(終)第十二話 二人で猫巫女 後編
「一部の
今までの神衣の感覚とは全く違う。身体の隅々までラオシャと一つになって、感覚が研ぎ澄まされているようだ。
アーガルミットも見えるようになった。イズンさんの槍を振り切って、今まさに後ろにいる花子を狙おうと私たちを
『怖いか?』
心の中で、ラオシャが語りかける。
んーん、大丈夫。怖くないよ。
「
声に応じて、無数に手錠が出る。光を帯びて、私たちを中心に輪を描きながら。
でも私たちだけで対峙はしない。まずは沙莉と綾乃から。
『おい、聞こえてるかい?』
「あ、はいグリムさん。聞こえるようになりました」
と思った手前で呼び止められた。神衣の力が戻ったから、再びグリムさんの声が届くようになっていたんだ。
『それなら良かった。で、なにか策はあるのかい?』
「大丈夫です。まもなくそっちに送りますので」
『おおそうか、安心したよ。じゃあもう、全部任せていいんだね?』
「ええ。すぐに終わらせます」
『健闘を祈っておくよ!』
グリムさんとの会話が終わると、すぐに私は行動に移した。
「うおお! こなっちゃん!」
「ほら沙莉、綾乃、タッチ」
アーガルミットをすり抜けて奥の沙莉たちの所へ転移する。そして私とリンクさせる為、ハイタッチを促した。
「えっ、お、おおう⋯⋯」
「⋯⋯! はいっ!」
各々らしい反応で私のかざした手にタッチしてくれた。次はイズンさん。
「イズンさん、はい」
「ワタシもですか? は、はい⋯⋯」
イズンさんにもハイタッチを交わす。
突然転移し続けて色々する私に気が立ったのか、アーガルミットは花子を無視して私に狙いを定めて襲いかかってきた。
「まだ途中だから、少し待ってね」
アーガルミットへ手を伸ばすのを合図に、輪を描いていた手錠たちを飛ばした。容赦なく、間髪入れず、次々と身体のあちこちに手錠が
「花子〜」
さっそく上半身を持ち上げて呼びかけると、静かに目を開けて起きはじめた。
「ううん⋯⋯小夏、もう終わった?」
「あっ⋯⋯紬先輩。はい、これから終わらせるところです。でもそれには紬先輩の力が必要ですから、はい」
紬先輩の手を引いて起き上がらせた後ハイタッチを交わした。これで全員、私とリンクした事になる。
紬先輩の手を引いて、沙莉たちの元へ転移する。準備は全部整った。
「じゃあ、始めるよ」
皆横並びになったところで、手のひらで一つの球体を作り出す。
より大きく、大きく、もっと、もっと。
「うおお〜! でっかいな!」
「⋯⋯うん、出来たっ⋯⋯! それ!」
アーガルミットを覆うくらいまで大きく作った光の球体を、今度は捕縛されたアーガルミット目掛けて大振りに投げ、アーガルミットを球体の中に包み込ませた。
「この球体になった状態で空の上までかっ飛ばすから、皆も手伝って!」
「その為のハイタッチって事ね、小夏」
「はい! 神衣の力をシェアした状態だから、皆触れるようになってるはずだよ」
「凄い⋯⋯小夏ちゃん」
「皆でやったらええんやな? ええで、やったろ!」
「イズンさんも全力でお願いね」
「フフッ、当然です。やってあげましょう、グリムの元まで、全力で届けます」
『おいちょっと、丁寧に頼むよ? 受け止めるの大変なんだから』
「よしっ、じゃあやろう! 皆集まって、球体に触れて!」
球体に包まれたアーガルミットに全員で手を添える。
私たちが紡いだ力は、皆で彩ってきた、縁の形。
「フフフフ、諦めなさいグリム。原因は全部お前、なのですから」
紡がれた縁の力は途切れる事を知らない。さあ仕上げだ。
「おらああぶっ飛べえええええ!!!!」
