紅の章第3節:真逆の二人と入団試験
時は流れ、異世界に来てからはや一ヶ月が経とうとしていた。
こっちでの生活にも慣れ、ロクワンも言語はそれなりに話せるようになったがイオのレベルにはまだまだ届きそうにない。
資金稼ぎのクエストも初めてこの世界に来たあの日から毎日かさず行っている。
イアオネにバレないよう最大限警戒し最速で攻略する。気づけば半年くらい遊んで暮らせるくらいの額を稼いでいた。
そしてこの異世界の言語の一つで共通語でもあるコテモルン語を教えてくれた元日本人の転生者ジル・ギ・ラウリューモが明日旅に戻ることになりイアとオネはようやくジルの重圧から逃れることが出来るようになった。
その日の夜、ワンはいつか試そうと考え購入した『刺した生き物を必ず絶命させる短剣』の効果が自分たちのも有効なのか確かめるためオニを実験材料にするも結果は【効かない】。やはり物理的に刺さっている必要があるらしく、自分たちのように体をすり抜けるタイプには効果は発動しないらしい。
「兄貴全員揃ったしさっさと始めようぜ」
茶番がひと段落着いたところでオニが本題に入るべく話を切り出す。
爆睡のイアオネを除いた全員がベッドに腰掛けイオに注目する。
「そうだな、じゃあさっそく本題に入るぞ、ロクワン、明日から二人にはやってもらいたいことがある」
「唐突だね、まぁいいけど」
「今度は何すればいいの?」
イアオネが寝てから話したということは今回もまた内緒の仕事という事。そして自分でやらないということはクエスト同様イアオネの側を離れないといけないという事。
今やっていること以外でこれらの条件にあてはまるものが思いつかない、いったいイオは何を考えているのか。
「情報収集」
「情報? なんの?」
「地球に戻る方法探すのはもうやってるじゃん、何ならモンスターにまで聞いてまわってるよ私たち」
ロクの言う通り地球に戻る方法はこの世界に来てから探している。それこそゴブリンを筆頭に人の言葉が喋れるモンスターからも積極的に情報を得用途している最中。
「いやまぁそうなんだけどさ、そろそろ範囲を拡大しようと思って」
「範囲? 人間とモンスター以外にも聞いて回るの?」
「…………あぁうんそう言うことね、もう分かった」
「えっ何が?」
イオの考えを理解したロクと全く話が読めないワン。
「でもイオ、そうなると流石の私たちでもいつ帰ってこれるか分からないよ? みんなで行かなくていいの?」
「いつもみたいに制限つけていいなら──、」
「じゃあいいですー」
一日で終わるクエストと違い長期間の遠征はさすがにイアが心配するのでは? と思ったロクは六人全員での行動を提案するが、それだと動きが制限される環境に戻ることになるぞとイオに言われ食い気味に案を撤回する。
「あぁ旅に出るってことね」
ワンもようやく理解したようでポンっと手を叩く。
「行先はこっちで決めていいんでしょ」
「ご自由に」
「兄さん兄さん、どこまでオッケー?」
「そうだなー、こっちとしてはなるべく早く戻りたいし……目的さえ忘れなければ全部許可する」
地球での生活で長年封印せざるおえなかったあれこれを存分に使えることになったことでワンの顔が眩しい笑顔に包まれる。
「ただし──、」
「お姉ちゃんとオネにはバレないように、でしょ」
それくらい分かってるよと言わんばかりにドヤ顔を決めるワン。
ただロクワンに関しては頭で分かっていても、興奮したり調子に乗ったりすると暴走してイアオネにバレかけたり怪しまれたりといったことが過去何回もあるので二人だけで行かせるのは少々不安のイオ。
「よろしい。……てことだオニ……オニ? あれ? オニどこ行った?」
対策としてオニに話を振ろうとしたイオだったがいつの間にか姿が見えなくなっており、辺りをキョロキョロ見渡して探す。
「オニならここで寝てるよ」
「叩き起こせ」
「了解」
ロクの影に隠れるようにベッドで爆睡しているオニは、ワンの喉潰しをまるで起きているかのように綺麗にかわす。
「オニ、起きて」
ワンじゃ起こせないでしょとロクが優しく揺すって起こすとオニは気だるそうに体を起こす。
「終わった?」
「終わってねーよ今から大事なところだ」
「あぁ……そう、終わったら起こして」
こちらの会話に全く参加する気を見せないオニは再びベッドに突っ伏し二度寝を決め込もうとする。
「オニ、明日からの旅お前もロクワンについて行け」
「「「 ! ? ! ? ! ? 」」」
イオの口から放たれたまさかの衝撃発言にオニの眠気は完全に吹き飛び先ほどとは打って変わってガバッと勢いよく体を起こす。
三人ともイアオネを起こさないよう声には出さないが今にも大声を出して驚きそうな程ビックリしている。
「ごめん兄貴、もっかい言ってもらっていい?」
大きく深呼吸をして一旦落ち着いたオニが確認のためもう一度聞きかえす。
「こいつら二人だけじゃ調子に乗って、無茶して、事故るのが目に見えてるからお前が付いて行ってバカする前に止めてくれ」
「うん、絶対やだ! なんで俺が!!!」
聞き間違いじゃなかったことにオニは大迷惑といった顔でハッキリと断る。
「だってこいつらアクセルしか搭載してないんだぞ、ならブレーキが必要だろ」
「だからって俺じゃなくても、兄貴が行ってくれよ」
「僕も兄さんがいい、僕も兄さんがいい!」
普段絶対オニだけには同意しないワンまでもが同じようにイオに来て欲しいと求める。
