Sabbat. ー女子高生の私は、巫女[戦士]だった。その次は?

權 智賢

第1話 蔵

ヨーロッパ諸国において、15世紀後期から始まった魔女に対する世俗裁判、宗教裁判によって多くの魔女に仕立てられた者が処断された。


その行為は、エスカレートしていき、魔女狩りとして、17世紀後期まで続いた。


当時、呪術師や術使いなる者は、多く認識されており、呪術師、術使いと魔女は、別様と考えられ、悪魔と契約を契り悪魔の力を得て災いをなす存在を魔女とした。


この起源は、 13世紀中期に神信祈教団内で、教団の教えに疑問を問う者があらわれ、その者を異端なる者として、密かに処断していた。


異端なる者の処断後に、新たな異端なる者が、また1人、また1人と増えて行き、その存在が表面化した。


その異端なる者達を一網打尽にするために魔女が産み出された。


神と反する力を持つ悪魔が、利用され、悪魔と契りを結んだ者を悪魔女とした。


当時、悪魔想像は、男性が、ほとんどだった。

そのため、悪魔と契りを結べるのは、女とされた。

しかし、魔女の名のもとにおいて処断された異端なる者は、老婆、青年、少女、少年と見境なく処断された。


しかし、その後、悪魔との契りとは、如何なるものなのか?

悪魔の姿を見た者が、いない世界、魔女の定義を問題視する輩が現れると魔女とは、悪魔に仕える人間で、悪霊[デーモン]との契約により超自然的魔力と害を及ぼす軟膏を授かりし者とされた。


悪霊[デーモン]との契約の場所として、信じられていたのが、魔女や悪魔崇拝の集会場。

その集会の中に"魔宴" "魔女の夜会" 魔女の夜宴"と呼ばれていた集会があり、悪霊[デーモン]との契約の契りができる宴とされていた。

魔宴、魔女の夜会、魔女の夜宴は、俗に土曜の夜に行われる"Sabbat"と呼ばれていた。


異端なる者は、魔女狩りの名のもとに処断され続けた中、処断を恐れ、他国へ逃れる者も現れた。

その中には、本当の魔女も混じっていたと言われる。



「えー!」

「本当に、その古文書にそんな事が書かれているの?」


矢乃波 波木ヤノハ ハキは、牢屋の前の廊下にペタんと座って、木格子から中に向かって声をかけた。


「俺がなんのために、嘘をつく?」

そう言うと木格子から手が出てきて古文書の中の拷問らしき絵が書かれたページを指差す。


「それとこの地図、どこの地図だと思う?」

そう、言うと木格子から1枚の紙が突き出された。


100均のビニール手袋を手に着けて、受け取る。


「俺は、コロナじゃないぞ。」


「まだ、2週間経ってないじゃん。」


矢乃波 波木ヤノハ ハキは、受け取った紙を眺める。


地図だ。

なんの地図だろう?

宝の地図なら、目印が示されているが、この地図には、目印は、ない。

地図には、色々な建物が書かれており、その中の一軒に女の人が横たわっている。

なぜ?この建物の中だけ人が書かれているのだろう?

それも横たわっている…死体…なぜだかそう思った。


叔父サムチョンは、この地図をどう思うの?」


牢屋にいる叔父サムチョンに問いかける。


今、私が話している相手は、韓国に住む、お父さんの弟、私の叔父にあたる人物だ。


態々、私が見つけたこの古文書の翻訳のためコロナ禍の中、韓国から日本に来てくれた。


迎えにいったお父さんに、家に着くなり神社の地下にある牢屋に2週間隔離されている。


「古文書の内容と照らし合わせるなら、一軒だけ女性が書かれている建物が、魔女を処断した場所か、安置場。」


「そう言えば、 波木 ハキは、学校は、どうしてる?」

不意に、古文書に関係ない質問が飛ぶ。

叔父サムチョン、今は、8月、夏休みだよ。」


「てか、コロナ禍で、ずーと、休校だったけどね。」


「それで、何処にも行かず、ずーと神社にいるから、たまには、蔵の掃除でもしてくれるとありがたい。とお父さん言われた。」


タケルくんからの指示かぁ。」

叔父サムチョンが、健くんと言っているのは、私の父の事である。

まぁ、兄弟だからそんな感じなのかな。


叔父サムチョンは、私が物心付いた時からたまに家に遊びに来ていた。

家と言っても叔父サムチョンには、実家な訳で。


私の幼少期に、来た時は、私とよく遊んでくれた。

そして、いつもお小遣いに500円玉を1枚くれた。

叔父サムチョンが、私を小脇に抱えて走り回る遊びが、当時の私のお気に入りだったらしい。

自分では、なんとなく覚えている感じだ。


小さな時は、叔父サムチョンのことは、名前に君付けで呼んでいた気がする。

小学校6年生の時にk-popにはまり、韓国語に興味を持ち、叔父サムチョンが遊びに来た時に、覚えたての、叔父アジョシと呼んだら、韓国語で、ずーと、話され、ちんぷんかんぷんな1日を過ごした経験がある。

