第十二話 Mustang 前編

 十二月十二日、夜、曇り──


 薄明るい街灯が夜の街を照らし始めた頃、私達は寒風を肌に感じながら、皧狐に占拠された猫カフェの近辺まで足並みを揃えて歩いていた。

 現状関わりのある禊猫守全員で行う猫カフェ奪還には、彼方さんも後方から通信で支援してくれる。

 ソラさんとは連絡手段がない為誘えなかったけど、ここから先の作戦行動次第ではもしかしたらソラさんも来てくれるかもしれない。

 多少の賭けが存在するが、少しでも猫側が有利であれば時間はそう掛からない筈だ。

 団体行動を欠かさず、昨夜熟考してきた作戦は皧狐と接触を始めてから実行する。

 それぞれが違う思いで、皧狐と相対する覚悟を抱きながら一歩ずつ、前に進んでいく。

 私はこの戦いの結末次第で、皧狐との和解を持ちかけるつもりでいる。

 絶対に破滅の未来は阻止しなくてはならない。

 歩みを進める最中で一つの通信が入ってくる。

 全員に行き渡っているであろう、彼方さんからの魔術通信だ。

 謎の機械音の後に彼方さんの声が直接響いてきた。

『もしも〜し。猫カフェの様子を遠くから観てるんだけど、なんか異様な雰囲気だね⋯⋯天眼を通して見るとあからさまに変な感じだよ。赤〜い靄がかかって⋯⋯侵入を阻害してるように見えるね』

「猫カフェの中に人は?」

 モモさんは冷静に遠くにいる彼方さんに質問をかけた。

『誰一人居ない、が⋯⋯一人入り口で堂々と立っている奴がいる。待ち合わせでもするみたいにポツンと一人だ』

「随分と余裕だなあ、ソイツは」

「皧狐の一人と見て間違いないだろうねぇ」

 緋咫椰さんがフッと笑い余裕を見せ、姫李ちゃんも続けて不敵な笑みを浮かべた。

 二人はこんな状況でも変わらないみたいだ。

 彼方さんは今回私達とは完全に別行動だが、度々ああやって通信を入れる様お願いしている。

 本来なら彼方さんにも戦って貰う予定だった。

 だって皧狐の仇を討ちたいのは禊猫守の誰でもなく彼方さんのはずだから。

 それでも彼方さんが後方支援に回ったのは、多分私に全てを託したから⋯⋯。

 彼方さんにとって私が鍵だと言うならそれに応えて見せたいと思う。

 ⋯⋯狐側は猫側には理解しえない力を使う、その事は過去の経験から推測出来る。

 だからこそ、どんな異常にも即座に対応していかなければ、この戦いに勝ち目は無い。

 ⋯⋯大丈夫、少し手が震える程度の緊張だ、問題は無い。

 戦いなんて本当はしたくないけど、戦う事が必要な事なら⋯⋯覚悟はもう出来ている。そんなのはここに来るまでに何度も考えたもん。

 平和の為の⋯⋯大それた事を言うのではあれば、この戦いは私達の世界を守り、維持する為の第一歩だ。

 

 少し歩いていると、見覚えのある人物を背景に猫カフェが見えてきた。

 横断歩道一つ分の距離で私達は立ち止まり、これから相対する狐の姿を見る。

「沢山の禊猫守の反応がこっちにやってくるから何かと思えば、懲りないのね。特に真ん中にいるおさげの貴方」

「⋯⋯お前は、私の器を壊した⋯⋯!」

 相変わらず仮面で顔は確認出来ないけど、艶いた声の特徴や背格好で察しが付く。

 それにこいつは、私が今一番リベンジしたい相手⋯⋯!