「いや、別に俺はそれでもいいんだけどさ、その場合オニがあの二人の面倒見るんだぞ? ちゃんとイアに勉強教えられるか?」
「わかった俺が行く」
行きたくないオーラ全開だったオニだったがイオの言葉で手首がねじ切れんばかりの手のひら返えしを見せ即答する。
しかしこうなるとやはりワンの不満が爆発する。
「なんで使いえないゴミなの! 足でまといなんだけど!」
「ならワンもこっちに残って、そっちはロクとオニの二人だけにするか」
「それだとこのクソガキ殺せないじゃん! バカなの!?」
「どっちだよめんどくさい」
オニと一緒に行動するのは嫌だけど離れ離れになるといつもの姉弟喧嘩が出来なくなると文句を垂れるワン。
イアオネが寝ているこの環境でなければ十倍はうるさかっただろう、それほどオニワンの関係はめんどくさく扱いが複雑。長年仲介に入っているイオでさえいまだに変なところで地雷を踏む時があるほどだ。
「誰がクソガキだこのポンコツ、死にてぇのか?」
「死ぬのは僕じゃなくてお前だから」
「はいはい話し進まないから後でやってね」
話が脱線する前に行先を塞ぎ、二人で行くか三人で行くかを決める。
「こっちに残るのは絶対ヤダからね、お姉ちゃんとオネがいたらモンスターも討伐出来ないし百パー退屈する」
「じゃあ旅組一択だな」
「そうだけどさぁ、旅組がいいんだけど、けどだよ! 不良品で情報収集の効率が下がるのは嫌!」
異世界で自由行動ができるという事もあり今回はなかなか引き下がろうとしないワン。
効率下がってる原因のほとんどはくだらないことですぐ勃発する姉弟喧嘩じゃないだろうかと言いたかったが地雷だとめんどくさいので喉につっかえたままぐっとこらえる。
「っあぁーめんどくせー、じゃあお前はどうしたいんだ?」
「僕だけ単独行動」
ソロプレイヤーのワンらしい提案だが最初に言った通りアクセル単体だけで行動させるつもりは無い。
「絶対ろくなことにならないから却下」
「呼んだ?」
「呼んでねーよ」
ロクのボケに雑にツッコミを入れ、基本三人行動をさせる方法を考える。
「…………じゃあこうしよう。基本三人行動、けどロクとオニふたりの許可が出た場合のみ単独行動可」
「なんで僕がこんな──、」
「安心しろ、俺はいつでも許可してやる」
「私もオニに賛成かな。ワンは一人の方が力発揮するタイプだし」
「てことで僕は単独行動するから」
誰一人空気を読んでくれない身勝手自由すぎる三人に頭を抱えるイオ。
「あのなお前ら、ここはチートしかいない異世界だぞ。スライムですら能力がないと勝てないのに今後相性最悪のチート持ちにあったらどうすんだ?」
「イオは心配しすぎなんだよ」
「そうそう、仮に居たとしても対峙する可能性なんてたかが知れてるでしょ」
「そう言って回収したフラグの本数言ってみな」
「「「「………………」」」」
古傷をえぐり塩を揉みこんでくるイオに一同は沈黙する。
「…………分かったよ、一緒に行けばいいんでしょ行けば! もう!」
三十分という長時間の沈黙にとうとう負けを認めたワンがロクオニについて行くこと決め、グチグチと文句を垂れながら自分のベッドにふて寝する。
「ワンって結構折れるの早いよね」
「うるさいバカ姉」
ロクの余計な追い打ちに子供のように八つ当たりをするワン。
一見しばらく口を聞いてくれなさそうな様子だが、今はただ興奮して判断能力が低下しているだけで、そのうち落ち着いた頃にそもそもイオ相手に口論で勝てるはずがないという結論に至って無理やり納得するはずなので、起きている三人の中に慰めに行くやつはいない。
「……今日はそれだけ?」
「うーん……それだけかな、あとのことは全部そっちに任せるよ」
「そっ、じゃあおやすみ」
「おやすみ、寝坊すんなよ」
「はーい」
話が終わるとイオオニは自分たちの部屋に戻り、ロクもベッドに倒れるように寝転ぶ。
──やっと楽しくなってきた
ロクは明日からの楽しみに少しワクワクしながらゆっくりと目を閉じる。
「悪いなオニ、無理やり押し付ける形になっちまって」
「別に、どーせ俺はイア姉の相手出来ねーし。それよりARIAはどこまでオーケーなんだ?」
「…………加減はお前に任せるよ」
「りょーかい」
会話が終わると同時に部屋の扉を開け、それぞれベッドに入ると静かに目を閉じる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
翌朝、ジルの見送りを済ませたあとロク・ワン・オニの三人はイアオネが起きないうちに早々に旅に出る。
「姉さん行くよー」
「はいはい、じゃあイオいろいろ頑張ってね」
「お前らも目的忘れるなよ」
ロクとワンは遊園地に遊びに行くときの子供のようなテンションでバイバイと手を振り部屋を出ていくと、先に出て行ったオニと合流しとりあえずジルと鉢合わせる可能性の少ない北に向かって歩いて行く。
昨晩あれだけ機嫌が悪かったワンが何事も無かったかのように元気なのはやはりあの後自己解決したのだろう。
「さてと、どこ行く?」
北門を出たところで今更目的地を決めようとするロク。
「情報集めるならやっぱり人間が多いところがいいんじゃない?」
「だよね、どこにする?」
クエストであちこち飛び回っていたロクワンは、中には入っていないが周辺の主要な国々の位置関係や規模はある程度頭に入っているので記憶を頼りにどの国に行くか話し合う。
