転輪王の卵は輪廻を翔る――お供に金魚もついてきます

うゐのおくやま

第一部 第一章 輪廻転生

第一章 第1話 私を忘れないで

   古伝承


 昔、肥後の国の海中に毎夜怪しく光る物があった。土地の役人が検分しに行ったところ、怪異が現れて、こう述べた。


「私は海中に住むアマビヱと申す者です。こののち疫病が広まることがあったなら、私の写し絵を人々に見せてください」


 そう言い残して海中に消えて行った。


 鱗のある魚体に女のような長い髪をして三本の尾で波間に立つ姿絵は、疫病から人々を守ると広く信じられたという。




   * * *


「私を忘れないでいて。あなたの生まれた、この世界のことを、忘れずに覚えていてね」


 女が泣いていた。老婆のようでもあり童女のようでもあった。


 倒れ伏した、オレの、体に、すがり、ついて、ワタシ、ヲ、コノ、セカイ、ヲ、ワスレ、ナ、イ、デ、と、泣、い、て……。




 あれ?どこだここは?


 ベッドの中で目覚めたオレは熱でふらふらとする意識の中まだ混乱していた。


「なんか船に乗ってて、人がたくさんいる場所に行って、お祭りみたいな賑やかな場所で、ガラガラガラーってやって、ピカピカの金色の玉がコロコロって落ちてきて、えーっ?」


 思わず大声をあげたら、ドアが開いて母さんが慌てた様子で、僕の容態を見に寝室に入ってきた。


「良かった。やっと目が覚めたのね。高熱を出して三日間も寝込んでいたのよ。苦しいところや痛いところはないかい?」


「お、――僕、熱を出してたの?」


「苦しそうに魘されていて、もうこのまま死んでしまうんじゃないかと、とてもとても心配したわ。まだ少し熱があるようだし、お粥を作ってあげるから、食べたらもうちょっと寝ていたほうが良いわね」


「うん、なんか変な夢をたくさん見てたよ。……怖かったり悲しかったりして何度も泣いちゃった。熱のせいだったんだね」


「高い熱が出たせいね。もう何も怖いことはないから安心おし。お粥を食べてお腹が温かくなれば、今度は悪い夢なんか欠片も見ないでぐっすり眠れるわよ」


 よく見知った母さんの優しい顔を見て、僕を気遣う暖かな声を聞き、馴染んだ部屋の自分のベッドに寝ていたことに安堵したけれど、……だがオレは、あれがただの夢ではなかったことを知っている。


 オレはこの世界とは全く違う世界で、大人になるまで生きて、今とは違う別の家族との幸せだった暮らしと悲しい別れを経験し、そしてついには自分も病気で死んだとこまでの、前世での記憶をぼんやりと思い出した。


 辛い記憶もあるけれど、前世での記憶や経験を持ったままで転生するなんて、アニメとかによくある凄いチートなんだよね?

 今度こそ家族みんなを守り、僕のチート能力でみんなを幸せにしてあげるんだ!


 と決意を固めたところで気がついたんだが、オレ、いや、僕の頭上でふわふわ宙に浮かんでる黄色い金魚はいったいなんなの?


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