緊急時における自己防衛の行動と後処理

酒戸津真実

第1話 もはやこれまで

人間関係というのはいつでも問題となり得る。人同士はそれぞれの持っている価値観が違うからだ。もしかしたら私の持っている価値観はある人にとっては許し難い悪だという可能性も十分にある。そういう人とも分かり合えればいいのだが・・・。

休日なのにそんな考えを巡らせている。それも原因は上司だ。反りが合わないなんてもんじゃない。少し愚痴を聞いてくれ・・・。

私の職場はノルマがあり、それに向けて努力をしている。私自身もある項目をのノルマ達成をするように、と任されていた。それ自体は何ら問題ではないし、寧ろやりたい、得意なことだったので楽しくやり甲斐もあった。月も終わりに近づくころ、嬉しいことに今月分のノルマはもう達成していた。なんだ、やれるじゃんと喜ぶ私に上司はこう告げた。


「今月のノルマ2倍にするから。」


上司の言い分によると半年ベースで見たらまだ足りないらしく、その分を埋め合わせるため、らしい。冗談じゃない。今月ももう何日もないのにそれはないだろ。だとしたら最初からその分をちゃんと含めておいてくれよ。

人間ミスもあるだろう。許してやれよと言われるかもしれない。確かにそれも一理ある。私だってミスをするし、これだけならああだこうだ言わない。これだけなら・・・。

早口で指示が聞こえない時がしばしばあり、良くはないと思いつつ聞き返す。そんな時決まって「もういい」と言い捨てるのだ。そのくせ他の人の相談は聞こえない聞こえないとしつこく言うのだ。

決定的に合わないのは全て「見て覚えろ、一回しかやらないからそれで覚えろ」と言うのだ。確かにそういう心構えは必要だし、少ない回数で覚えられるに越したことは無い。しかしその一回が短くても一時間半はかかる作業である。それも一つではなく複数だ。果たして彼は一回で覚えることの出来る人間なのだろうか?そのような人間なら鈍くさい私の気持ちなど分からないだろうし、そうでないなら無理なことを押し付けるのはいががなものかとも思う。

その上分からない所を聞こうとすれば「なぜ分からない?」の一言である。なぜと言われても分からないことは分からないだろう?これが「どこが分からない?」だったら最初とか最後とかと答えられる。しかしなぜ分からないと言われても分からない理由なんてどう答えればいいのか?その答えを考えていれば無視した、だの言うのだからたまったものではない。

おまけに少しでも気に入らないことがあれば舌打ちやペンを投げる、へし折る・・・気持ち悪くなってきたのでここまでにしておこう。すまなかった。ただこれらの行動は彼自身の崇高なる価値観とか信念から出た行動なのだろう。

こんな人であれば今のご時世ある程度絞られても仕方ないはずだ。しかしそういうのは一切ない。上層部もなあなあで済ませるからだ。多少厳しいだけとか君のためを思ってとか言うがそういう次元ではない。同僚も改善をするよう何度も訴えたがそんな具合なので上司は居座り続けるわけだ。

では辞めよう、としてもそうは問屋が卸さない。執拗な引き止めにより辞められない。ここを辞めてどうするだとか、行く場所はないぞとかしつこく言って引き止めるのだ。辞めたいと思うような仕打ちをしといて辞めるな、なんてのも変な話だがこれが現実である。

こんな要素が絡まり合い、毎朝気持ち悪さを抱えつつ出勤している。休日でも仕事の嫌なことを思い出し、頭を抱える。別のことをしても気が晴れない。こんな毎日は御免だ。もはやこれまでと思っても逃げる方法も分からない。何か、何か救われる方法はないのか・・・・そう思いつつスマホをいじる。

その刹那、目に飛び込んできたある広告。私は詳細を見て確信する。と同時に重い体が少し軽くなり、自然と笑顔になっていくのが分かった。これだ、この方法ならやれる、一矢報いつつ救われる・・・!



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