77.みすふぃの弟子入り 2
「おーい、こっちにも採取ポイントがあったぞー」
「はーい、今行きます!」
「気合い入ってるわね、みすふぃ」
「それは、オババの弟子になれるかがかかっているからだろ」
みすふぃがオババの弟子になりたいと言いだし、オババの元へ連れて行ったのが昨日。
そのときのテストでは、みすふぃがオババの仕込んだ罠に気づけず流れ作業でポーション作りをしてしまったため、テストは不合格になった。
それで今日は再試験というわけだが、お土産に精霊の森で採れる素材を要求されたのでいろいろ採取しているわけだ。
……わけなのだが。
「それにしても木の上にまで採取ポイントがあったなんて盲点だったわ」
「サイ、俺も同じことを考えていた」
「鳥人じゃ森の中を飛べないものね」
「するする木に登っていくからなにかと思えば、木の上の採取ポイント巡りだったんだな」
そう、みすふぃは木の上にある採取ポイントまで発見して、木を登り採取してくるのだ。
手に入れてくるアイテムは聞いたことがないアイテムばかりで、生産職連合協同組合でも持て余しているらしい。
今回のテストに合格できれば、これらの使い道もわかるかもと意気込んでいるのだよ、みすふぃは。
「それにしても、私じゃ木の上の採取ポイントなんて見えないんだけど?」
「俺もだな。ただの木にしか見えない」
「ああ、おふたりとも【探索者の眼光】スキルを持っていないからですよ」
「【探索者の眼光】?」
「普段は見えない採取ポイントが見えるようになったり、遠くからでも採取ポイントがわかったりするスキルです。採取系生産者には便利ですよ。覚えてみます? というか、覚えませんか?」
「……いや、止めておくよ。どうせ、なにかのクエストで覚えるんだろう?」
「……残念です。うちのギルドでも覚えてくれる人はほとんどいないんですよね……」
生産職でも覚えないスキルとかどんだけ面倒なクエストなんだか。
隣では、サイが攻略サイトを見て情報を確認している。
「……みすふぃ、そのスキルの情報、攻略サイトにもないんだけど……」
「ああ、そういえば検証系のギルドに教えるって約束したっきり教えてませんでした。向こうも最短ルートで丸5日間拘束されるクエストは検証している時間がないとかで」
「……みすふぃの最短ルートって常人には付いていけないのよね」
「そうなのか?」
「わりと有名な話よ? 優秀すぎて攻略ルートが使えないって」
「そうなんですよね~。そんなに苦労しないはずなんですが」
「……いや、12時間以上かかるのを『苦労しない』とは言わないからね?」
「そうです? 楽しいことをやっていれば、それくらい苦じゃないですよね?」
「……くっ、否定できない!」
「俺も否定できないな。空を飛んでいるときとか、めちゃくちゃ楽しいし」
「ですよね、ですよね!!」
つまり、みすふぃは生産廃人の中でも極まった人間ということ、と言うのがサイの評価だった。
俺も飛ぶのは好きだが、何時間も飛び続けるのはちょっとな。
……早く飛行スキルを覚えたい。
「手土産ってどれくらい必要ですかね?」
「採取し始めてまだ30分くらいだし、あと1時間くらい粘ってからオババのところに行きましょう」
「……そうか? 俺には、もう十分すぎるほどの手土産が集まっているように見えるが」
「念のためってヤツよ。手土産が多くて困らせることはないでしょ? ……多分」
「そこは言い切れよ、サイ」
この後、採取をするのが楽しくなってきてしまい、結局は2時間くらい採取をしてしまった。
さすがに手土産には多すぎる気がするんだが、オババならなんとかするだろう、きっと。
多すぎれば、オジジや姫様におすそ分けが行くだろうし……。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「……ずいぶんとまぁ、素材を持ち込んできたね」
俺たちが持ち込んだ手土産を見て半ば呆れるオババ。
……取り過ぎた自覚は俺にもある。
ちなみに、いまここにいるのは俺とオババだけで、みすふぃとサイは調合の準備をしている……はずだ。
「やっぱり多すぎたか、オババ」
「いや、多い分には助かるから構わないんだがね。……これとかこれ、木の上にしか生えていない貴重な薬草なんだがどうやって見つけたんだい?」
「それはみすふぃが見つけたんだよ」
「ほほう。と言うことは、あの子【探索者の眼光】持ちかい。これは拾いものかねぇ」
「ときにオババ。この素材で何が作れるんだ?」
「毒をしばらく完全無効化する薬やおなじく麻痺を完全無効化する薬、あるいは複数の状態異常を回復する薬さね」
現時点での最前線でも作れないアイテムがまた出てきたぞ?
