第六話
草木も眠る
ベットから落ちそうで、落ちない、体制を維持しながら気持ちよさそうに、眠っている美少女が居た。
――
『でんわだよぉー、でんわだよぉー。はやくでないと、なまづめはいちゃうぞぉー』、とアニメ声の着信音声がスマートフォンから聞こえ、それに合わせるようにヴァイブレーションがベットに備え付けられている小物を置ける棚で、景気よく踊る。
しかし。
命は反応しなかった。
スマートフォンは電話に出ない、命に痺れを切らして、強制的に起こすことにした。スマホには、スマホとしての意地があった。
ヴァイブレーション機能を利用し、少し、少し、自分の
着信をガン無視している持ち主を起こすために行動をした。
本体の振動を利用し、徐々に、落下できる場所にと進んでいく。自分の体である本体が半分まで、棚から身をはみ出す。あとは、
ただし、ただ落下したとしても持ち主である命の寝相の悪さから、頭部に突撃することはできなかった。
頭を支え保護するための枕はまるで役に立っていなかった、からだ。
ただ。
そんな、命にとって必要としていない枕でも、スマートフォンには必要だった。ベットから上半身をはみ出し、墜落を免れている命を起こすためには!
スマートフォンは必死に着信音声と、ともに、
枕をトランポリンにし、算出した角度に跳ね飛んだスマートフォンは――。
「――イッ! たぁー!」
命の顔面に会心の一撃! を与えた。
額に命中したスマホの攻撃力の痛さに、命は悶絶した瞬間。かろうじてベットから出ている上半身を支えていた下半身が反射的に動き、ベットから滑り落ち、後頭部から部屋のフローリングに激突し、一際大きな音を鳴らすのだった。
「いたい! イタイ!! 痛い!!! ちょっと、
深夜二時に不謹慎極まりないほどの大声で、いらだちと不意による痛みをぶつけるように一心不乱に叫ぶのだった。
が。
誰の反応もなかった。
そんな中、スマートフォンのスピーカーだけが反応した。
<ぁー、あー、聞こえてます?
淡々とした説明口調の少年の声だった。
「聞こえてるわよ、
<
「はぁー。
<仕方ありません。これが、僕たちのお仕事ですから>
「日給、一万円の仕事内容じゃ、ないわよね。種子島」
<…………、…………>
「ちょっと!? 種子島、なんで黙ってるのよ! あんた、私よりも給金高いじゃないでしょうね!」
<では、情報収集お願いします>
「おい!」
お給金については、
一番最初にすることは調査。発生源である愛莉鈴が、ナニに影響を受けたのか? を知っておくことが、重要になってくる。
命の家の隣には、超高級高層マンションが建てられていた。
今、思えば、この超高級高層マンションを建てるために、自分の住んでいる住宅以外の周辺の土地が、一気に買収されたことを思い出す。
数年前から周辺に住んでいる人たちが、急に引っ越すことになりました。と、次々に挨拶に来ていたのだ。
不思議に思ったが、引っ越す人たちは、満面の笑みだった。
そして。
数ヶ月もしないうちに、自分の家以外が、すべて更地になり。あっという間に、超高級高層マンションが誕生した。
日照権などのいろいろな問題が発生するのを見越して、土地を購入したときよりも、数倍の値段で買い取り、引っ越ししてもらうことにより。揉め事を最小限に抑え、なおかつ、
さすがは、世界でも屈指の大企業、見事な手腕である。
と、言いたいが!
悲しきことかな、命の家の日照権は、ある意味で最高であり最低でもあった。周辺の住宅がなくなったことにより、朝日が命の部屋に直撃するというシチュエーション。月を名に持つ者として、太陽は好かなかった。
ふとそんなこともあったなと、命は、思い返しながらマンションの入り口に設置されている入居者専用の出入りを管理する端末に、カードキーを通し、暗証番号を入力し、両手の全ての指紋認証させて、さらに、
――ロックが解除された。
入ってすぐに命は、
「ご苦労さまです、
コンシェルジュの男性が丁寧な口調で挨拶し深々と会釈し終えると、
エレベーターの扉が開くと、手で扉を閉まるのを制止しながら、空いている手を差し出す。
その差し出された手に従い、命はエレベーターに乗り込むと。コンシェルジュの男性は、再度、扉が完全に閉まりきるまで深々と頭を下げた。
最短で最上階まで上昇するエレベーターは、上昇負荷を感じさせることはなかった。科学技術を結集させた最新鋭のエレベーターの乗り心地を味わっているうちに指定された階に到着したことを合図が鳴り知らせ、扉が自動的に開いていく。
最上階、全てが愛莉鈴の住居であり趣味部屋でもあった。区切られている部屋には、ゲーム、アニメ、フィギア、漫画、と。細かく趣味のジャンルごとに部屋が割り振られており、どの部屋がどのジャンルの部屋なのか一目で分かるように、ちゃんとプレートが貼り付けられていた。
廊下の突き当たりの部屋には、愛莉鈴のお部屋ですと。親切ご丁寧に巨大なプレートが、でかデカと掲げられてあった。
重厚な部屋の扉を数回ノックすると、気持ち良い音はする。が、
「ぉ邪魔しまーすぅ」
一応、最低限の礼儀として入室の挨拶を蚊の鳴くような声で呟くと。コソ、コソ、と部屋に侵入する命だった。
寝室のベットに整った
が。
すや、スヤ、と快眠中。
「今回は、メガロドンなのね。前回は、スピノサウルスに噛まれたけど」
と、ボヤく。
愛莉鈴は寝るとき、着ぐるみパジャマを愛用する。それも、エッジが立ったタイプの着ぐるみパジャマを収集し、着ることを趣味にしている。
収集している九割近くの着ぐるみパジャマは、頭部を覆い被す部分がナニかの生物に噛じられるようにデザインされてあった。
違う意味で美的感覚が洗練されている、愛莉鈴で、あった。
「さて、調べ物、調べ物、と」
命は原因の答えを探し始めたのだった。
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