第17話 積極的三角関係

「ねえ、ホントにいいの?」

「もちろん」

「お兄ちゃん、私もいいんだよね!?」

「もちろん」

 プレゼント。それは円滑な人間関係を育むための初歩的な方法の一つだ。僕は今まで彼女たちに頼りっきりだったので、こうして簡単な事から恩返ししていく事に決めたのだ。


 彩香が服屋に行きたいと言ったので、プレゼント第一候補は洋服となる。

「どう?お兄ちゃん」

 いつもはしっかりとした妹だが、今日はなんだか少しはめをはずしているようにも思えるほどのハイテンション。あげる側としては嬉しいけどね。

 女子高生にしては大人っぽくて、人によっては大学生と勘違いしそうな身のこなし。クラスメイトからも男女を問わず人気だという噂はやはり本当らしい。

「似合ってるよ」

「か、かわいい?」

「え、う、うん可愛いよ」

 実の妹に可愛いという機会は滅多にないので何だか気恥ずかしいが、聞かれた以上、しっかり答える必要がある。ちなみに二人とも顔は赤い。

「えへへ、そっか……そっかぁ」


「そーたくーん、ちょっと見てー」

 店内にあまり人が居ないのをいいことに、大声で僕を呼ぶ深雪さん。メンズコーナーもあるので、幸いにして端から端へ移動という訳ではないが、それでも服で決定するとは限らない。

 僕としてはあまり体力を消耗し過ぎないよう、留意しつつ素直に馳せ参じる。

「じゃじゃーん」

 クールな服装を見せた彩香とは打って変わって、深雪さんはと思われる一歩手前のカワイイ系コーデだ。

 ぶりっ子という表現が一時期よく耳にしたが、まさしくそんな感じ。

 ていうか、普段の服はそういった系統じゃないだろ、あ、ニヤニヤしてる。

「商品で遊んではいけません」

「似合ってるでしょ?」

 痛い一歩手前にもかかわらず、違和感はない。これもひとえに、彼女の容姿が端麗なおかげといったところか。

「まあ似合ってはいるけど」

「ありがとう♡」

 様子をうかがう彩香の視線が鋭いのは気のせいではない。


 結局、服屋を冷やかしただけで、プレゼントは決まらず一旦休憩となった。

 読書目的で何度か訪れたことのある喫茶店へ行く事とする。『Caesar』という変わった名前の店だが、雰囲気はいい。

「シーザー?」

「英語だとそうだけど、ここはラテン読みでカエサルっていうらしいよ」

「世界史の授業で同じ名前の人がでてきたよ」

「彩香が言ってるのはユリウス・カエサルだろ?」

「そうそれ!」

 栄華を極めたあのカエサルも、辺境の幼き少女に呼ばわりされる。まさに栄枯盛衰だな。

「で、この後はどこに探しにいく?」

 二人は互いに笑いあう。何がおかしい、朕を笑う者よ、その理由を述べてみよ。

「もう満足だよ」

「でもまだ何も」

「あのお兄ちゃんが私たちの為に、読書以外にいっぱい時間を割いてくれたし、それにまだしてくれようとしてる。それだけで満足なんだよ!」

「妹ちゃんの言う通りだよ!宗太君、好き♡」

「ちょっと氷室さん!?」

 なんだかんだ言って、この二人も仲良くなってきたのかな。時々こうしてこれからも出掛けよう。プレゼントはまたその時にすればいい。

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