一方どこに行がどうでもいいオニは二人の後ろで目的地が決まるのをあくびをしながら待つ。
「うーん、やっぱり一番大きかったあそこがいいかな?」
「あぁそうだね…………あれ? でもあの国って……」
「うんそうだね、反対側だね」
「「………………」」
「「……あぁーだるいー」」
気の抜けたけだるい声を漏らしながらとぼとぼと来た道を戻るロクワンと、二人の無計画さに呆れ小さくため息を吐きながら後を付いて行くオニ。
南門からほとんど一直線に一万キロほど進むと高層ビルのような巨大な壁が見えてくる。
壁には芸術的な模様や装飾が施されており中に入らなくてもこの国ががどれほど巨大な力を持っているのかが分かる。
計五か所ある入り口の門はうち三か所が商人、残りの二か所が商人以外の入国者という風に分かれており、五か所すべてから門側からでは最後尾が見えないほどの長蛇の列が伸びている。
まるでイベントのようなその行列の周りには商人たちが路上販売のように店を広げ、並んで暇している冒険者などに商売を持ちかけていた。
さらに行列の半数は獣人などの人外ということからこの国の心の広さも伺える。列の長さと進み具合から入国には結構時間がかかりそう……というより今日中に入れたらかなり運がいいレベルだ。
「おぉ今日もたくさん並んでるねー」
「いつもこんな感じなのか?」
「前にこの近くのクエストで来た時にチラッと見たけど、そのときはこれの十分の一くらいだったかな」
「てことはなんかイベントでもやってんのか?」
「どうする姉さん、これ絶対時間かかるよ」
「そうなんだよね、でもこれだけ集まってるなら有力な情報得られる可能性も高いんだよね」
情報が集め放題なのはいいけど入国までが暇すぎるという結構精神的に来るデメリット、大人しく他の国に行くのもありだがそれもそれでなんかめんどくさい。
ロク自身は貴重な情報が手に入るチャンスなので待つ気ではいるが、オニワンの二人がその気でいるかどうか。特にスピーディー派のワンは待つという事があまり好きではないのでこんなあからさまに長時間待つ列に並んでくれるかどうか怪しいところ。あまり期待はせずにオニワンの二人に話を聞いてみる。
「僕はどっちでもいいよ」
「えっ……あぁそう? ……オニは?」
「別に、待つなら待つで寝るだけだし」
オニもワンも適当だが待つ覚悟はできているらしい。
何よりも驚いたのはワンがはっきりと拒否しなかった事。質のいい情報が得られる可能性があるからなのか、それとも何か変な事でも企んでいるのか、どちらにしろワンの方からオッケーが出るのは珍しい。
という事で入国することになった三人は列の最後尾に並び自分たちの番を待つ。
そしてオニは並ぶや否やその場で立ったまま器用に寝始める。しかも寝てるくせに列が動けばちゃんと自分で前に進んでくれる有能さ。
そんなオニに不定期でちょっかいをかけているのはやはりワン。
寝込みを襲った時に使った例の短剣で体の様々な部位をランダムに斬りつけるも、寝たままのオニにすべて完璧に避けられるか受け流されるいつもの光景にしかならなかった。
ロクが二人のイチャイチャを周りの迷惑にならないよう監視すること半日、ようやく入国審査の出番が回ってきた。途中周りの商人が売っているアイテムや武器などを色々見たがこれと言って欲しくなるような物は置いていなかった。
半日も経っているので辺りはすっかり暗くなり、いまだに途絶える気配のない行列の左右から照明として国内から飛んできた魔法のランタンが優しく照らす。
大して国内は大層盛り上がっているよう壁の向こう側から宴の声が漏れだしている。
「@+☆{◇%◎`※%`&+■{+"△」
「ふぁぃ?」
「ふぇぃ?」
入国審査開始、いきなり聞いたこともない言語で話しかけられロクワンは首を傾けながらどこから出してるのか分からない変な声を出す。
「えっとすみません、ちょっと言葉が分からないです」
「あっ! 外国の方でしたか、大変申し訳ございません」
コテモルン語で返すと審査官はすぐにこちらの言語で話してくれた。
「それではいくつか質問いたしますのでお答えください」
そんなこんなで商人か旅人か、この国に来た目的、滞在期間など四つ五つの質問を受け無事入国。不思議なことに所有している武器など身体検査の類は一切されなかった。
ただの警備の甘さか危険物を持っていようと問題ないという意思表示なのか、どちらにしろ三人には関係ないしどうでもいいこと気にせず国内へと足を進める。
入国して門をくぐると真っ先に目に飛び込んできたのはどんちゃん騒ぎの祭りの光景。夜の野外とは思えない明るさと陽気な音楽、道行く人たちは皆楽しそうに笑っていた。
「やっぱりなんかの祭りかな?」
「ちょっと楽しそう」
「ワン、先に宿取るからどこそこいかないでね」
「んんっ」
早くも一人で自由行動したい欲が出ているワンを制止し適当にその辺を歩いて探し最初に見つけた宿にはいる。
部屋を借りるついでに外の騒ぎについて聞いてみるとオーナー曰く、三日後この国出身で世界最強との呼び声も高いギルド『ユグドラシア』の年に二回しかない入団試験があるらしく英雄の帰還と新しい英雄の誕生に感謝するためこうして祭りを開いているらしい。
「最強のギルドか」
「これはいい情報が得られそうだな」
「…………」
半日も待った甲斐があったと情報の質に期待するロクオニと何か引っかかることでもあったのか急に大人しくなるワン。
