第23話 川と書いて愛と読む

 合宿!そうだ、合宿だと思えば何ら違和感はない!いや、男女の部屋割りが同じなのは合宿でも稀な昨今ではあるけれども!


 僕は悟りを開かんとして、あえて欲望に最も近い状況へといざなわれた。

 寝床問題の最適解は『僕が自分の居た場所、すなわち自宅に帰る』であるのは至極明白であったはずだ。

 だがしかし、いかにその時常識と思われていた内容であっても、現代において声高に天動説を支持する旨を示すのは差し障りがあるように、最適解と思われる答えは往々にして覆されるのが世の常であり、逆説的だが無常を表している。


 回りくどい言い方がそこかしこにのたうち回っている理由は案外簡単。

 ある小国の姫君が「布団がなければベッドに寝ればいいの!」などというお言葉を仰せになり、不敬にも僕は世迷い事と思ったのが天に見透かされたのか、罰としてベッドにある布団と僕の毛布を足し合わせ、床に川の字に寝る刑に処されてしまった。

 帰ろうとすれば深雪さんが露骨に悲しそうな顔をし、智花さんはからかい交じりの笑みで居座らせようとする。


「私が来たことで明智君、あ、私も宗太君って呼んじゃお。宗太君が出ていく事になるのは申し訳ないからね~」

 だからといって川の字とは。愛し愛された者同士に許された特権・川の字。

 いくら何でもこのフレンドリーさは異常。

 留学帰りであろうが、あるいは純度100%の純粋な心の持ち主か、はたまた貞操観念ゼロの不埒な姉妹か。

 いずれであっても納得致しかねる事に変わりはない。


「おやすみ~」

「えへへ、おやすみ♡」

「おやすみなさい…………」

 申し開きもございません。わたくし、明智宗太はおめおめと川の字の三画目にあたる部分を勤めてしまいました。

 今から帰るとなると時間的に厄介だな等の言い訳に負けてしまい、智花さんと僕とで深雪さんを挟み込んで寝ている次第であります。


 いや、聖人君子ではないとしても、流石にこれはダメでしょ。

 大学生と年齢不詳のお姉さんが一緒に寝るなんて、低俗な雑誌のそれではないか。

 ……深雪さんの寝息が聞こえる。というか寝るの早すぎでは?良くも悪くも信頼があるのだろうが。

「ふふっ、深雪ちゃん寝ちゃったね~」

「……そうですね」

 僕もこの際、さっさと寝てしまいたいのに、何故か話しかけてくる智花さん。

 まったく、この人は僕の心も状況も散々にかき乱したくせに、のほほんとした様子で話してくる。

 本当に何者なんだろうか。大学生といった感じでもないが、会社員でもなさそうだ。専業主婦だけど喧嘩して旦那さんと一緒に居ずらいとか?

 …………そんな下世話な憶測をさせるほどに、智花さんは僕のペースをことごとく破壊する天使の顔をした悪魔だった。

 ダメだ、甘い香りにどうしても目が覚めてしまう。それはもう開眼しそうな程に。

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