「正解〜、貴方をぶっ壊したのは私。でも⋯⋯想定より治りが早いかしら?」

「おい、話しに来てんじゃねえんだよ、何もしねえなら、さっさと道開けろや」

 緋咫椰さんが乱暴な言葉使いで皧狐にガンを飛ばしながら、呼び出した鎌を向ける。

 戦えると分かってからの緋咫椰さんは凄く調子が良い。

「荒々しい猫ちゃんね、言われなくても応えてあげるわよ」

 緋咫椰さんの挑発に乗って、と言う訳でも無さそうだが、相手も腰から刀を抜いて刃先を向けた。

 早すぎる展開に私は焦り、緋咫椰さんの耳元へ顔を近づける。

「ひ、緋咫椰さんそれは早すぎますって。作戦通りにやらないと──」

「⋯⋯ああ、勿論分かってるよ。でも作戦をやるにはもう一人を呼び出さねーと」

「もう一人⋯⋯」

 そうだ、今狐は一人。もう一人、六花さんの姿がどこにも無い。

「お待ちなさい。皧狐は二人いる筈ですわ。貴方の勝手な独断で私達を狙っても良いのですか?」

「それ、猫側のアンタが言う事じゃないでしょう。無断で歩み寄って来ないで」

 睨み合って話し合うのを観ていると、猫カフェから誰かかが出て来た。

 容姿から見て、仮面を外したもう一人の皧狐、六花だ。

「⋯⋯こっちは準備出来たぞ」

「ありがとう六花。早速始めましょうか」

 そう言うと長髪の皧狐は刀を納め、何も無かったように猫カフェへ入っていった。

「ま、待って! まだ話したい事が!」

 私の制止は効かず、二人の皧狐は猫カフェへ戻ってしまった。

「話したいなら、戦って勝てって事だろ。良い度胸してんな」

「⋯⋯もうここまで来たのです。小夏、私は止まりませんわ、猫カフェに入りましょう」

 姫李さん、菜々さんが先行して入り口へ入ろうと扉に手をかざす。

「二人も待って! まだアンダーにも入ってないのに戦闘は!」

 二人が行動してしまう前に静止を促す。しかし緋咫椰さんは反発してくる。

「関係ねぇ、神社の時は発砲事件だかなんだかで騒がれちまったけど、ここはオレんとこのシマだろ?」

「奪い返すのでしょう? 小夏」

 シマって⋯⋯。

 しかし二人の息がぴったりだ。最初は仲の悪い二人だったのに、今回は気が合っちゃってるんだな⋯⋯。

「参りましょう、小夏様。モモ様も、今は考えている場合ではありません」

 ここまで口を閉ざしていたモモさんの猫が話し出した。

「⋯⋯今の今までぬいぐるみじゃと思っとった」

 ぎょろっとモモさんの猫を見ながらラオシャは言う。た、確かに私も初めて声聞いてびっくりした。

「必要最低限、言葉を発するのみですので」

「ごめんね。うちのプロデューサー、鉄仮面だから⋯⋯」

「いいや、とにかく全員待って⋯⋯私が扉を開けるっ」

 扉の前まで近づくと、二人は不思議そうな顔で私を見つめる。

「? 扉開けるだけだろ」

「うん、良く見てて緋咫椰さん。やるよラオシャ、私が発動する」

「早速出番じゃな、皆に見せてやれ、小夏」

 扉の前で手をかざし、私は神衣を呼び出した。

「依代は枷をほどき、花を宿し、猫と成る── 神衣顕現・猫魂ねこたま

「あ?」

 詠唱を合図に、魔力が私の身体を満たし始めた。

 器いっぱいの魔力を解き放ち、神衣を降ろす。

 神衣を降ろすと同時、聴覚はより鮮明に、嗅覚もより広く──

 地面と風の匂いを拾って、私は成った──

「うん、神衣は問題なく発動出来た」

「⋯⋯なあ、今の」

「ええ、お嬢。普通の神衣の詠唱と少し違いますね」

「つうかずっと疑問に思ってたんだけど、詠唱って要るのか?」

「詠唱の方式が異なるのは、我々の器と今の小夏の器の仕組みが違うからだろうねぇ。それに詠唱は必要ない事も無いぞ緋咫椰くん。言霊というヤツがあるだろう? 唱える事で本来よりも大きく力を発揮したり出来るのだよ」

「そういうもんか⋯⋯」

「じゃあ、扉を開けるよっ! 新技!」

 手に大きくピュリカフスを作り出して大きく構えた。

浄化の輪ピュリフープ!」

 そのまま大きく振りかぶり、扉に輪っかをバチんとくっ付けた。

 くっ付けた輪っかの中が直ちに割れ始めて、放射状に破片の様な光の粒が舞うと、輪の中から景色が生み出された。

 力を取り戻してから一発目の技、無事に成功だ!

