第13話 或る記憶の話 追記

 そして、現在。

 イマは長い話を終えた。

「そう。なんとなく予想はしてたけど、やっぱりそういうことだったのね」

 ミキはそっと、イマの前髪を撫でる。

「イマ、痛みは慣れていくものなの。感じ続ければ、きっとそのうち、きっといつか平気になるわ」

 ミキは「でも」と言葉を繋ぐ。

「できればアタシはそんな解決してほしくないわ。だから、約束する。アタシがアンタを救ってあげる」

「……先輩」

「任せなさい。アタシはトヨウケヒメ様の使い、神獣のキツネよ。神様に代わってヒトの願いをかなえるのが神獣の役割よ。だから大丈夫。アタシを信じて」

 イマは小さくうなずく。

「先輩、一つだけ、お願いしてもいいですか?」

「うん。いってみなさい」

「カコちゃんのこと、祟ったり、呪ったりしないでください。正直、どう接していいかわかんないけど、でも、いつかはちゃんと仲直りしたいんです」

 ミキは驚いたような表情の後、大きなため息をついた。

「アンタ、ホントにお人よしね。わかったわ。あの子には手出ししない。約束する」

「もう一つ、いいですか?」

「一つだけっていったくせに。でも、いいわ。なに?」

「そばにいてください。先輩」

「うん。アンタが眠るまでそばにいてあげる。だから、安心してゆっくり眠りなさい」

 イマは小さくうなずくと、まもなく間に寝息をたてはじめた。

「まったく。子守りってのも大変ね」

 ミキは微笑みながらそういったあと、真剣な表情になる。

「ところで、いくら神様でものぞき見は感心しませんよ」

 ミキがいうと、ふすまが開いた。

 そこにいたのは、高校生くらいに見える少女で、染めたとわかる金髪、露出度の高い派手な服装、爪にはマニキュアという外見だった。

「あら、見つかっちゃった」

 少女は冗談っぽくそういった。

「初にお目にかかります。ウカノミタマノカミ様」

 ミキは一転、真面目な雰囲気になった。

「はじめまして。ミキちゃん」

 ウカノミタマノカミと呼ばれた少女――ウカはそういってほほ笑む。

「それで、どのようなご用件で」

 ミキの横に、ウカは座った。

「なんにもないよ。チエミ先生イッちゃんから話は聞いてたから、ちょっと様子を見に来ただけ。大丈夫? なにか困ってることない?」

 ミキはゆっくり首を横に振る。

「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

「もしもその方がいいなら、トヨウケヒメ様に連絡もつくけど、どうする?」

 また、ミキは首を横に振る。

「トヨウケヒメ様はアタシのことなんて覚えていらっしゃらないはずです。お手を煩わせるわけにはいきません」

「そう? 私は神獣の顔と名前、みんな覚えている自信あるけど」

 ウカがいうと、ミキはうつむきスカートの裾を握りしめる。

「アタシは、体も力も弱くて、神様の使いとしてヒトの為になにかをしたことなんて一度もないんです。普通の人間として生きていた。なんの活躍もなかった。だから、アタシのことなんて覚えてらっしゃらないはずです」

 ミキは「でも」と言葉を繋ぎながら、イマを見た。

「せめてこの子だけは、イマだけは、幸せにしてあげたい。それが、アタシの最後の“想い”です」

 ウカはうなずくと、そっと、指先をイマの額に置いた。

「幸せな夢を見て」

 すると、その指先がほんのり光り、イマの表情が心なしか和らいだように見えた。

「じゃあ、私帰るね。いつでも呼んで。力になるから」

 そういい残して、ウカは立ち上がり出ていった。

 家の外では、セミの声が響いていた。

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