とりあえず四人部屋を一つ借り荷物を置くとそれぞれベッドにダイブする。
本当は祭りを見て回りたいところだが、半日の列待機の疲労が想像以上に大きく、部屋に入った瞬間ドッと疲れが襲ってきて体を動かす気力もなくなる。
結局ベッドに入ってからは誰一人声を発することなくそのまま眠りにつく。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
翌朝、外の祭り騒ぎに半強制的に起こされた三人はゾンビのような呻き声を上げながら体を起こし大きな伸びをする。
祭りの参加者たちは不眠不休で騒ぎ続けているのか、まだ太陽が昇り始めたばかりだと言うのに活気は昨夜よりもさらに増していた。
「まるでパリピだな」
「そう言ってどうせ混ざってくるんでしょ?」
「えっじゃあなに? 今日は一日中自由行動?」
「そうだよ好きに見て回っていいよ」
「ロク姉目的忘れてないか?」
「目的? ……なんだっけ?」
物忘れをした時のイアに似た反応ですっとぼけるロクとマジで言ってんのかとジト目で睨むオニ。
「 情 報 収 集 」
「………………あぁー大丈夫ちゃんと覚えてるよ(棒)」
長い沈黙のあと遠い目になったロクが棒読みで答える
「マジでしっかりしてくれよ、イア姉は二人もいらないからな」
「オニってそう言うところイオに似てるよね」
まるでイオ本人に怒られているような説教に苦笑するロクとこの能天気さはいったいどこの誰に似たんだかと大きなため息を着くオニ。
「ちゃんと聞け、自由行動は別にいいけどちゃんと情報は集めてくれよ」
「まぁまぁ時間はまだあるんだからそう焦らなくていいじゃん、ねぇーワン」
同意を求めるためワンの方を振り向くもさっきまでそこにいたはずのワンの姿は無く、いつの間にかどこかへ行ってしまっていた。
「あんにゃろー……」
「じゃあ私も楽しんで来るねー」
「あっおい……」
止めようと思った時には時すでに遅し、ロクはぬるりとした猫のような動きで部屋を出ていくと外の人混みの隙間を縫うようにすり抜けすぐに見えなくなってしまった。
「……イア姉の方がましだったかもしれない」
早くも自分の選択に後悔を抱きつつオニは真面目に情報収集へと向かう。
が、結局その日の成果はゼロ、異世界召喚や転移といったたぐいの魔法はやはり存在するようだが、誰が使えるのかなど進展しそうな情報は得られなかった。ロクワンに関しては九割方ただ祭りを満喫してきただけという結果に終わった。
「報告は以上おやすみ」
「ロク姉……ちょっといい事思いついたんだけど」
早々に布団にもぐろうとするロクをオニが制止する。
「なに? オニも明日から祭り参加するとか?」
「違う、そうじゃない」
「早く寝かせろ!」
「子供は早く寝てろ!」
「僕の方が数秒年上なんだけど?」
「そうやって幼稚なマウント取ってくるのが子供だって言ってんだよ」
「ならこんな子供の戯言にいちいちキレてる方も子供だね」
「…………終わったら起こして」
定期的に喧嘩でもしないと死ぬのだろうかと思うほどちょっとしたことですぐ言い合いに発展するオニワン。
止めるのが面倒なロクは二人を放置し先に就寝する。そして誰も止める者がいなくなった姉弟喧嘩はノンストップで続き、朝ロクが起床してもまだ続いていた。
「……行ってきまーす」
永遠に続くとも思われるイチャ付きを無視して部屋を出るロク、お金を持ってまだまだ勢いが増している祭りの昨日回っていないエリアへと向かう。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気が付いたときには青く澄んでいたはずの空は漆黒に染まり星が輝いていた。
──多分まだ続いてるよね
今までの経験から放置したオニワンの喧嘩が一日やそこらで鎮まるはずないと知っているロクは、お腹が空いているであろう二人のために今日食べた屋台料理の中でオニワンがそれぞれ好きそうなものをテイクアウトしてから部屋に戻る。
部屋の扉を開けるとやはり喧嘩はまだ続いており鎮火の気配は全く感じられない。
「ご飯買って来たからとりあえず食べな」
ロクがそう言うとオニワンの喧嘩はピタリと止み何事も無かったかのように食事を始める。
「それでオニ、昨日何を思いついたって?」
食事が終わったらまた喧嘩が再開されるので二人が大人しい今のうちに聞きそびれたオニの提案について質問する。
「あぁ明日のギルド入団試験参加しようかなって」
「唐突だね」
オニの提案にワンの食べる手が止まる。
「オニの事だから目的は情報収集だよね」
「そっ、なんかここのギルドって世界最強って呼ばれてるらしいじゃん。だからいろんな情報が得られるんじゃないかって思ってな」
「あぁなるほどね、確かに世界最強レベルなら有力な情報は得られそう」
そういえばここのオーナーがそんなこと言ってたなぁとロクは部屋を借りた時のことを思い出す。
「だろ、だから全員で一緒に入らないか?」
「確かに理には適ってるけど…………」
そう言うとロクはさっきからフリーズしたまま動かないワンの方へと視線を向ける。
「ぜっっっっったいヤダッ!!!!!」
「どう説得するの?」
協力する気ゼロのスーパー拒否モードに入ったワンを指さしながら頑張って説得してねと挑発した表情をするロク。
これによりせっかく夕食で中断されていた喧嘩が全く別の原因で再発してしまう。
