第43話 援助交際は公序良俗に反する
言われるがまま連れてこられた場所は、オシャレなパスタ専門店。
メニューを見ればとてもじゃないが、一介の大学生には高価であり、伝わるかどうか分からないが、晩ごはんではなく、ディナーといった雰囲気だった。
「心配しなくていいよ、今夜は私の奢りだから」
「そんな、申し訳ないですよ」
「出会いの無いお姉さんには、年下の
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん、いっぱい甘えて」
京子さんの言った事は、案外本心に近いのか、今までになく楽しそうだった。
高級料理店特有のムードと重なって、やけに緊張してしまう。僕はこれからプロポーズでもするってのか?
カルボナーラをお淑やかにいただく京子さんと、ファミレスと勘違いして入店してきた若造の如く、たらこスパゲッティを頬張る僕。
年の功、なんて表現すればかえって失礼かもしれないが、やはり僕と違って、こういうディナーデートはそれなりにこなしてきたのだろう。
京子さんの一挙手一投足には、大人の女性としての品性が、あくまでも穏やかに主張していた。
「美味しいね」
と彼女が言った だから今宵は パスタ記念日
盗作だし、五八七七とかいう訳のわからぬ韻文が脳裏に浮かぶくらいには僕も何だかんだで浮かれていた。
結局、彼女の言う通りご馳走になり、冬の夜風を浴びながら再びお礼を言うという、十数年前であれば、男らしくないとして誹謗中傷の嵐であっただろう事を行う。
「ね、デートって言えば何かな?」
「デートですか」
これまたセンスの問われる質問。やはり相当、経験豊富であったことを憶測させる。
「あ、今から何するかって話だから、水族館とかはナシだよ?」
経験はないが、それを補うもの、すなわち知識が僕にはある。
瞬時に僕は恋愛小説での定番行動を思い出す。
「観覧車とかですかね」
「へ~ロマンチックじゃん」
あれ、何だかめちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
僕は決してロマンチストではない。種明かしをすれば、少し都会に出てきていたのもあって、ショッピング街に観覧車が建てられているのだ。
キョロキョロとしてデートコースを考えるのは、恋人でなくとも情けないので、直立不動で目に入ったデート的な施設、それが他ならぬ観覧車であったのだ。
色とりどりの照明で飾られた観覧車は、僕の判断があながち間違ったものではない事を指し示し、久方ぶりに乗るという事実も補助して、なかなかどうして気分が高揚した。
「デートも久しぶりだけど、こんなにドキドキしたのはもっと久しぶりかも」
「それならよかったです」
「まさか君が色男だったとはね」
「やめてくださいよ」
「ふふっ、楽しいね」
そして謎の沈黙。緊張は高度とともに高まり、頂上付近で思い出す。
ああ、恋愛小説って、ここで告白するんだったな、と。
男女の交遊であって、世間がデートを行う間柄ではない僕が参考にするのは、TPOに欠けるとさえ言える。
夜景に照らされる京子さんの喜んでいる顔を見れただけでも、羞恥心に殺されかけた甲斐があったというものだ。
たまさか得られた平穏、それは僕にとって久々に感じた日常であった。
「あれ?宗太君?ああ、やっぱり私たちって運命なんだね。えへへ」
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