第2話 司書就任
「やっと二人の生活が始まるんだね!パチパチ、イェーイ!」
拍手の効果音を自ら演じる女子は地雷だと何かで見聞きした気がするが、何はともあれ、無事、引っ越しは完了した。勿論、簡易的ではあるが、選りすぐりの書籍十数冊と数着の衣類。
進展が早いのもあって、いつもより精神が高揚している。
「さてさて、ではでは!」
イヤに仰々しく高らかに語りだす氷室さん。客観的数値や一般的スタイルがはっきりしている訳ではないが、胸を張っているのもあって、豊満な胸部がさっきよりも強調される。案ずること
「より一層、宗太君には読書しててほしいから、私が司書さんになる事に決まりました!」
「それで、司書として何をしてくれるの?」
「まずはこの本棚の管理!いっぱいになったり、宗太君のお
「なるほど」
「それから、読みたい本があれば私が買っておくから」
「ありがとう、勿論、本代は払うから」
「うん♡つまりつまり、宗太君は文字通り、読書だけしていればいいからね」
「おお、楽しみだな……」
僕の出自は明らかではないが、武者震いがしているので、もしかすると先祖はサムライだったのかもしれない。
「養って、養って、養い尽くして宗太君を骨抜きに……!」
小声で何か呟いていたが、やはりそういった事柄には興味がわかない。今の僕の心中は『記念すべき一冊目は何にしようかな!』などと早速、本で埋め尽くされている。いや、厳密に言えば既に一度ここで読書してはいるのだが。
「じゃあ今日はお祝いにご馳走にするからね♡」
「そんないきなり無理しなくていいよ」
「ふ~ん、新婚じゃん♡」
「え?」
「今日から宗太君の体調、ううん、細胞すべてが私の管理下に……!!」
あって間もないが、段々彼女の事が分かってきた。氷室さんはよく意味不明な独り言を普通の声量で呟くことが多い。
今後の生活が潤滑的であるためには、気にせずスルーが最適解。それに今の僕は善かれ悪しかれ文句の言える立場にいない。
まあ、そんな事に考えを及ぼすのはもうよそう。今は読書だ!
***
えへへ、本当に楽しそうに読むなぁ。見てて癒されるけど、今は晩ごはんを作らないとね。私が宗太君の彼女、お嫁さん、ママとしてい~~~~っぱい甘えさせて、より一層、世間から遠ざけてみせる。あの妹ちゃんも含めてね……」
***
短編集の後半に差し掛かった頃、夕食の支度が整った事を美味しそうな香りで気づく。
「おまちどおさま」
「ごめん、用意くらいはするつもりだったんだけど……」
「いいって、そういうのは『メイド』のお仕事ですからね」
「ありがとう、じゃあいただきます」
「待って、最後にこれ!」
そういうと彼女はメイド風のエプロンをまといつつ、ケチャップをオムライスにかけだす。
「萌え萌えキュン♡」
…………言わずもがなケチャップはハート型。満面の笑みなので抗議はやめておいたが、次回は遠慮したいものだ。
「あれ?コレジャナイ感あるけど?」
「いやいや、いただきます」
彩香の反応をみる限り、世間一般ではこの関係は珍しいものである事は間違いない。それなのに、毎晩、こんな趣向の食事をとっている事が明るみに出たなら、社会的圧力が俺から読書を奪いかねない。そんな事あって堪るか。
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