神神の微笑。愛莉鈴しんどローム

八五三(はちごさん)

第一話

 朝だ! また、今日という一日を知らせる朝。

 東から太陽が昇ってくる、西から太陽が昇ってくることを毎日期待しているが、生まれてきてから西から太陽が昇ってきたことは、一度もない。

 窓から西から昇ってくることのない太陽光が部屋のなかを照らす。

 一般的な建売住宅の子ども部屋の広さに、机やベット、クローゼットなどが、部屋の主の利便性に合わせて配置されていた。

 机の上には、デスクトップパソコンがあり、その周辺に平積みに置かれた教科書。そして無造作に開いた教科書と開いたノート、散らかり散乱する文具用品一式。

 それに対して、なぜか?

 机に備え付けられている本棚には、漫画が綺麗に収納されていた。

 開かれたクローゼットのなかには、ハンガーに制服が一応、しわにならない申し訳ない程度に吊るされていた。

 部屋のなかの様子から、部屋の主の性格が予想できた。

 その部屋の主は、ベットの上に器用に寝ていた。

 年の頃は、十代半ば。セミロングで髪の色素は黒よりも群青色をしていた。落下しないのが不思議な寝相をしているが、寝相の悪さとは違い髪は美しくサラサラと規則正しく地球の重力に従っていた。

 寝息ではなく、ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ、と奥歯で歯ぎしりをしながら苦虫を噛み潰した顔で寝ていた。

 アクロバティックな体勢で寝いている少女は、間違いなく、美少女と呼ばれる分類に属している。

 目を閉じ、小さな口で、大きな歯ぎしり音を出していたとしても、美少女だった。


 アクロバティックな体勢で寝ている美少女の頭頂部が重力に逆らえきれずに、フローリングに接触する音が部屋のなかに響く。

 もちろん美少女は――起きなかった。

 安らかなで静かな、すーすー、と寝息を立て始めると。苦虫を噛み潰した顔が幸せそうな顔に変化していた。


「これで、かいけつ」


 意味不明な寝言を言った矢先だった。

 起きろ! と言わんばかりに目覚まし時計のアラーム音が鳴り響きく。幸せそうな表情をしていた美少女の眉が自動ドアのように勝手にひそめると。

 ナニかを探すように少女の手がフローリングを這う。が、フローリングに少女の捜している物は存在しなかった。

 反重力装置でも使用しているのでは? と、思わせてしまうほどにアクロバティックな大勢を維持させながら、すらっとした脚を新体操の選手のように美しく器用に動かし、親指で目覚まし時計のアラームを止めるボタンを押した。


「あ、あさだ」


 窓のブラインドから太陽の光を浴び半目になりながら、ゆっくりと上半身を起こそうとした。

 しかし。

 やはり反重力装置は使用していなかったらしく、有名な法則を発見した人物が見た、りんごが木から自然と落下する事象が少女に。


「ぃ、たーぁーい!」


 頭頂部がフローリングを殴りつけた、その勢いで微妙に部屋の中が揺れるのだった。

 少女はプロレスラー選手が首の筋肉を鍛えるためにする、レスラーブリッジの大勢から下半身の力を利用して勢いよくクルッと回転してフローリングに立つと。

 アニメなどで魔法少女が変身するシーンに匹敵する速度で自分の着ていたパジャマから下着まで脱衣し、制服という名の学生の戦闘服に着替えると。

 

「もう、毎朝、毎朝、どうして」


 机の上に平積みに置いてある教科書を時間割表を必死に見ながら、その時間にある科目の教科書を指定の学生カバンに放り込んでいく。

 シッチャカメッチャカしながら学校に行く準備が整え終えた少女は。部屋の扉を開け、一階に降りるための階段が必要がないと言わんばかりにダイブするのだった。

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