笑顔を見せてそういった。
「へぇー」
王女は意味ありげな顔をする。
「王子から名を賜りましたからね。その瞬間からシオンとなったんですよ。だから、俺をファルと呼ぶ女など知りませんね」
こんな感じでどうだろうか?
ゲームの設定にも、コレットとシオンが幼なじみということは書かれていなかった。それは、つまりこういうことと解釈すればいいはずだ。
シオンはコレットを知らない。
あとは、王女が無闇にコレットに関心を持たないこと。王宮で籠の鳥をしている王女に、うっかり火遊びを教えないよう、監視をする必要があるな。
「随分と悩ましい顔をするのね」
俺を下から眺めるように見つめる王女が、嫌味ったらしく言ってきた。
「おや、これは失礼を。デリータ王女を誘ってしまいましたか?」
「冗談言わないでちょうだい、親衛隊ごときの誘いに乗るとでも?」
そう言って扇で口元を隠すが、満更でもないというのが目でわかる。
「もちろん、お部屋までお送り致しますよ」
恭しく礼をすると、王女は満足気に微笑み俺の手を取った。
とりあえず、王女の興味を俺にひかせよう。
「あら、お兄様」
当然といえばそうなのだが、当たり前のように俺と王女の前に王子が現れた。
王宮なんだから、いて当たり前なんだが。
「デリータ、昼間から随分だな」
若干、王子が不機嫌そうに見えるのは、気のせいだろうか?つか、王子、今の時間は執務なんじゃ?
「道に迷いましたら、この者が案内をしてくれましたのよ」
王女がそう言うと、王子の眉間のシワが深くなった気がする。
「生まれてから住んでいるこの王宮で道に迷うのか、お前は?」
「ええ、誰の手を取ろうか迷っておりましたら、この者が手を出してきましたので取った次第ですの」
扇で口元を隠しながら品よく言ってはいるが、内容はお上品では無いと思う。
仕方が無いので、俺は涼しい顔をして黙っていることにした。
「明日の段取りは確認したのか?デリータ」
「あら?私は黙って立っているだけですもの、確認も何もないでしょう?」
そう答えると、王女は俺に先へと促した。
俺は、手を取っている王女の指示に従いその場をあとにした。
王女の部屋の前まで来ると、王女は1度後ろをふりかえって、ふんっと鼻を鳴らした。
「お兄様の、取り巻きがウザイ」
ハッキリと俺に聞こえるように言った。
「俺も?」
手を話さないまま聞くと、王女は少しだけ頬を赤らめた。
「そうでもないわね」
俺の手を離すと、そのまま自室にはいっていった。もちろん、扉は俺の目の前で音を立てて閉じられた。
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