第7話 満員プールの一幕(3)

「……ええ?」


 第一に。

 困惑した。何故自動販売機の前で出会ったあの黒ギャルがここに居て、きわどい水着を着用しているのだろうか?


「あわ……あわわわ。な、何で隼人の前にスタイル抜群の黒ギャルが立っているのよ……!」

「お姉ちゃん、あまりの困惑ぶりで前後の判別がつかなくなって……」


 いや、落ち込むところそこじゃないからね?


「あれ? もしかしてそこに居るのって、彼女さん……じゃないよね。二人居るし。一夫多妻制はこの国じゃ導入されていないはずだし」


 一夫多妻制が導入されていたら、この前の騒動だってもっと楽に解決していたでしょうね。


「いや……彼女という訳ではないのですけれど……」

「うん……まあ、そうかな……多分」


 何で二人とも言い淀んでいるんです?


「ふうん……まあ、色々と話しづらい関係なのね。分かった分かった!」


 何が分かったんだ。

 結論を急がないでくれ。


「とにかくここで出会ったのも何かの縁だし……一緒に遊ばない? 良い遊び方知りたかったんだよね」

「そこは遊び方を知っている方じゃ……いや、何も言うまい」


 言ったところで何の意味もない。

 寧ろ彼女のペースに乗せられるだけに過ぎない。


「まあ……良いでしょう。どうしてそんなに隼人と近くに居られるのか、それについてははっきり聞いておかないといけないし。ねえ、隼人?」


 ぎりり。

 そう言ってひかりは僕の二の腕を捻ってきた。あんまり掴むところはないけれど、痛いことには変わりない。


「それはお姉ちゃんに同意します。……だって、気になるもんね。それについては、論理的に、かつ非感情的に話して欲しいものですね」


 ぎりり。

 そしてもう一方の二の腕を捻ってくるのぞみ。

 何だよ、お前ら二人何でそう行動が一緒なんだ……。

 あ、双子だからか。


「仲が良さそうで何よりですね!」


 その言葉、皮肉として受け取っておきますね。



   ◇◇◇



「私の名前は黒木エルザと言います。ヨロシクね!」


 エルザねえ……外国人か何か? 或いはハーフ?


「何だか私の名前について色々と聞きたい雰囲気があるようですが……一応言っておくと私は父も母もれっきとした日本人ですよ。まあ、ハーフみたいな顔立ちと言われることはありますが」


 何だっけ? 確か土地が離れていると、たとえ同じ日本人同士でも少し目鼻立ちがハーフっぽくなるって聞いたことがあるけれど、それってどっかの学説で証明されていたっけ?


「証明されているかどうかは別として……どうして隼人と仲が良いのよ。あなた、私達と同じ高校生っぽそうだけれど、全然見たことないし。都会からやって来たって感じ?」

「いやー、実は私は一人暮らしで」


 え?


「どうして一人暮らしを? よっぽどこの街に思い入れでもあるのかしら?」

「思い入れっていうか……まあ、ここが好きだったんですよね。だから一人で暮らして、高校は通うことを決意しました。と言っても、それが出来たのってここ最近のことなんですよね」

「……そうだよな」


 だって今は夏休み。転校してくるにはあまりにも時期が悪い。

 

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