「輪の中からなにやら景色が見えますわ?」

 菜々さんが輪の中を不思議そうに覗き込む。

「もしかして、空間を繋いだのかい?」

 勘の良い姫李ちゃんだ、すぐにこの技の仕組みに気付いたみたいだ。

「はい。浄化の輪ピュリフープは、私の記憶にある場所まで空間を繋げる事が出来ます。なのでこの輪は今、地下のトレーニングルームへ繋がっているはずです」

「空間を繋げるって⋯⋯もう何でもありだな」

 緋咫椰さんが呆れた態度で輪を眺める。

『後方腕組み彼氏っ』

 ご機嫌な彼方さんの声が耳に響いた。

「おい、聞こえとるぞ彼方」

 私の口を使ってラオシャが気だるく突っ込む。

 気持ちが緩むが視線を輪っかに向けて引き締める。

 今は相手に合わせて乗り込んで行く必要なんて全く無い。

 トレーニングルームまで一気にショトカを繋いで、そのまま姫李ちゃんの使っていた時計塔へ繋がっているとされる部屋まで一直線に突き進む。

 姫李ちゃんの部屋に辿り着く、今回練ってきた作戦目標の一つだ。

 この一つさえ達成しておけば、姫李ちゃん曰く猫カフェを取り戻す事が出来るようだ。

「さあ行こう、相手に乗る必要は無いよ。全部こっちのペースで作戦を進めよう」

 先導して私から輪の中へ入っていく。

 問題無く輪の先は猫カフェの地下にあるトレーニングルームへと繋がっていた。

 記憶のまま、トレーニングルームの中は皧狐の手が入っている形跡は無く、姫李ちゃんがぶっ飛ばして拉げた鉄扉が無造作に放置されている以外は綺麗なままだ。

 辺りの様子を見渡している間に他の皆も輪っかをくぐり入って来た。

「本当にトレーニングルームに繋がってるんだね〜!」

 関心を示すようなモモさんの声がトレーニングルームに響く。

「彼方さん、地下に潜入出来ました。こちらの様子は見えてますか?」

 耳に手を当てて、彼方さんと交信を図る。返事はすぐさま届いた。

『問題なし! ただ敵さんの反応が近くにある感じだから用心してね』

「すぐ隣が目的地だよな? さっさと向かおうぜ」

 入り口へ歩き出す緋咫椰さんの後ろをついていく。

 トレーニングルームを出てすぐ奥の方へ進めば姫李ちゃんの部屋だ。

 早速視界にはもうその部屋の入り口を捉えていた、かなり順調だ。

「案外あっさりだな」

「まっ、ボクの部屋に着いてからが本番だからねぇ。後の事は任せたからね、しっかり役目を果たしてくれたまえ」

「ええ、姫李さんの部屋に着いて初めてスタートラインですわ」

 そう、この大幅なショトカはいわばボス戦までの道のりの大幅短縮。まだ何も始まっていない。

