76.みすふぃの弟子入り
「本当に会ってもらえるんですか!? 嘘じゃないですよね!?」
「うるさいわよ、みすふぃ。っていうか、このやりとりも何回目よ」
確か五回目くらいのはずだ。
生産職連合協同組合でガオンから俺たちは依頼を受けた。
まずは、オババに意向を聞かなくちゃいけないのでコールカフで連絡をする。
返ってきたのは意外にも、会って話がしたい、という答えだった。
それを伝えたらみすふぃは大喜び。
勢いそのままにファストグロウに飛んでいきそうになった。
そこを、ガオンを含めた三人で落ち着かせていまに至るというわけだ。
「……それにしても、この通りって本当にプレイヤーがいませんよね」
「まあ、主要なルートからは外れちゃっているからね。……さあ、ついたわよ」
「はい。それではお邪魔します!」
「そんな勢いをつけなくてもな」
「本人にとっては大事なことなんでしょ」
店の中に入るとみすふぃとクシュリナさんが話をしていた。
どうやらいまの時間帯の店番はクシュリナさんだったようである。
「フィートさん、サイさん。オババさんは奥にいるらしいです、一緒に行きましょう」
「わかったわかった。だから袖を引っ張るな」
「オババは逃げやしないわよ」
「でも、一刻も早くお目にかかりたいんです!」
そのまま引っ張られるように店の奥にある調合室までみすふぃと移動する。
そこにはお待ちかねのオババが待っていた。
「ああ、来たね。その子が新しい弟子志望の子かい?」
「はい! みすふぃって言います。よろしくお願いいたします!」
「元気がいいね。まあ、元気だけがよくても弟子にするつもりはないけどさ」
そう言って、オババは手早く調合用の設備を並べ終える。
「さて、入門に当たっての試験だよ。作るのは低級リジェネポーションと低級メディテポーション。ここに素材を五十個分ずつ並べた。全部品質Aでそろえられたら弟子入りを認めてやるよ」
「本当ですか! よーし、がんばります!」
気合い十分なみすふぃに対し、どこか見定めるような目で見るオババ。
さてどうなることやら。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「順調順調、このまま行けば全部をAで作るなんて楽勝ですよ!」
みすふぃが軽口をたたくように、ポーションの作成はスムーズに進んでいた。
このまま行けば問題なくすべてがA級品になるだろう。
だが、隣のオババをみてみると、にやりと人の悪そうな表情を浮かべている。
ああ、これはなにか仕掛けを施しているな。
それに気がつけるかどうかも試験内容か。
サイもそのことに気がついてはいるようだが……俺たちが口に出すのは厳禁だろう。
そうこうしている間に、ポーション作りも佳境に入り残り十個までたどりついた。
ラストスパートとばかりにみすふぃが薬草の束を手に取った。
……が、あれ?
隣のオババに視線を向けると、なにも言うなと視線で制された。
どうやら俺が気がついたことは間違いじゃなかったようだ。
「さーて、それでは『再現』っと……ふぁ!? なんでここに来てB級品が混ざってるんですか!?」
「どうやらここまでだね」
オババの無情な宣言が下され、試験は終了した。
みすふぃは試験のショックから立ち直れず呆然としている。
「みすふぃと言ったかい、シャキッとするさね!」
「ふぁい!!」
オババの一喝で正気を取り戻したようだ。
さて、このあとはどうするのかな?
「さて、みすふぃ。あんた、なんでB級品ができたか理由はわかるかい?」
「え……理由ですか?」
「ああ、理由さね。私ら調薬士は薬を完璧な状態で仕上げなくちゃいけない。それに失敗したのなら、なにか理由があるはずなんだよ」
オババの言葉を受けて、みすふぃは少し考え込む。
少々間をおいて出した結論は、
「私の未熟、じゃないんですか?」
「20点さね」
オババ、辛辣だなぁ。
そういう点数にもなるんだろうけど。
「さて、作業を眺めていたフィートはわかっているだろうね?」
「ああ、もちろん。使った薬草の中にランクが落ちるものが混ざっていたんだ。それを使ったせいでポーションの品質が下がったんだな」
「満点だよ。……まあ、傍から見てたんだ。それくらいわかってもらえないと弟子失格だけどね」
よかった、間違えてなくて。
どや顔で説明して間違えてたらかっこ悪いなんてものじゃないぞ。
「……そんな……どうして、薬草の中に低品質のものを?」
「決まってるじゃないか。あれだけ同じポーションを作れば流れ作業になるさね。それは否定しないしダメだと言うつもりはないよ。でもね、だからといって素材の品質チェックをできないようじゃ未熟としか言えないねぇ」
「……う、それは」
「否定できないだろう。そういうことだよ」
みすふぃ、完全敗北だな。
俺もてっきりポーションを作る正確性と速さを見るものだと思ってた。
けど、実際には作業の正確性を見ていたんだものな。
完全にだまされたよ。
「まあ、そういうわけだから今日のテストは不合格だ。残念だったねぇ」
「うぅ……」
「諦めるつもりがないなら、また明日きな。……手土産に精霊の森にある薬草を持っておいでよ」
「え!? 明日も試験をしてくれるんですか!?」
「ああ。お前さんは熱心だし、鍛えればものになりそうだからね。弟子入りすればみっちり鍛えてやるよ。兄姉弟子は調合を極めるつもりはなさそうだしねぇ」
「やっぱりわかりますか、オババ」
「バレバレだよ。……でも【上級調薬術】まではがんばってもらいたいものさね。そうすれば高品質ポーションの作り方を教えてあげられるからさ」
「えーと、余裕があるときにそこまで鍛えます。いまは【中級調薬術】を取るのもきつい状態で……」
本当にSPがカツカツなんだよな。
これ、次のレベリセ特典もつぎ込まないと【中級調薬術】は無理じゃないかな。
「……待ちな。【中級調薬術】に手が届くのかい?」
「ええ、まあ。低級リジェネポーションと低級メディテポーションを大量生産したので」
「はぁ。それだとほかのポーションを作った経験が足りないじゃないか。近いうちに下級リジェネポーションと下級メディテポーションを教えようと思ってたけど延期だね。まずは基礎のミドルポーション、ミドルMPポーション、耐毒薬と耐麻痺薬を身体に覚えさせるよ」
「……お手柔らかに、オババ」
「それじゃあ、今日のところはこれくらいかねぇ。みすふぃ、明日も待ってるよ」
「はい! ありがとうございます!」
俺とサイもオババにお礼を言ってからお店を辞する。
さて、みすふぃの薬草採取は付き添わなくて大丈夫かな?
「みすふぃ、薬草採取はひとりで大丈夫か?」
「本来だと生産職連合協同組合でパーティを組んで行くのですが……明日はフィートさんたちとご一緒してもいいですか?」
「サイ、かまわないよな?」
「明日一日くらいならオーケーよ。そのあとは、生産職連合協同組合でなんとかしてね」
「はい!」
「それじゃあ、明日の午前って大丈夫か?」
「大丈夫です。では、朝八時くらいでいいでしょうか」
「それくらいだな。精霊の森に向かうから西門のところで待ち合わせよう」
「オッケー」
「わかりました」
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