「地球に戻るためだ我慢しろ」
「だからってわざわざ入る必要はないでしょ」
「警戒されずに情報を得るならこれが一番手っ取り早くて安全なんだよ」
「得られるかも分からない情報のためにわざわざ弱い奴らの仲間になる気はないね」
「それは戦ってみないと分からないだろ、もしかしたら全員強いかもしれないだろ」
「ならなおさら嫌だね、ただでさえ信用できないのに僕より強いとか最悪のパターン」
「信用でいるかどうかは会ってみないと分からないだろ!」
「会わなくても人間の時点で信用できないんだよ」
「異世界と地球の人間を同列に考えてんじゃねーよ」
「一緒でしょ! いつの時代でもどこの世界でもろくなことしない」
どっちの言い分も一理あるねと二人の意見にうんうんと大きく頷いていたロクが名案を思いつく。
「ねーねー、もういっそのこと私たちでギルド作っちゃってその最強ギルドと情報交換すればいいんじゃない? そうすればわざわざ仲間にならなくてもいいでしょ」
「…………まぁそれなら……まだいいかな」
情報提供者自体が信用できないという根本的な解決には至っていないがその世界最強とやらのギルドに入るよりかは何万倍もマシかなと思うワン。それにもし信用できないと分かった場合は縁を切るか排除してしまえばいいだけの話。
「そっか自分たちで作るって手があったか。じゃあ入団試験は不参加にして相手がどんな奴か見学だけしてくるか」
オニもギルド結成には賛成のようでそっちの方向で話を進める。
「何言ってるの? 僕試験でるよ?」
「はい?」
明日の予定が決まったと思った瞬間、ギルドメンバーと対戦できるわけでもないのに全く出る必要性のない入団試験に参加すると言い出したワン。
「いやだって取引先の相手が信用に値するか確認しないといけないじゃん」
「いやいや入団試験は参加者の乱闘トーナメントだから、ギルドメンバーとは戦わないから、情弱かよ」
「そんなことくらい知ってるし。優勝して入団しない代わりに手合せをしてもらうだけだし、そんなことも思いつかねーのか」
「バカなの? いや馬鹿だろ! そんな要求呑むわけ無いだろ早速怪しまれたいのか」
「人間なんてちょっと挑発すればすぐ乗ってくる生き物なんだからできるし!」
「そうやって初対面で煽るからいつまでたってもお前は一人なんだよ!!」
「この程度で落ちるような信用なら無いも同然でしょ! 半端な信頼で仲間になった気でいるようなやつよりかは断然マシ!!!」
「ボッチはいっぺんこの世界で仲間の大切さを思い知りやがれ!!!!」
「お人好しはお仲間に裏切られて絶望しろ!!!!!」
「あ"ぁ"? 何でもかんでも一人でできると思うなよ、いつか後悔するぞ」
「はぁ"? 足手まといと裏切り者しか生まない仲間なんていらないね、信じられるのは自分だけだ」
「じゃあオネも信用できないってか?」
「オネは例外前提でしょ、他の生命と一緒にしないで!」
生まれてからずっと、この二人の意見が一致して何事も無かったのはオネに対する愛情ただひとつでそれ以外はすべて真逆、お互い自分の意見が正しいと主張している癖に一致したら一致したでお互い相手と同レベルだと思いたくない一心で反発する何ともめんどくさい存在。
「二人ともほんとオネの事好きだよねー」
「当たり前じゃん」
「正直言ってお姉ちゃんなんて足元にも及ばないから」
「 言 い 方 、そうやってオブラート貫通したまま本人に言っちゃダメだからね」
イア自身もオニワンが自分よりオネの方が好きなことは知っているし、それについては仲のいい姉弟ということで微笑ましく思ってる。しかしその反面姉としては寂しいらしく、あまりにもオネの方にばっかり構っていると拗ねてしまう事もしばしば。
「ワン、出るにしても試験明日でしょ? 受け付け大丈夫なの?」
「どうなの?」
「教えるかバーーーカ」
「………………」
「………………」
『グギュギギギギィ"ィ"ィ"』『ギチギチギチギチィ"ィ"』
無言のままワンはオニの上に馬乗りになると顔面をアイアンクローで〆にかかる。
一方オニはそんなワンの首を握りつぶさんとする勢いで爪を立て指先を喉えと食い込ませる。
「……別"#"い"い"し"、@"$"す"れ"ばギギ+"*"&"%"」
「あ"ぁ"? な"ん"て? ばっぎりじゃべろ"や"」
「それでオニ、どうなの?」
「ん"あ"っ、なんでロクもそいつの味方すんだよ!」
オニがワンの手を無理やり引っぺがし、眉間にしわが寄った鋭い目つきでロクを睨みつける。
「なんでって、私はワン側だよ? 考えが似るのは当たり前じゃん」
「ほら早く教えろ」
「当日試験開始直前までやってるからそのまま一回戦で死ね!」
「その前に飛び火で殺してあげる」
ワンはそう言って綺麗な笑顔で殺害予告をするとごちそうさまをしてベッドに潜り食後の眠気に身を任せる。
オニとロクも起き着ててもやることがないのでさっさと後片づけを済ませて就寝する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
翌朝、ワンに叩きき起こされる形で目を覚ますロク。
朝食は取らず身支度だけを手早く済ませ、オーナーに試験の会場を聞いて宿を出る。
一方オニはというとワンの目覚ましは完璧に避ける癖に全く起きなかったのでロクが手首をつかんで引きずって会場に向かう。
試験会場は国の中心にありシンボルにもなっているコロッセオに似た闘技場。
