香花は五つ歌を奏でる:3 香花は雨下に立つ

電灯に照らされた銀雨が

刃となって闇を切り裂く夜

甘い香りの糸を手繰り寄せ

知らぬ道を傘差し歩く


糸の終点には白花が一輪

その顔をしとどに濡らし

それでもなお

全身で雨と向かい合っていた


寒いでしょうに

傘を差し出し問えば

硬い眼差しを投げ寄越し

白花が張り詰めた声で答える

慰めなど要らないと


幸せを空へ願うかのような

或いは恋を歌に乗せるかのような

そんな香りの白花は

少女の髪を飾る方が余程似合うのに

そんな素振りは露ほど見せず

ただ凛と雨に向かうだけ

唇を噛み締めて


明日はきっと晴れるよ

踵を返し呟きそして僕は去る

ありがとう

後ろから小さく聞こえた応えは

嬉しさの滲むそれだった


翌朝は晴れの予報

あの道にはきっと

雨で磨かれ甘さを振りまき

笑顔を浮かべる彼女が居るのだろう



―― ガーデニア「雨に漂う高潔」



「回遊魚」様(現在は閉鎖)の「香る花五題」を元に。

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