これが俗に言うハーレムというやつですが、おれはまだ気づいていない。

あすか

プロローグ

 1週間前、祖父が突然亡くなった。

 心臓麻痺だったそうで、おれが病院に駆けつける頃には既に息を引き取っていた。

 おれの両親はおれが物心つく前に、交通事故で亡くなってしまい、そんなおれを祖父は引き取ってくれた。

 祖父はとある事業で成功を収めており、その割には小さな家でおれは祖父と14年間、裕福に自由に慎ましく、ずっと二人暮らしだった。その祖父が亡くなってしまった。


 親というものを知らないおれにとって、祖父は心の拠り所だったから、失望感はものすごく大きかった。

 そんな失望感の中、祖父の知り合いだとかいう人と遺品整理をしていると、祖父がいつも使っている机から封筒に入った紙が見つかった。それは遺書だった。


 その遺書には遺産は全て、2年後の20歳を迎えるとおれに相続されること。そして、祖父には昔、愛人がおり、愛人との間に子供がいること。

 祖父が亡くなったら、その愛人の子供の家で面倒を見てもらうようにと書いてあった。


 祖父の子供とはいえ、今まで会ったことのない他人。到底、会いに行く気分にはなれなかった。ましてや、面倒を見てもらうなんて。


 しかし、そうも言っていられない事態になってしまった。

 なんと今まで、おれと祖父の住んでいた家が取り壊されることになったのだ。

 というのも、祖父が亡くなる前日に事もあろうに解体作業を依頼していたのである。

 つまり、住む家が無くなってしまうというわけだ。

 おれは困惑しながらも、急いで荷物をまとめ、祖父の遺書に書かれていた住所に向かうことにした。













 ♦︎













「はぁ……」


 昼の3時を過ぎ、間もなく4時になろうかという頃。

 ため息を一つ吐いた後、おれは辿り着いた家の前で立ちすくんでしまう。

 チャイムを押せばいいのだが、その勇気が出ない。というか、押してからなんて言って説明すればいいんだ?

 祖父の孫です。これからお世話になります。か?

 いやいや、これで状況が飲み込めたら、相当なもんだ。超能力者に近いぞ。

 そもそも、ここの人達はおれのことを認識しているのか?

 まず、それからだろう。


「とりあえず、態勢を立て直してから、改めて来るか……」


 小さく独り言を呟く。


 ここに突っ立っていても、怪しいだけだし、近くの喫茶店にでも行って、なんて言うか考えてから改めて出直そう。


 そう思い、踵を返した瞬間。


「……」


 こちらをじっと見ている女性がいた。

 電柱の影に隠れている。しかし、身体の右半分は見えているので、モロバレである。あれで隠れているつもりなのだろうか。


「……」


 おれはどうすればいいかわからず、とりあえずその場で女性の方に顔を向けた。


「うわっ……こっち見た……」


 すると、女性は小さく、顔を晒しながら、気まずそうに呟いた。

 そりゃ見るだろうよ……

 心の中でツッコミつつ、とりあえず、おれは声をかけてみた。


「あの……」


「私の家に何か用?」


「え?」


 しかし、おれがその先の言葉を言う前に、女性はそう言ってから、スッと電柱の影から出てきた。


 うわっ、すごい美人だな……

 全身を見た瞬間に、おれはそう思った。


 すらっと長い手足に腰元まで伸びているであろう綺麗な黒髪、顔はモデルかってくらい整っていて、おまけに服の上からでもわかるくらいにスタイル抜群。

 すれ違いざまに見たならば、思わず振り返ってしまうほどだと思った。

 こんな美人が目の前にいるなんて、少し信じられないな……


「キミが立っている後ろの家、私の家なんだけど」


 女性はそう言いながら、指をさした。


「あ……」


 おっと、まさかの住人と遭遇かよ……

 これは予期してなかったな……

 仕方ない。とりあえず、祖父のことを話してみるか。怪しい人扱いされるよりはマシだろう。まぁ、話したところで信じてもらえるかはわからないけど。


「実は……」


「あ、待って待って」


 女性は手で静止してよとアピールをしながら、もう片方の手でカバンから携帯を取り出し、何やら操作をし始めた。


「よし、大丈夫。さ、続けて」


 そして片手に携帯を持ちながら、そう言ってきた。


「は、はい……」


 一体、何をしたんだろう……

 おれは、そのことをかなり気にしつつ、ようやく話を始めるのだった。

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