祭りを回っている時に何度も目にしたので道に迷うことなく到着できた。
「えっと受付はー……」
「オーナーは行けば分かるって言ってたけど……」
そう言ってあたりを見渡すと闘技場内にまばらに入っていく人たちとは別に左の隅の方にきちんと列を作って並んでいる武装集団がいた。
「あれかな?」
「うーん……あぁあれだね、受付最後尾ってちゃんと書いてる」
ロクが目を凝らすと列の一番後ろに大きな矢印と文字が書かれた看板を持った女性が一人。
大きく書かれている方の文字はこの国の言語なので読めないが、ありがたいことに下の方にコテモルン語を含む五ヶ国語で翻訳がなされていてた。
「じゃあ行ってきまーす」
「行ってらー」
ワンを見送るとロクはオニを引きずってコロシアム内へと入っていき、中で売っていたポップコーンとホットドッグに似た食べ物、ドリンクを購入しクッションのように柔らかい石の席に座る。
一方列に並んでいたワンは受付で大まかな試合のルールを聞いてから控室へと案内される。
世界中から挑戦者が集まるからなのか受付の人も係の人もみんな日本語を含むいろんな言語を話すことができて、これにはワンも流石だなと感心する。
案内されたのは闘技場の地下でここ全体が控室になっているらしく種族問わず大勢の参加者が集まっており、そのほとんどが余裕で落ち着いた表情をしている。
──…………これ、もしかして全員僕より強いんじゃ?
参加者の第一印象は、「全員ラノベ主人公みたいな自信に満ちた表情しやがって」とぼこぼこにする気満々だったワンだが、品定め程度に控室を見て回り、直感的に今の自分ではこの場にいる誰にも勝てないことを察する。
予想外の事にワンは早くもオニに任せとけばよかったと後悔する。
「参加者の皆様お待たせいたしました。これよりギルド、ユグドラシアの入団試験を実施いたします」
どうやってこの強者たちに勝とうか考えていると、突如執事服を着たおじいさんが入ってきて話を始める。
その声は決して大きくはないもののよく響き、ワンのように端の方にいてもちゃんと聞き取れる。
「まずは改めて今回の試験について説明いたします。このあと皆様は上の方で戦ってもらうわけですが、毎度のことながら人数が多いため今回は十のグーループに分けさせてもらいます。試験が始まりますとまずは第一グループに参加される挑戦者だけが転送魔法により上の闘技場へと移動して試合を行ってもらいます。なお試合の様子は壁に張られています投影魔法でリアルタイムに視聴することが出来ます。そして全十グループの試合が終わったのち勝ち残った十名の挑戦者で最終トーナメントを行い優勝すればギルドへの入団が認められます。しかしご安心ください。万が一初戦で敗退したとしてもギルド側から直接スカウトされた場合は入団することが出来ます。ちなみにこの入団試験は優勝者が決まるまで中断することはありません。もちろんその間のお食事やお風呂就寝場所などはこちらでご用意いたしますし、何か必要なものがあればそちらの方もご用意いたしますのでご安心ください」
試験が不眠不休で続くというのはダンジョン内での長期戦を想定したものだろうか? 一見序盤のグループがモチベーションが上がった状態で試験に臨めるうえに早々にプレッシャーから解放され自信を付けられる分有利そうだが、試合中継が後の挑戦者にも放送されるという点において全体の試合時間が長期戦になればなるほど対策を立てられる危険が増えるというデメリットもある。
さらに救済処置に見えるスカウト制は受け付けの人曰く、優勝者よりも強いか高い潜在能力を持っていることが条件という優勝することよりも難しい条件となっている。
「そしてルールですが、特にございません。客席のほうもギルドの優秀な魔導師が何重にも結界を張っておりますので存分に力を開放してもらって構いません。そして万が一相手を殺してしまった場合でも蘇生魔法による復活が可能ですのでご安心ください」
淡々と説明されたルールに対しほとんどの挑戦者が思う存分暴れられると歓喜する一方で少数ではあるが嫌悪感を抱く者がいた。そして当然その少数派にはワンも含まれている。
──生き返るから殺しても大丈夫……その考えがどれだけ危険か気づかないのだろうか
どこの世界でも変わらない人間の愚かさに、ワンのギルドに対する信頼がゼロを下回りマイナスへと突入する。
その一方でルールに対し嫌悪感を抱く少数派にはギルドよりかは信用できるかな? と勝手に脳内で及第点を与える。
「ここまでで何かご不明な点はございますか?」
ルールのない乱闘を勝ち抜けばいいというシンプルなルールに質問する奴なんているのかと思った矢先、一人の黒髪ストレートロングの少女が手を挙げる。
その少女はルールに嫌悪感を抱いていた少数派の一人で、雰囲気や見た目からはこんなイベントに参加するような柄には見えない。
「敗者はどうやって決めるの?」
「敗者は自動的に医務室に転送されますので転送されたその時点で挑戦者は敗北とみなします。医務室に転送される条件は、【死亡する】【リタイアを宣言する】【戦意を喪失する】の三つです。それ以外はたとえ重症であっても転送されえることはありませんし敗北にもなりません。また逃亡した場合も敗北といたします」
──リタイアありなんだ……
リタイアが可能ということに少しだけ勝機を見出したワンは今まで考えていた作戦を最終手段にして新しく作戦を練り直す。
