第25話 著者来訪
朝の一件を風化させるのは容易ではないため、僕の唯一無二の安らぎたる読書に没頭すること約1時間。
ある病原菌の感染拡大を防ぐため、大学生という身分でありながらも、こうしてゆるりと本を読んで過ごすことができる。
僕の履修するWeb授業は全てオンデマンド、すなわち通常の時間割に定められているタイムスケジュールに則って、勉学に励む必要性はなく、期限までに課題を提出するというもの。
僕は比較的気に入っているのだが、深雪さんはそうではないようで、時折聞こえてくるうめき声は大抵、レポート課題に悪戦苦闘しているのが原因だ。
それでも僕に気を遣ってか、手助けを求められたことはない。
作者や登場人物の心情を読み解くよう、何度も無機質に問われ、それに答えてきたにもかかわらず、僕は未だに気遣いさせている。
まあ、彼女の勉強に関して、僕がそこまで深く考える必要も無いのかもしれないけれど。
「ところで」
「ん?私?」
「智花さん、お仕事の方は?」
「まぁ、これも一応は立派な仕事の内なんだけどなぁ~」
であれば僕も仕事をしている事になる。
強いて智花さんと僕の違いを挙げるとするならば、読んでいる本のタイトルが違うくらいなもので、客観的に見れば、二人の人物が読書をしていると表現される。
「それはお邪魔しました」
「あれ、みーちゃんから聞いてない?」
「……何をですか?」
「ふ~ん?」
「ち、違うの!宗太君、ちょっとお姉ちゃん待って!」
「私、今宗太君が読んでるその本を書いたんだよ~」
「ダメぇぇえーー!!!」
「え」
ニコニコな智花さんとコントラストを描くかのように慌てる深雪さんを流して目線を手元に移す。
〈
「よろしく~」
「本当……?」
「うう、本当」
「好きです」
「ありがと~」
「宗太君!?ふえぇ、だから言いたくなかったのにぃ」
「応援してます」
「サインいる~?」
「こ、光栄です!僕、何度も読み返しましたよ」
「悪夢ーー!!!お姉ちゃんなんか帰れ!」
破天荒というか型にはまらない人だと思っていたが、プロの作家さんなら納得できない事もない。
その奇抜さを当初は嫌に思っていたが、作品誕生の糧であったなら、見る目も変わる。
深雪さん、手足をばたつかせてると、何だか子どもっぽくて愛くるしくもあるけれど、少しの間、お静かに願えますか。
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