 何事も無く姫李ちゃんの部屋へ辿り着き、安堵の溜め息⋯⋯忘れていた、この部屋の中の匂いと異様に積まれたエナドリ缶の山々を。

 入るや否や目が冴える様な匂いに刺激された緋咫椰さんが「うわくさっ」と即座に鼻をつまみ、姫李ちゃんを睨みつけた。

 分かる。私もここに初めて入った時もこんなリアクションだった。

 気付けば姫李ちゃんと私以外は鼻をつまみ、顔を歪ませ始めていた。

「まるでボクの普段の匂いが臭いみたいじゃないか?」

「えぇ⋯⋯」

 呆れ返りそうになった。

「姫李ちゃん、くちゃい〜」

 生まれてこの方否定する事を知らなそうなモモさんですら、これには拒絶反応を示した。

「最悪ですわ⋯⋯エナジードリンクの缶まみれで足場すら⋯⋯」

 充満した匂いを感じながらガシャンガシャンと缶の波を掻き分けて、部屋の真ん中にある姫李ちゃんの使っていたPCへと辿り着く。

 電源は入っていないようだ。

「あ! これ!」

 何かに気付いたのか、モモさんが今日一番の声を部屋に響かせる。

「な、何かありました!?」

 皧狐に関する手掛かりだろうか? 重要な物があったのかもしれな──

「姫李ちゃんこれ私のアルバムCD!! 何でこんな所に置きっぱなしにしてるの〜!?」

 全然そんな事無かった。

「ボクがそんなCDに手をつけるとでも? 大体、毎回勝手に送り付けて来るのはそちらの方だろう」

「それはそうだけど、少しは聴いてみてよぉ」

「アイドルの曲なんてたかが知れてるだろーが、電源電源っと」

 と緋咫椰さんはサラッとディスりながらPCの電源を入れていく。

「そんな事ないよ! 色んな人の努力が詰まってるもん! それにほら、このアステリズムって曲! 私が作詞してる楽曲もあるんだからね!」

「はいはい、凄いなー、憧れちゃうなー」

「うわあ、心無い返事っすねお嬢」

 ダエグ君が思わず呆れ顔で緋咫椰さんを見つめた。

 一方ラオくんは充満したエナドリの匂いが駄目なのか、私の中でずっと黙っている。

 平和になったらこの部屋を最優先で片付けようかな⋯⋯。

 電源の入ったPCからモニターが映し出されていく。

「そんな事よりもおさらいしておくよ。ボクのPCの中には、ある重要なデータが入っている。皧狐に知られる前に最優先で入手しておきたい物だ」

「その重要なデータを手に入れる事で、皧狐を猫カフェから追い出す事も出来る。そういう話だったよな?」

 姫李ちゃんと緋咫椰さんで話し合う。

 そう、何故猫カフェの奪還の際に姫李ちゃんの部屋へ行く必要があるのか、それは皧狐には決して見つかってはいけないデータとやらが、猫カフェの奪還に関わるという物らしいからだ。