「他に質問はございませんか? ………………無いようですので早速第一グループの試合を始めたと思います」
そう言って執事がパチンッと指を鳴らすと控室にいた挑戦者の中から百人以上が一瞬にして姿を消す。それと同時に上の方から観客たちの歓喜の声が響き渡る。
「前のグループの試合が終わり次第連絡いたしますので、残りの皆様はご自分の番が来るまでごゆっくりお過ごしください」
そう言うと執事は控室を出て行き、残された挑戦者たちはそれぞれ思い思いに寛いだり武器の手入れをしたりする。
第一グループは一時間ほどで試合が終わり、歓声が落ち着いてしばらくすると勝ち残った一人が回復を終え執事と一緒に戻ってくる。
その勝者は余裕の表情で控えの挑戦者たちの間を堂々とした態度で歩き奥の壁に腰掛け居眠りを始める。
「それでは第二グループの転送を行います」
執事の指パッチンで次のグループメンバーが転送され控室の空間にまた少し余裕ができる。
その後の第二グループは挑戦者全員の力が拮抗しており五時間という長期戦になったが逆に第三グループは勝者の範囲攻撃によりたった数秒で決着がついた。
──なろう主人公みたいな威力だったな……
第四グループは長期戦を得意とする挑戦者で固められていたせいか三十時間以上にも及ぶ超長期戦となり、控室にいたワンを含む半数が寝落ちし、次の日は最後の数人になるまで試合の映像を見る奴はいなかった。
夜中の第五グループはこれまた露骨に夜行性の獣人や夜の戦闘を得意とする挑戦者で固められ闇闇しい戦闘が繰り広げられる。なお投影されている映像は通常はハッキリクリアに見えるのだが、挑戦者の技や能力に画面が真っ暗になることもしばしば。試合自体も画面が暗闇から解放された時には既に決着がついているという視聴者殺しの結果に終わった。
──流石に画面越しじゃ見えなかったか、しかたないその場で対策しよう
第六グループは闇属性第二ラウンド、第五グループと同じ夜に強い挑戦者たちで溢れる中には刀を持ったあの黒髪ロングの少女もいた。第六グループは序盤中盤までは拮抗状態だったが、丑三つ時を迎えた瞬間少女のパワー・スピードが急激に上昇し無双状態となり全員斬り伏せてしまった。
蝶のように舞う身のこなしから振るわれる紫電一閃は思わず見入ってしまうほど繊細で鮮やか、これにはあらゆる剣術を見てきたワンも思わず口笛を吹いてしまう。
「……強すぎ」
そして第七グループ。こちらは勝者の圧倒的で豪快な一振りにより他挑戦者は全滅、観客を守っていた結界が全て壊れるという事態に発展し第八グループの試合開始時間が少し伸びた。
──このタイプには絶対負けないはずなのになんか勝てる気しないんだよね……
その第八グループは遠距離武器の対決、弓や銃、さらには魔法まで時代も技術も世界観ごとごっちゃになったカオスな対決が始まった。この中では弓系統が不利そうに見えるが、魔力や能力を上乗せして放つその一撃は弾丸や魔法を貫通し対象者を貫き一撃で仕留める。結果は弓がごり押しする形で勝利し闘技場の地面には無数の穴が開いたことで修復作業が開始された。
──魔法貫通ってことは……まさかね
朝日も高く昇り始めたころ第九グループの試合が始まる。今回の対戦カードは魔女及び魔導師による魔法対決。魔法が一切使えないワンにとっては少し興味があると同時に一番対策を立てなければならない対戦。
試合開始の合図と同時に巨大な爆発や竜巻、津波に落雷と挑戦者たちが一斉に放った上級魔法により闘技場はカオスに飲み込まれ結界を数枚割っていく。しかも驚くことにこれだけの間号がぶつかったにもかかわらず脱落者はゼロ、さらにたたみかけるように見たことも無いような魔法を次々とぶつけ合う。
「…………ははっカオス」
今のところ手加減したままでは全く優勝できる未来が見えないワンは後で怒られることを覚悟で力の解放を検討する。
そしてやっと第十グループ、ワンの番が回ってきた。
残っている挑戦者を見たところみんな防御方面に自信がありそうな装備や肉体をしている。
執事が毎度の如く指を鳴らすと一瞬時空が歪んだと認識したころには闘技場の舞台へと移動していた。
挑戦者たちが闘技場に姿を現すとここにいる奴らは皆バケモノかと思うほど全く衰えと疲れを見せない歓声が沸き上がる。
「おっやっと来た。オニ、ワンが来たよ」
「@・¥%#+"&∇(やっと来やがったか)、待たせやがって」
ワンの出番が遅すぎてロクに膝枕をしてもらって寝ていたオニが大きな欠伸と伸びをして起きる。
「その割には最初のグループからずっと寝てたけどね」
「いやぁ普通に眠かった、正直今もかなり眠いけどこの対戦は見逃せないからな」
「それ、ワンの負ける姿が見れるからって意味でしょ」
「of course、そうじゃなかったまだ眠いのにわざわざ起きたりしないっての」
こういうことに関しては人一番興味が強いオニ。もちろん参加していたのがオニだった場合ワンもオニの無様な敗北が見れるとわくわくしていただろう。
「それで、オニは負けるって予想でいいの?」
「予想って言うか事実だからな、あの中じゃ間違いなく最弱だ」
「オニが言い切るほど差は歴然ってことね」
「あくまで手加減した今のままだったらって話だけどな。その気になれば逆に負ける要素は無いだろ」
「そうだね、その場合……ワンは代償で死ぬかもだけど」
