第18話 即熱性美少女

『パブロフの犬』とはまた異なっているかもしれないが、二人と出かけた事が思いの外楽しかったのだろう、僕はまたもや『Caesar』という畏れ多くもローマ独裁者の名をいただく喫茶店で本を読んでいた。

 一緒に行くという条件であれば、深雪さんの家以外で本を読むことも許された。なぜそのようなが求められるのかは今となってはもはや分からない。

 ただ時局がそうさせたのだ。

 彼女が僕と同じ大学生ではなく、財閥の娘であれば、僕をペットと見ていても違和感のない日々だが、彼女は保護精神があったとしても、支配欲とまでは言えないと思う。少なくとも今は。


「パンケーキもちもちだよ~」

 まるで自己紹介かのようにほっぺたを膨らませながら美味しそうに午後のおやつを食べる深雪さん。反対に僕がペットを連れてきたかのような錯覚に陥ったのをここで懺悔ざんげしておくとしよう。

 愛玩動物はたった一度しか飼ったことがない。

 あれはまだ僕が児童書を読んでいて、今ほど読書に熱を入れていなかった頃だ。

 その唯一の生き物は『パーカーくん』。金魚すくいで運よく捕まえることができた赤くて立派な金魚。

 名前の由来は、僕がパーカーのついた服が好きだったから、という何とも子どもらしくも浅はかな理由だ。

 そういや彩香もあの頃は「ぱーかーくん!」って言ってはしゃいでたっけ。


 生きとし生けるもの、いずれは平等に死を迎える。


 パーカーくんだってその理から超越する事は出来はしない。

 そのショックで、などと語るつもりはないけれど、事実、それ以来僕はペットを飼ったことはない。

 読書を一等愛しているが、動物園や水族館に行くのも好きだったりする。だからなのか、僕は見に行くことはあっても、ついぞ飼うか悩んだことさえなかったのだ。

 両親も他界し、妹とずっと二人っきりの日々。僕には読書というもう一つの世界があったから良いものの、彩香には随分苦労させたと思う。

 そんな事に気が付かせてくれたのが、他ならぬ深雪さんなのだから、お礼は何度言っても足りないだろう。

「はい、あ~ん♡」

 でも、いい加減にこの癖は辞めてもらいたい、特に外出中には!

「私の『あ~ん』がいやなのかな?」

 前言撤回。そんな凍てついた眼をされてはおめおめ家にも帰れない。

「ねえ!どうなの!?」

「ちょ、声大きい……」

『あ~ん』に応えないだけで、こんなに周りの人から視線を集めることになろうとは。僕の知っている世界線では逆に応じた方が視線を集めるのだが。

「い、いただきます」

 …………ごちそうさまでした。


 ***

 間接キス!間接キスだよ♡

 宗太君、顔真っ赤だぁ。えへへ、やっぱり宗太君といると幸せだな~

 だから、絶対に敵は排除しなきゃ。

 ***

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