第7話
蚊帳の中に戻ってみたが、満太郎は熟睡していた。
僕はジーンズを穿き、Tシャツに着替えた。少し照れくさい気はしたが、台所に行ってみることにした。
縁側に沿って行くと、仏間を通らずに、囲炉裏のある部屋に抜けることができた。囲炉裏には火の気がなかったが、そこと隣接する南側の部屋から、声がする。
「えへん」と咳払いしながら、声のするほうに近づいて行った。
そこは確かに台所だった。都会のワンルームほどの板の間に、大きなちゃぶ台のような円い座卓があり、お茶を飲んだ跡があった。そこから部屋は広い土間になっていて、おばあさんと佐緒里さんが、白っぽい光の中、逆光になって並んでいた。僕はもう一度咳払いをした。
「あら」と、佐緒里さんが振り返った。「起きてきたの? 早いわね」
「寝坊です。でも、瓜助さんと一服しました」
「太郎はどうせ、寝てるんでしょう?」と、佐緒里さんが笑う。
「起きそうもない感じでした」
おばあさんが、前掛けで手を拭いながら、
「ご飯を食べるかい。それとも先に顔を洗うのがいいかね」と言った。
「ご飯がいいです」と僕は答え、遠慮もなくちゃぶ台のそばに座った。
熱い山菜の味噌汁と、お焦げの香りがするご飯、それとぬか漬けらしいお新香が運ばれてきた。
「今、お魚を焼いてるからね」と佐緒里さんが言う。
昨夜の夕食も素晴らしかったが、今朝の朝食も素敵だった。干物が焼き上がる前に、がっついてしまった。
佐緒里さんは僕の目の前で、横座りになっている。一人の女性として見たら緊張してしまうが、満太郎のお姉さんだと思うことにした。そして僕は、小学生のようなものだと思うことにした。
「おかわりしなさい」と言われるので、遠慮無く茶碗を差し出す。
「何時に起きていたのですか?」
「あたし? 五時半ごろかな。ここへ来ると、何となく早いのよ。早くないともったいない感じがしちゃうのかな」
僕は干物をほぐし、遠慮無く醤油をかけ、結局は四杯もの飯を食ってしまった。
「お茶碗が小さかったわね」と佐緒里さんは笑っている。
おばあさんが、濃いお茶を入れてくれた。うまかった。
「ご馳走様でした」
「おそまつさん。なんもないことでね」
「いいえ。こんなうまい朝食は、もう、久しぶりです」
佐緒里さんは僕が食い散らかした食器を流しに運んでくれた。おばあさんは、
「洗うのはいいから」とかなんとか言っている。
佐緒里さんはちゃぶ台に戻り、
「よかったら、その辺をお散歩しましょうか」と言う。
「そうしたいと思ってたんです。お寺も気になるし」
「お寺にも案内するわよ。けどその前にも、いい場所があるの。暑くなりそうだから、ハナケンさんがお茶を飲んだら、すぐに行きましょう」
そう言って佐緒里さんは立ち上がり、仏間の方へ去っていった。
「今日は暑くなりそうやね」と、おばあさんが言った。
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