いつも冗談でしかこういうことを言わないロクが珍しく真剣な顔とトーンで静かに呟く。
「いくらあの単細胞でも自滅するほどの出力は出さないだろ、出せばいいのに」
「どうかなぁ、オニと一緒で負けず嫌いだから私は無茶すると思うなぁ」
「俺はそんな子供じゃねーし!」
「どの口が言ってんだか……」
「まぁ俺は負け面さえ拝めればいいから敗北者の末路はどうでもいいかな」
──いろいろ好き放題言いやがって、あとで殺す
外野から聞こえてくる煽りに耳を傾け殺気の矛先を対戦相手共ではなくオニに向けるワン。
≪ドォオ"オ"オ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"ンッ≫
「…………チッ」
それと同時に試合開始のゴングが鳴るとワンは少し悔しそうに舌打ちをする。
ゴングが鳴ったと同時に挑戦者全員に向け物理攻撃を放ったワンだったが、攻撃を受けたはずの挑戦者たちは全員ぐらつくどころか自分が攻撃されたことにすら気づいていない様子だった。
光の速さに匹敵する攻撃速度なので人間ごときが反応できないのは分かるが、一切ダメージが入っていないことはワンにとって一番の誤算だった。
攻撃がヒットした際拳に感じたのは、いつの日か討伐したゴブリンキングに似た手ごたえの無い時の感覚。
──蚊に刺された程度ってことか……普通にキツイ
勝つ方法が相手全員をリタイアさせるしかないワンは自分にとって唯一安全な攻撃が効かないことに完全に勝機を失い、自分からも相手からも攻撃の効かない実質的な『空気』になってしまった。
──現状でこの中に僕にダメージを与える手段を持っている奴はいない、このままだと永遠に決着がつかないな
全員の防御力が限界突破しているためこのままでは本当に相手がリタイアするか餓死するまで試合が続いてしまう。
そうなるとワンが圧倒的に有利だが、残念なことにワンはオニと違い長期戦が大嫌いな性格。こと戦闘においてはいかに早く最短で仕留められるかを重視するスピードクリアタイプ。
ゆえに戦闘中の無駄な行動や油断を嫌い、意味もなく技名を叫んだり敵から目を逸らして指示を出すなどの行為に異常なまでの嫌悪感を持っている。
なのでこういう持久戦になった時ワンは無理をしてでも早々に相手を倒そうと禁術に手を伸ばそうとする。
両手の指を親指と人差し指だけ立てその手を胸の前で斜め四十五度の角度で、正面から見た時にちょうど『♮』を反転させたような形に構える。
その瞬間、雰囲気か感情か正体は分からないが、本能的に得体のしれないナニカを感じ取った観客を含むその場にいた全員の視線がワンへと向けられる。
「AIRA THE WORLD ~鍵~」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
≪後書き≫
はじめましての方は初めまして、ご存じの方はおはARIA。IZです。
チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。通称「チカ異世」。
『紅の章』第3節お待たせいたしました。
さてさて後書きですが、前回はケルベロスでしたので今回もモンスター繋がり――、
前回、チカ異世『紅の章第2節』で登場したモンスター【ゴブリンキング】について詳しく書いていきたいと思います。
※さらに詳細を知りたい方はコメントしてくれれば追記します。
【チカ異世モンスター図鑑】
≪名前≫
・ゴブリンキング
≪分類≫
魔族界_脊索動物門_哺乳網_モンスター目_魔物科_ゴブリン属_ゴブリン種
≪特徴≫
・通常のゴブリンとは違いブクブクと太った姿をしたタイプもいれば超マッスルなタイプもいる。
・体に毛は生えておらす緑色の皮膚が剥き出しになっている。
・知能がそこそこ高く、一度聞いた言葉はその場ですぐに覚えてしまう。
・核(コア)は心臓部。
・現役のゴブリンキングが死ぬと残ったゴブリンかゴブリンリーダーの中で一番強いゴブリンが次の王として突然変異する。
≪ステータス≫(11段階評価)※0~10
体力・・・2
攻撃・・・3
防御・・・2
魔力・・・1
素早さ・・・3
知性・・・5
≪能力≫
【王は最後まで倒れぬ:キング・オブ・キング】
・メリット
この世界にゴブリンが生きている限り自身への身体的ダメージは0になる。
・デメリット
呪いなどの身体的ダメージ関係なしに殺せる技は防ぐことが出来ない。
≪性格≫
非常に残酷無慈悲。
同族しか信用せず他の種族は騙して使い捨てるか奴隷にする。
≪大きさ≫
一般的なゴブリンが人間の小中学生くらいの大きさに対しゴブリンキングは二メートルを超えるものがほとんど。
≪食性≫
純度の高い魔力を持つ生命を好んで食べる肉食性。
肉は生でも食すが基本的には焼いて食べる。
≪コアの値段≫
一つ1000ゴールド。
※コアが発する魔力の純度によって値段が上がる。
この作品はあくまで二次創作ですのでこれを機に本家さんを好きになってくれる人がいたらうれしく思います。
それでは次回
【チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。】
蒼の章第3節:夢魘
紅の章第3節:ギルド『ユグドラシア』
それぞれの後書きでお会いしましょう。
あとがき
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