そのとき韓国語で、おじさんアジョシは、一般的なおじさんで、自分の父の弟を呼ぶ叔父さんは、叔父サムチョンと教わった。

その日から叔父さんの呼び名は、叔父サムチョンに、なった。


「でも、意外だよね。」


「代々、水神様を祀っているから蔵には、龍の掛軸や水墨画があるのは知っていた。」

「だからこの韓国語で、書かれた本も龍か水神様の情報だと思っていた。」


「魔女…それに魔女狩り…」

矢乃波 波木ヤノハ ハキは、叔父サムチョンに自分の予想していた事を話した。


叔父サムチョンはお父さんより近い存在で友達みたいな感じに思える。

なんでも話せる"小さいお父さん"みたいなところもあった。


「でも、よくその書物見つけたね。」

叔父サムチョンの言葉に驚く。


叔父サムチョンは、この本の事、知ってたでしょ?」


「いや、蔵は、色々なモノがあって、よく探検してたけど…そんな本、見た事ないよ。」


「え!」

「この本の事知らないの?」


タケルには、その本の事、話したの?」

首を振りながら答える。

「うんん。話してない。」

私よりも此処に永く住んでいた叔父サムチョンが、知らない本. . .


お父さんに話すより叔父サムチョンに話したほうが、真剣に話を聞いてくれるし、色々一緒に調べてくれる。


「その本、蔵のどこで見つけた?」


「どこでって…」


…何処だ?


あれ?この本、蔵のどこで見つけた?

叔父サムチョンの問いかけに驚く。


わからない。

偶然見つけた気がした。

脳裏に大きなテーブルの角の映像が浮かんだ。

いや、そうだ!

テーブルの上に置いてあったじゃん。

そのまま、叔父サムチョンに答える。

「テーブルの上に置いてあった。」


叔父サムチョンは、変な顔をして再度、質問してきた。


「テーブル?そのテーブルは、何処にあったの?」

叔父サムチョンは、何を言っているのだろう?

蔵で、みつけたと言ったじゃん。

考えた事が口から出た。

叔父サムチョン、蔵で、見つけたと言った…じゃ…」

自分の言葉に鳥肌が立った. . .


蔵には、テーブルなどない。

そう言う意味で、叔父サムチョンは、質問をしてきたのか。


でも、テーブルがあった場所は、蔵に入ってからだ。

蔵の中を掃除してて. . .

え. . .

さっき叔父サムチョンは、蔵で探検してたと言ったよね。

消えていた記憶が、修復されていく。


蔵で、起きた異変を思い出す。

蔵の1階を掃除してたら、2階から物音が聴こえて、2階にあがったら、見た事のない扉が、あって、扉を開けて入って行ったら霧だらけで前も見えない状況だった。

でも、少しずつ霧が流れて廊下?

いや、道だったかな?

記憶が曖昧だ。

まだ、霧がたちこめる中を歩いた。

どのくらい歩いたのだろう。

扉が、開いている部屋?

それとも建物だったのかな?

1つだけ開いている扉に引寄せられた。

その中も霧に包まれていて、気がついたらテーブルのある部屋にいた。

テーブルの上には、女性が仰向けに寝かされていて、胸の上で両手を組んでいた。

血の気のない綺麗な白い顔だった。

古びた白いフリルとレースで装飾されたワンピースを着ていた。


足首に痣が、あった。

縛られた跡. . .


そして、私は、女性の顔を触った。

凄く、冷たかった。

死体だと思った。


怖くなり後退りして、テーブルの角で手が固い物に触れた。


女性の足もとの方のテーブルの角辺りに本が、置いてあった。


私は、その本を掴んだ。


ん. . .

掴んだ後の記憶がない。


確か、鳥の囀りで、気がついた。

私は蔵の1階の掃除をしていた場所に仰向けに寝かされて両手は胸の上で組まれ胸と手の間にこの本が、あった。

その時は、何も思わなかったが、今は、背筋がゾッとして、思わず持っていた地図を手放した。


私が見たあの女性と同じ体勢で寝かされていた。

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