 だからこの話を聞いた時、浄化の輪を起動する為にあのトレーニングルームの場所を詳細に記憶しておいたんだ。

「その通り⋯⋯ではデータを抽出しよう、少し時間が掛かるから、ココからは注意したまえよ。おい梵彼方」

『気を付けて、地下にワープして来た事、もう勘付かれてる。皧狐の反応が一気に早くなって、そっちに向かって来てるよ』

「そうだと思ったよ⋯⋯では小夏、気張りたまえよ。PCさえ無事であれば良い、皧狐に触れさせるな」

「⋯⋯そういうミニゲームね、了解」

 姫李ちゃんの今の言葉⋯⋯私の新しい能力、きっともう知ってるんだ。

『来るよ!』

 彼方さんの掛け声と共に、皆一斉に武器を呼び出した。

 同時、皧狐が一人空間を破って、ここへ飛び込んできた。

 そのまま姫李ちゃんごと貫くつもりだ。 ──させない。

「浄化の輪っ」

 と呼び出す前に、緋咫椰さんが既に動いていた。姫李ちゃんの後ろに立ち、正面から刀を受け止めた。

 劈く金属音が響き渡る瞬間、皧狐に一本の矢が放たれる。

 矢は菜々さんから放たれた物だ。菜々さんの武器は銃から一新して弓矢に変化している。

 既に動いていたのは緋咫椰さんだけじゃなく菜々さんもだった。

 この刹那の間で展開されていく事象を天眼で捉えながら、私も浄化の輪を皧狐へ振りかぶっていく。

「面倒だな」

 仮面の奥から一粒漏れた後、構えた刀を瞬時に戻して二撃、浄化の輪と矢を振り解いた。

 舞う様な動き、宙に浮いたまま身体を反り返らせても皧狐は私達を捉えている。すぐに次の一手はやってきた。

 皧狐が短刀が投げ付けるのが見えた、投げた先は恐らく菜々さんの方向。

 不味い、まだこの神衣は普通のままで──

「させない!」

 投げられた短刀はその掛け声の主に弾かれた。

 菜々さんの後ろからモモさんが持っていたステッキで防いだようだ。

「ちっ」

「終わってねえぞ!」

 緋咫椰さんは皧狐の隙を見逃さなかった。

 振り翳した大鎌は皧狐を大きく突き飛ばすと、ここまでの一瞬の攻防に幕を閉じさせた。

 皧狐は悠々と着地し、小言を挟んだ後、ゆっくりと仮面を外した。

「これはもう必要無いな」

 外した仮面から見えたその顔に、私は思わず唾を飲む。

 六花、シロちゃんが信頼を置いている人物。

「久しぶりだな、お前」

緋咫椰さんも見覚えはあるだろう、最初の時以来だ。あの圧倒的な強さは、私も忘れるはずがない。

 六花は後ろに束ねられた長髪を揺らしながら、刀を再び構えだす。

「お前の事なんて興味は無い」

 ──白い髪に、鋭い金色の目、シロちゃんと特徴はほぼ同じだ。

「あ、あの⋯⋯六花さん、は⋯⋯どうして猫巫女を狙うんですか?」

 口を開いた私に刀が向く。

「歪んだ世界を元に戻す為だ」

 歪んだ世界⋯⋯あちらから見れば、私達の世界はどこか歪で仕方ないのだろう。

 狐巫女を知る人間も居ない、関連する情報も、歴史も、この世界の人々は認識さえしていない。手段さえ存在しない。私達の王様によって、それらは全て塗り替えられた。

「でも貴方達狐巫女は、生きているじゃないですか」

「⋯⋯まだ、死んでいないだけだ。死ねない理由があるから、私は刀を振るう。お前達全員を始末して、世界を元通りにする為に」

「この戦いの先には、どちらかの破滅しか残っていない⋯⋯そう思うんですか? 限りある未来の選択を、こんな戦い一つで決めてしまって良いんですか!?」

「我々が戦う未来の道はもはや決定づけられた不変の物でしかない。そんな事をいつまでも引きずって一体何になる? であれば問おう、お前は何の為にここに来たんだ、理想論者よ」

「それは⋯⋯」

 答えたい事は、いっぱいあったはずだ。

 友達と仲直りする為、皆を助ける為、巫女同士、分け隔てなく仲良くする為、世界を救う為。

 理想論に縋るのは、正直好きだった。

 猫巫女になった時から、嫌な事を考えずに前を向いて、実践してきたつもりだ。

 でも、今はピンチで、ピンチで、いっつも死と隣り合わせな状況で⋯⋯だから、隣で笑っているシロちゃんが羨ましかった、助けられていた。

 巫女って堅苦しい事じゃなくて、ああして、決して暗くない道の先を照らしてくれる、流れ星とか、花みたいな存在なんだって気付かせてくれた。

 だから同じ狐巫女の六花さんだって、あったはずなんだ。シロちゃんとおんなじ暖かい心が⋯⋯。

「理想だからこそ、賭けてみたい思いなんだ⋯⋯取り戻してみせる、六花さんの心と、その先の未来を⋯⋯!」

「なに⋯⋯?」

「神衣解放──! ラオ君!」

「うむ、離脱するぞ!」

 精神は一つに、ラオシャの魂は私の元を離れた。

 掛け声に合わせ、更に力を解放してみせる。

 私の精神を当て嵌めて、私にしか発現出来ない力を、一気に解放させていく。

 勢いで部屋の辺りのエナドリ缶が次々に吹っ飛んで、部屋の隅に押しやられていく。仲間も皆、私の方を向いて耐えている。

「神衣解放? なんだそりゃあ⋯⋯」

 圧倒されてる緋咫椰さんを横に、私は能力を発現させた。

「ゲーム脳、全開──」

 この部屋の地形、人数、武器、スキル、当て嵌められるのは──

「ジャンル選択、RPG」

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