手を添えられた光の球体は浮かび上がり、めちゃくちゃな速度を出しながらグリムさんのいる空の上まで昇っていった。
そして、知らない記憶が私の中へ入り込んだ。
知らない誰かの声だけが、私の脳内に鳴り響く。
『我に残された時間は少ない。だからお前が、我が娘を死んでも守り抜け。頼んだぞアーガルミット。後の事は全てお前に託す、だから──』
男の人の声だ⋯⋯。お父さんよりも重い声。そして、娘を守るよう命じられたアーガルミットの記憶だ。
『この世界を捨てろ──』
そこで声は途切れた。
✳︎
「良いねぇ⋯⋯本当に凄いよ小夏ちゃん。ね、ユー君」
「ああ。お前よりも才があるしな」
「うん。もう私の教えは必要ないかな⋯⋯人払いくらいだね」
「ベルカナも随分変わってしまったな。数年前は孤高を生きているようなヤツだった」
「確かに猫集会で何度も顔を合わせてたけど、報告も全然しない子だったよね」
「猫巫女に飼い慣らされた事で、アイツ自身も絆されたのだろうな。良い顔をするようになった」
「うん⋯⋯さて、私たちも帰ろうか。イズンにバレると面倒だし」
駅の上から眺める後輩の姿は、とても勇ましいものだった。
これからを期待してるよ、小夏ちゃん。
私もそろそろ、次の行動に移さなきゃ。
✳︎
「私、都会の大学に行く事に決めたよ」
あれから数日経って、私は両親と友達に進学する旨を伝えた。神無咲を卒業したら、私は上京して大学へ通い、禊猫守となって更に活動を広げながら、これからの人生設計を組み立てていくつもりだ。
ブラギさまの元にも訪れて、姫浜で活動を終えてもラオシャをウチで飼わせて欲しい事、禊猫守になってからもラオシャと活動していきたい事を伝えた。
案外すんなり返事をくれたのはありがたかったけど、隣にいたイズンさんには変な目で見られていた気がする。そうして前例に無いことばかりやる私の事は、猫集会を通して禊猫守たちの間でも少し噂になっているらしい。
猫を飼い続けるくらい⋯⋯と思ったが、猫側は町での役目を終えたら次の町へ移動するのが普通なのだから、そりゃそうかと少し納得した。
そんなところも私が変えていけるならそうしたいって、イズンさんの前で言ったらどんな顔をしてくれるだろう。それを考えると少し笑みが溢れちゃうな。
グリムさんはというと、アーガルミットがぶっ飛んで来た翌日に猫の姿をして私の家へやって来たんだ。
なんでもアーガルミットがぶっ飛んできたせいで部屋がとっ散らかってしまったらしく、そのおかげでハロウィンの準備もままならなくなったのがきっかけみたい。何故そうまでしてハロウィンを楽しみたいのかは謎のままだが、グリムさんのおかげで我が家では楽しいハロウィンパーティをすることが出来た。
でも、楽しい事ばかりが続いた訳ではない。彼方さんとは最近ずっと会えていないのだ。そしてどういう訳か、沙莉とは頻繁に会っているらしくて⋯⋯沙莉に聞いても、内緒の一辺倒。
まあ、会えなくなる訳では無さそうだから良いんだけど、気になる事は多いし少し寂しい。
そんな感じで、私たちの日常は変化していきながら少しずつ進んでいく。
──少し遅めの起床時間。
──猫の世話を済ませてから行く登校時間。
──毎日違う話をしながら、いつまでも笑い合える友達と猫の話。
──そして、猫と共にある猫巫女活動。
そんな毎日を紡ぎながら、私の日常は彩られている。
特別な事なんていくらあったって良い。それらを受けるのが、至って普通の学生であっても。
私にとっては、これが普通の日常になったから。
ね、ラオシャ。これからもよろしくね。
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