蛍の子たち

木葉 しほり

第1話

 青い空に嘘みたいにきれいな海。絶好の海びより!と言いたいところだけれど私は中学3年生。受験勉強真っただ中。

「いっーーーち、にーーーい、さーーーんっ!」

運動場に広がる部活生の独特な掛け声、ジリジリとした空気、適度な緊張感、青い空を見て久しぶりに思い出した。

ついこの間まで部活をしていたのが嘘みたいだ。

私は若宮 花奈

 1ヶ月前の陸上の大会。花奈は全国大会を期待されていた。それよりも親に褒めてもらいたくて、今までバカみたいに走って、誰よりも努力した。その分友達は減ってしまった。そのおかげで誰よりも速くなれた。

でも結果は‥


“フライング”


本当に不幸だ。

陸上の推薦で進学校にいこうと思ってた。花奈は推薦の雲行きが怪しくなり、お母さんと喧嘩になってしまった。花奈が何も言わなかったから逆に怒らせてしまった。弟たちも受験勉強の邪魔をしてくるし、逃げるようにおばあちゃんの家で居候していた。

うるさい弟たちもいなくて受験勉強するには持ってこいの場所だった。

ピピッ ピピッ ピピッ

勉強の終わりを知らせるタイマーが鳴った。

(まぁ勉強なんてしてなかったけど!)

しばらくボーっとしていた。

「着替えよう。」

ずっとパジャマで過ごしていたが、気分を変えるためにお気に入りのワンピースに着替えることにした。

 鏡に自分の姿が映る。上着を脱ぐと、首のあたりに大きなアザのようなものがある。

本当に本当に不幸だ。

小さい頃はよくからかわれていた。けど、1人だけ、たった1人だけこのアザをきれいだと言ってくれた者がいた。

水上 蓮

 小さな時から隣に住んでいて私が物心ついたときから隣に住んでいた。蓮は色素が薄くで髪は茶髪でものすごく弱々しかった。だからか蓮が話すとすべてのものが綺麗にみえていた。

「花奈の首には蛍がいるね。」

「蛍‥‥?」

蓮は自分の首を指で指し

「ほら、きれいな蛍みたい。」

蓮のその時の言葉は今でも覚えている。

でも、もう蓮はいない‥‥‥。

事故だった、アザがきれいって言われた次の日、

私の家に向かってたときほんの数メートルの道のりだったのに、猛スピードの自動車とぶつかりそのまま亡くなってしまった。

この出来事が1番不幸だ。神さまは花奈の好きな人でさえ奪ってしまう。

 泣きそうになるのを堪えて、急いで着替えた。なんていったって今日は行きたいところがあった。

“光る池”だ。

夏のこの時期になると、星がたくさん光り、池が輝いてみえる場所があるらしい。

おばあちゃんの家の人達が奇妙そうにでも楽しそうに話していたのを昨日聞いたのだ。

「おばーちゃーん、ちょっと出かけてくるねー」

玄関から大声で叫んだ。すると、おばあちゃんがいそいそとやってきた

「花奈、今日はやめておきなさい。」

花奈は首をかしげた。

「どうして?」

おばあちゃんはこれは良いと言わんばかりの笑顔でこちらを見た。

「そうなんじゃ、今日は特別な日なんじゃ!あれは私がまだ子供のときに‥」

「おばあちゃん!!ストップストップ!!」

おばあちゃんは昔の話をすると止まらなくなる。

(本当にこの悪い癖に何度悩まされたことか‥‥)

花奈はおばあちゃんの手を握り

「とにかくすぐ帰ってくるから!いってきまーす。」

 家を飛び出して自転車に乗った。

(おばあちゃんの話なんだったんだろう、今日は天気が崩れるってことかな?それとも幽霊が出るとか!?)寒気がしたので考えるのはやめ、自転車のスピードを速めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る