きっと、上級の調合で作れるんだろうな?
「……とんでもないものを持ち込んだな、みすふぃ」
「まあ、これだけじゃたいした量は作れないから、しばらくは作らないけどね。あんたらが欲しいんなら優先で回してあげるよ?」
「いいのか? オババ」
「これ以上、上を目指さないとはいえカワイイ弟子だからね。それくらいの役得はさせて上げるさ」
「さんきゅ」
その後も、オババと軽い雑談をしながら薬草を仕分けていく。
ごちゃっと置いてしまったので、分別しないといけないのだよ。
その作業が一段落付いたところでサイが俺たちを呼びに来た。
「オババ、フィート。みすふぃが調合の準備ができたって」
「わかったよ。それじゃあ、調合室に行こうかね?」
「了解」
さて、今回は合格点をもらえるのかな?
調合室に着くと、若干緊張気味のみすふぃが待っていた。
「……ふむ、薬草の仕分けは完璧さね」
「ありがとうございます。今日は事前に仕分けの時間をいただけたので」
「まあね。……さて、今日の課題だが」
「はい」
「低級メディテポーションの品質Bを50個連続で作りな」
「品質Bですか!?」
「ああ、そうさ。場合によっちゃ、低級品の方が便利なこともあるからね」
「……わかりました、頑張ります!」
早速作業に入るみすふぃ。
薬草を仕分けてあっただけあって、B級品の素材もきちんと仕分けられているようだ。
「ちなみに、オババ。低級品の方が役に立つ場面って?」
「例えば毒消しなんかだね。弱い毒なら弱い毒消しで十分なのさ。強い毒消しは体にもよくないんだよ」
「ふむ、ポーションの過剰回復が減るのね。今度、検証屋に確認してもらお」
俺たちが話し込んでいる間にも、みすふぃの作業は着々と進んでいく。
今回は『再現』を使わずすべて手作業でやっているようだ。
やっぱり『再現』だとA級品ができる事故が怖いのだろう。
「いいねぇ、基本を着実に守っている。いい弟子候補を連れてきてくれたよ」
「本人、生産中毒者だからな」
「……それは体調管理から教えないといけないねぇ」
やがて、オーダーであるポーション50個が完成し、オババが検品を始める。
その様子をドキドキしながら見つめるみすふぃ。
やがて、検品作業は終わり、結果が発表される。
「低級メディテポーション、B級品50個確かに確認したよ。合格さね」
「本当ですか!?」
「嘘を言ってどうするのかねぇ。これで、アンタも今日から弟子だよ」
「ありがとうございます!」
「よかったな、みすふぃ」
「おめでとう!」
「はい! ありがとうございました!!」
体全身で喜びを表現しているみすふぃにオババから忠言が一言かかる。
「嬉しいのはわかるけど、調合室ではしゃぐのはよしな。どんな危ない薬品があるかわからないからね」
「……あ、すみません」
「まあ、その辺もこれから教えていくさ。フィートとサイはこれからどうするのかねぇ?」
俺たちか……どうしたものかな。
「時間があるときだけ学びにくるって大丈夫かな?」
「それで構わないさね。そもそも、そういう人種だって聞いてるしね」
「理解が早くて助かるぅ、オババ!」
ともかく、これでみすふぃをオババの弟子にするというミッションは終わった訳だ。
みすふぃのことだから根を上げることはないないだろうし大丈夫だろう。
……さて、次は俺たちのクエストを進めなくちゃな。
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