女与力・瑠璃べえ

ぜろ

第1話

 その日川から一人の十手持ちの死体が上がった。

「おとう! おとうー!」

 わんわん泣き叫ぶ遺児は三つか四つ。母はすでに亡い。十手持ち仲間は相談して、一日ずつ子供を預かることにした。それでも子供は時折夜泣きし、父親の形見の十手を放そうとしなかった。十手は所有物ではなく借り受けるものなので、十手持ちたちはそれを上に返すよう説得したが、子供は頑として首を縦に振らなかった。

「おとうが最後まで握ってた十手だ。おらのもんだ!」

 そこで困り果てた十手持ちや与力が考えたのが、この妙案だった。

「お主が立派な十手持ちになったら、この十手は返そう。それまでは我らが預かっておく。それで良いな?」

「うん! おら、おとうがあの世で誇れるような十手持ちになる! 長谷川様、約束だべ!」

 若き代官・長谷川信忠がこの約束に頭を痛めるのは、十年後である。

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