第22話 女心と暴風雨
天涯孤独かと勝手に思い込んでいたが、突然現れた深雪さんのお姉さんである智花さん。
黒髪ロングをなびかせながら微笑む姿からは、さぞかし人気があるのだろうと憶測させる。
妖艶とは異なるかもしれないが、ニコニコとするその真意は見えづらい。
「それで、さっきの何なの?」
仲がそれほどよろしくないのか、先ほどからの深雪さんの態度はぶっきらぼうそのものだ。
「ごめんごめん。彼氏くんが来てたとは思わなくてね。そもそも彼氏がいたとも思ってなかったし」
さっきもそうだが、どうして彼氏ではないと説明しないのか。
それは僕が『好きだ』と答えると思って、あえてそうしているのか。
「彼氏じゃないですよ」
深雪さんが寂しそうな顔をしているが致し方ない。
「ふ~ん?」
そんな微々たる感情の動きを見逃さなかったのか、年上特有の嫌な雰囲気を漂わしていた。
『この人は苦手だ』と直感が伝えたことも、智花さんには分かったかもしれない。
「できるだけ早く見つけてよね」
「分かってるって」
いやはや、まさか現実に『アパートを追い出されちゃったから、しばらく泊めて』というシーンが存在していたとは。
何をしたら追い出されるのか。あるいは何もしなかったから、追い出されたのかも。
新たな同居人であり、正真正銘の家族でもあるため、かえって僕の立場が危ぶまれる。
僕は同居人と言うよりかは居候になるのだから。
ともすれば、読書だけに時間を費やすのもまた困難となる。
生活の根本が揺らぐ出来事であることはこれらがよく示してくれるだろう。
波乱が智花さんの手土産という訳だ。
「宗太くんもよろしくね~」
「……よろしくお願いします」
ニタニタとこちらを見つめる智花さんとそれを膨れっ面で見る深雪さん。……本でも読も。
「何読んでるの~?」
「今はこの前出版されたライトノベルです」
「ふ~ん、面白い~?」
「面白いですよ、ジロジロと見つめられてあまり集中出来てませんが」
「あはは~男の子だもんね、お姉さんの熱い目線にドキドキしちゃった?」
「お姉ちゃん!」
読書好き全員に当てはまるかどうかは知らないが、自分のペースで物語を進めるという習慣が板についているのもあって、こういった風に話しかけられると、情けなくもたじたじになってしまう。
いやはや、どうしたものかな。
「あ、お布団どうしよっか~」
確かに。ベッドは家主である深雪さんが使い、僕はソファーで寝かせてもらっていた。
だが智花さんが泊まるとなればそうはいかない。のみならず、男である僕が同じ空間にいる問題性が今更ながらに浮上する。
もう一度繰り返す、智花さんが泊まるという事は、僕の生活の根本そのものが揺らぐ出来事なのだ。
「お姉さんと一緒に寝よっか」
…………帰る。
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