集合。

「で、この数式を使えば、解けるから……」


「あ、なるほど……」


 夕方の6時過ぎ。おれはリビングで美咲さんに数学を教えていた。

 成り行きで、なぜかこうなっている。

 というのも聞けば、美咲さんは数学が苦手らしく、来週小テストがあり、その相談を受け、ならばとこうして教えている次第だ。

 勉強はじいちゃんにみっちりと教えられていたので、正直、頭の良い部類だと思っている。去年の全国模試も50位くらいだったし。


「海斗さん、すごいですね。頭が良い上に教え方も上手です」


 美咲さんは尊敬の眼差しといった様子で、こちらを見てくる。正直そう言ってくれるのは、かなり嬉しい。


「まぁ勉強だけは、じいちゃんにみっちりと教えられたんで」


 照れながら、そう答える。


「そうだったんですね。それにしてもサヤ姉さん遅いなぁ……」


「ですね……」


 二人揃って、壁にかかっている時計に目をやる。

 サヤさんが家を出て行ってから、かれこれ2時間は経とうとしている。買い物に行くと行っていたが、少し遅すぎやしないだろうか。さすがに、おれの腹もそろそろ空腹を訴えてきている。


 と、その時。ガチャっと玄関の開く音がした。


「あ、帰ってきたみたい」


 しかし、リビングに向かってくる足音が複数聞こえてきた。

 そして、勢いよくリビングへ入るドアが開いた。


「遅くなってごめんねー!二人とたまたま会っちゃってさ。寄り道しながら、帰ってきちゃった」


「お腹すいたー。早くご飯食べたいー」


 はぁとため息をつきながら、一人の女の子がカバンをソファの上に置く。


「だったら、弓月も手伝いなよ。みんなでやれば早く食べられるよ」


 その様子を見ていた別の女の子がそう言う。


「うへー。面倒臭いー。葵がその分やってよ」


 サヤさんの後に続いて、入ってきたのは二人だった。

 うん。わかってたよ。二人ともかわいいってことは。弓月と呼ばれていた女の子は、ショートカットがよく似合う女の子だった。

 手足もサヤさん同様にすらっとしている。

 スタイルは……まぁ他の姉妹に比べれば、目立たない方だが、それでも充分なレベルだと思われる。


 しかし、おれはそれよりも、もう一人の女の子に衝撃を受けた。

 葵って、てっきり男かと思ってけど、まさかの女の子だったのね……

 髪はセミロング程の長さで、他の3人とは違い、うっすら茶髪である。目鼻立ちもしっかりしていて、今は美少女だが、将来は美人になるだろうと予期させる顔立ちだ。

 そして、かなり小柄なのに、出るところはしっかり出てて、正直、そのボディがかなり強調されている。いわゆるミニマムボディってやつ?

 やばいよ、そのスタイル……

 美少女&美人の姉妹達だけど、おれの一番どストライクは葵ちゃんだな……

 なんて、呑気に思ってしまう。


 てか4人全員、女性って……

 色々、大丈夫かな。男、おれ1人じゃん……

 なんか急に肩身狭くなってきた……

 それに彼女達はやりづらくないんだろうか。いきなり、異性がやってきて。


「あれ、美咲姉の隣にいるの誰?彼氏?」


「ち、ちがいます!って、弓月、サヤ姉さんからのメール見てないの?」


「メール?んあ、部活終わってから、携帯開いてないや」


 けらけらと笑いながら、弓月と呼ばれている女の子は携帯を開いた。


「あー、じいちゃんの孫かぁ。そっかー。よろしくねー」


「え、あ、ああ、よろしくね……」


 あっさりとした感じで言うので、おれは少し拍子抜けした。

 なんか、みんな受け入れるの早くない……?

 いくら、じいちゃんが事前に伝えてたからって、一応、異性なんですけど……

 警戒心ゼロじゃん。

 それはそれで有難いような、残念なような……


「まぁまぁ、それより早くご飯にしましょ。弓月と葵は手を洗って、食器並べてちょうだいね」


「「はーい」」


 サヤさんにそう促され、二人はリビングから姿を消し、洗面所のあると思われる場所に入っていった。

 お、おれもなんかした方がいいかな……


「あ、海斗君は何もしなくて良いからね」


「あ、はい……」


 しかし、おれの心を察したようにサヤさんに先手で釘を刺されてしまう。


「あ、あのよかったら、続き教えてもらえませんか……?」


「え、ああ、もちろん」


 少し言いづらそうにしながら、美咲さんは小さくそう言ってきたので、おれは二つ返事で応えた。

 結局、ご飯が出来上がるまで、おれは美咲さんに数学を教えるのだった。


 美咲さんの手料理は食べられなかったけど、サヤさんの手料理が食べられたので、まぁ良しとするか。

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