第三話

めいちゃーんー」


 元気なうり坊が猪突猛進ちょとつもうしんしてきた。

 ――体当たりだ。


「ぐ、わぁー」

 

 月読つきよみめい、高校一年生の左脇腹に金髪少女の石頭がめり込んだ。

 強面の男たちに囲まれて銃弾の雨あられを降り注がれた少女が、口を半開きになりながら、白い泡を蟹のように垂れ流しながら固まっていた。

 どう考えても左脇腹に突進した金髪少女の頭突きは、常軌を逸した威力だったと言えた。


「命ちゃん、また、わたしをのけ者にして楽しんで」


 耳に届いた声は、明らかに不満に満ちた声だった。

 女の勘……ではなく……男の勘が、謝罪をしていたほうが無難に物事が進むと告げていた。

 しかし、月読命の先ほど耳から頭のなかに入ってきた台詞セリフから、とてもじゃないが、謝罪しても許してもらえないのではないかと、思えた。


 左脇腹に食らった頭突から、意識を取り戻し。左脇腹にある感触に視線を……。

 不機嫌ですと物語っているきつい蒼い瞳ブルー・アイが上から下を見下ろすのではなく、下から上を見上げ睨みつけていた。

 第一印象は、間違いなく美少女。

 それも外国の物語に登場する、うさぎを追いかけて異世界に行った金髪美少女に瓜二つ。

 名前は、愛莉鈴ありす・ハート。

 たいあらわす。

 意味――名前はその物や人の性質や実体をよく表すものだということ。

 そうなのだ! この、愛莉鈴ありす・ハートは。

 まさに、外国の物語に登場する、うさぎを追いかけて異世界に行ったの金髪少女そのものをしているのだ。

 

 この瞳の色は子どものおもちゃ売り場で駄々をこねている子どもの瞳の色。間違いなく、おもちゃを買い与えないと……喚き散らし、泣き叫ぶだろう……。

 これが、私の護衛対象やといぬしである。

 ――愛莉鈴ありす・ハート。

 日給、の護衛対象である。

 ……私の命の値段、安すぎない。

 おっと、それはそれとして。


「愛莉鈴。私は、愛莉鈴のボディーガードだから、愛莉鈴の安全を第一に考えて行動しているの、愛莉鈴なら理解してくれるよね」

「……ぅん」


 愛莉鈴は上目遣いをしたあと、ぷい! 効果音を出しながら金髪の髪を靡かせながら背中を見せた。

 やっぱり子どもだ。

 と。

 そう考えてしまうと無意識に苦笑いしながら、頭をかいてしまう。


 しかし。


 その無意識にしてしまった仕草が……。


めいちゃーんー! さっきの言葉、全部、嘘でしょ!」


 また言葉が聞こえた。一言一句にさっきと同じ不満がこもっていた。が! さきほどよりも、一つ感情が増えていた。

 ――怒り。


 振り向き大きく深呼吸している愛莉鈴。そこから私に身の危険を感じさせるオーラが……。


「ちょ――」


 愛莉鈴の返事はなかった。


 周囲の雑音を掻き消す爆音が教室内を静寂にする。

 怒り任せのパワーアップ頭突き。

 月読つきよみめいの左脇腹に、再突撃するのだった。


「ぃ、ててッ」 


 しかし、なんつう石頭してるんだ、9mmの銃弾が可愛く思えてくるわ。

 愛莉鈴の突進力に耐えきれずに座っていた椅子から教室の床に倒れ、しばらく左脇腹と倒れた拍子に背中を床に衝突した痛さに意識が持っていかれていた。

 痛みが緩和されていき、意識が痛みから自分の上に乗っかっている人物に意識が。


「――愛莉鈴!」


 めいはすぐに自分の上に乗っかっている人物に声をかけたが。

 金色の毛並みをした、うり坊は目を回していた。

 愛莉鈴が体当たりして人物は、銃弾を人智を超えた力で防ぎ、そのうえに自分よりも、ひとまわりどころか、ふたまわりも大きな体躯の相手を素手で倒してしまう非常識な人間。

 そんな非常識な存在に体当たりするということは。例えるなら、走っている十トントラックに生身でぶつかりに行くのと同じことだった。

 愛莉鈴が目を回すだけですんでいるのは――――。


月読つきよみさん」


 弱々しいが、一音、一音、がハッキリと耳に入ってくる声。

 倒されたことによって顔の一部に黒いセミロングの髪が被さって声をかけてきている人物の姿が見ることができないが、聞き覚えのある声。

 というか。

 朝、電話をかけてきた人物である。

 見たくないが見ないと鉛玉なまりだまをドタマに打ち込まれる、それも警告なしで。

 慌てて頭を素早く振り前髪をどかす。

 ――やっぱり。

 声の主は、朝、電話をかけてきた人物だった。

 弱々しい声音と違い、鋭い目つきで睨み見下ろしてきていた。

 動揺からもの凄いスピードで眼球を縦横無尽に動かしながらも、この状況を打開するための最善策を思考した。

 が、諦めた。

 そして……。

 最終手段として、月読命は両目を力いっぱい閉じるのだった。


「頭隠して尻隠さずって、しってます」


 見下ろしている人物が感情のない、淡々とした口調で問いかけてきた。

 その問いかけに対して、力いっぱい両目を閉じながら。


きじも鳴かずば撃たれまい」


 と、月読つきよみめいは答えた。

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