2

 日が沈み、鐘の音がなると、奴隷たちは一箇所に集まる。


「なんだろうね」


 周りの流れで、列に並ぶキリユウとシルア。順が回ってくると一杯の汁が配られた。具の入っていない茶色い汁。それが一日に一回の食事だそうだ。皆が牢らしき場へ身を寄せ合い、集まっていた。


「なんで牢なのに格子も見張りもいないんだろね」


 シルアがふと疑問に思ったことを呟く。すると後ろから声がした。


「森に出たら幻魔げんまに食べられちゃうから」


 声の主は同じ歳くらいの女の子だった。純白の肌に勿忘草の様に可憐で明るく何処までも見据える様な空色の瞳に、腰まである髪は見たこともない珍しい銀色を持つ女の子が立っていたのだ。

 幻魔とは、森に出る獣のことだそうだ。逃げれば幻魔に殺される。ここにいても衛兵達にこき使われる。


「うみゅ〜あとは、奴隷には困らないからかな」


「私シルア。同い年くらいの女の子がいて嬉しい!」


「うみゅ! フィアも嬉しい。フィアはフィアナって言うの!」


 不思議な雰囲気の女の子だが、シアナと同じような笑みを浮かべる。フィアナは、キリユウの顔を覗き込み、目を丸くして驚く素振りを見せた。


「紅蓮……」


 瞳のことを言っているのだろうか。普通とは違う色。それはフィアナも一緒だが、何か惹かれるものがあったのか、じっと見つめる。


「この子、キリユウって言うの!」


 シルアが気を使い、名前を伝えた。そうするとふと我に帰ったかのように距離を取り、『よろしくね』と言い、微笑む。昼は働き、夜は牢の中で三人集まり、色々な話をした。外へ出たらなにをしたいか。そんな話をしていると大人達が睨んでいたように見えた。下らない希望や夢を話しているのが気にくわないからか。その話は一度だけにした。


「私は透き通るお花が見たいな」


 シルアは花弁が透明になる花を見てみたいといった。どこにあるかも分からないが、探してみたいと。


「フィアは……」


 フィアナは、一瞬どこか遠くを見据えるような瞳で何かを決意しているようであった。そのあと誤魔化すように『いろんなごはんをいっぱいたべたいの!』と言った。シルアはなにも不審がらず、『フィアナは食いしん坊さんだね』と笑っていたが、キリユウには何かを隠すように見えたのだ。


「ユウちゃんは、なにかやりたいことないの?」


「ぼくは……何をやりたいのか分からない」


 夢を語ることができないキリユウにシルアは、笑いかけた。


「それじゃあ、今からいっぱい見つけられるね!」


 そう言い微笑んでいた。どこまでも前向きなシルアは、暗い牢の中でも輝いて見えた。

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