第三話
「
元気なうり坊が
――体当たりだ。
「ぐ、わぁー」
強面の男たちに囲まれて銃弾の雨あられを降り注がれた少女が、口を半開きになりながら、白い泡を蟹のように垂れ流しながら固まっていた。
どう考えても左脇腹に突進した金髪少女の頭突きは、常軌を逸した威力だったと言えた。
「命ちゃん、また、わたしをのけ者にして楽しんで」
耳に届いた声は、明らかに不満に満ちた声だった。
女の勘……ではなく……男の勘が、謝罪をしていたほうが無難に物事が進むと告げていた。
しかし、月読命の先ほど耳から頭のなかに入ってきた
左脇腹に食らった頭突から、意識を取り戻し。左脇腹にある感触に視線を……。
不機嫌ですと物語っているきつい
第一印象は、間違いなく美少女。
それも外国の物語に登場する、うさぎを追いかけて異世界に行った金髪美少女に瓜二つ。
名前は、
意味――名前はその物や人の性質や実体をよく表すものだということ。
そうなのだ! この、
まさに某、外国の物語に登場する、無謀にうさぎを追いかけて異世界に行ったアホの金髪少女そのものを体現しているのだ。
この瞳の色は子どものおもちゃ売り場で駄々をこねている子どもの瞳の色。間違いなく、おもちゃを買い与えないと……喚き散らし、泣き叫ぶだろう……。
これが、私の
――
日給、一万円の護衛対象である。
……私の命の値段、安すぎない。
おっと、それはそれとして。
「愛莉鈴。私は、愛莉鈴のボディーガードだから、愛莉鈴の安全を第一に考えて行動しているの、愛莉鈴なら理解してくれるよね」
「……ぅん」
愛莉鈴は上目遣いをしたあと、ぷい! 効果音を出しながら金髪の髪を靡かせながら背中を見せた。
やっぱり子どもだ。
と。
そう考えてしまうと無意識に苦笑いしながら、頭をかいてしまう。
しかし。
その無意識にしてしまった仕草が……。
「
また言葉が聞こえた。一言一句にさっきと同じ不満がこもっていた。が! さきほどよりも、一つ感情が増えていた。
――怒り。
振り向き大きく深呼吸している愛莉鈴。そこから私に身の危険を感じさせるオーラが……。
「ちょ――」
愛莉鈴の返事はなかった。
周囲の雑音を掻き消す爆音が教室内を静寂にする。
怒り任せのパワーアップ頭突き。
「ぃ、ててッ」
しかし、なんつう石頭してるんだ、9mmの銃弾が可愛く思えてくるわ。
愛莉鈴の突進力に耐えきれずに座っていた椅子から教室の床に倒れ、しばらく左脇腹と倒れた拍子に背中を床に衝突した痛さに意識が持っていかれていた。
痛みが緩和されていき、意識が痛みから自分の上に乗っかっている人物に意識が。
「――愛莉鈴!」
金色の毛並みをした、うり坊は目を回していた。
愛莉鈴が体当たりして人物は、銃弾を人智を超えた力で防ぎ、そのうえに自分よりも、ひとまわりどころか、ふたまわりも大きな体躯の相手を素手で倒してしまう非常識な人間。
そんな非常識な存在に体当たりするということは。例えるなら、走っている十トントラックに生身でぶつかりに行くのと同じことだった。
愛莉鈴が目を回すだけですんでいるのは――――。
「
弱々しいが、一音、一音、がハッキリと耳に入ってくる声。
倒されたことによって顔の一部に黒いセミロングの髪が被さって声をかけてきている人物の姿が見ることができないが、聞き覚えのある声。
というか。
朝、電話をかけてきた人物である。
見たくないが見ないと
慌てて頭を素早く振り前髪をどかす。
――やっぱり。
声の主は、朝、電話をかけてきた人物だった。
弱々しい声音と違い、鋭い目つきで睨み見下ろしてきていた。
動揺からもの凄いスピードで眼球を縦横無尽に動かしながらも、この状況を打開するための最善策を思考した。
が、諦めた。
そして……。
最終手段として、月読命は両目を力いっぱい閉じるのだった。
「頭隠して尻隠さずって、しってます」
見下ろしている人物が感情のない、淡々とした口調で問いかけてきた。
その問いかけに対して、力いっぱい両目を閉じながら。
「
と、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます