第9話 満員プールの一幕(5)

『楽しかったということにしておきますね。……まあ、それはおいといて。何か変な数値出たんですよねー。何か変わったことでもありました?』

「数値、って……。モニタリングでもしているのか?」

『あなたのことはずっと監視していますよ。おはようからおやすみまで。トイレは流石に』


 それはプライベートだからな。

 ってか、常日頃監視しているってこいつストーカーか何かでは?

 あ、神だったか。


『それは良いんですよ、それは。……で、どうなんですか。実際、変わったことはありましたか』

「うーん……そんな変わった記憶はないですけれどね。具体的に、どの数値が変わっているんですか?」

『禁則事項です』


 ちゃんとしろ。


『ああ、怒らないで。電話を切ろうとしないで! ……えーと、まあ、ざっくばらんに言うと「運命」かな?』

「運命?」

『生まれてから死ぬまでの間に起きる事象は全て、予定されている――なんて理論があるんですけれど、聞いたことあります? 予定説……だったかな。何処かの学者だかが言っていたような気がするんですけれど。あれに近いシステムが神の世界にも存在しているんですよ。もっと難しいシステムではあるんですけれど。そして、その駒である人間には一人一人運命をパラメータとして割り振っている訳です』

「……何かゲームっぽくなってきたような気がするんだが?」

『そりゃあ、データですから』


 知りたくなかったよ。自分の生き方が全て決められたものであったなんて。


『で……その運命のパラメータって、普通は固定なんですよね。変化することはないんです。まあ、それってつまり死ぬまでの間ずっとどういう風に進むかが決められている、ってことの裏返しでもあるんですけれど。運とは違うんですよねえ。運は不確定要素ですけれど、運命は確定要素ですから』

「つまりそれって……神は人間一人一人の運命を把握している、ってことなのか?」

『それぐらいやらないとね。だって、この世界の管理をしている訳ですから』


 でもこの前、この世界をバックアップにするなんて言っていたような。


『あれは、あなたがああいう風に振る舞わないとそうなりますよ、ってだけの話ですよ。実際、天使だって出てきたでしょう?』


 それもそうだが。


『しかし……その感じだと特に変わったことはなさそうですね。一安心ではあります。新しいキャラクターも出てきたことですし……』

「キャラクターって言うな、キャラクターって。一気に興ざめする」

『そうですか? ……まあ、いいや。取り敢えず、何かあったら必ず私に電話してくださいよ。夏休みは楽しまないといけませんからね。子供の役得ですから。社会人になるとお盆期間の一週間ぐらいしか休めなくて、尚且つ有給を消化しないといけないらしいですから』


 何か世知辛いこと言い出したぞ、この神様。

 そんなことを思いながら、適当に相槌を打ってLINEの通話を切った。

 まあ――変わったことと言えば、あの黒ギャルぐらいだけれど、あの黒ギャルが何かこちらに悪影響を齎しそうに見えるかと言われると違うし。取り敢えず様子見で良い気がする。

 そうして、僕の夏休みの一日は幕を下ろすのだった。

 

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