74.紋章素材を求めて

「うーん、やっぱりどの素材もおいてないなぁ……」


 姫様のところから戻ってきたあと、プレイヤーズマーケットを確認して各紋章の素材を調べてみる。


「……そもそも、各素材に『銀鉱石:1』って言うのがあるの、厄介よねぇ」

「っていうか、実装されていたんだな、銀」

「みたいね。プレイヤーズマーケットで検索できるってことは実在しているんだから」


 それぞれの素材について検索をかけてみたが、どれもマーケットには出品されていなかった。

 ただ、検索可能だったということは実装されているアイテムの中には存在しているというわけで。


「あとはどこで入手できるかって話よね」

「そうだな。入手先も簡単ならいいんだけど」

「姫様の態度から察するに簡単じゃないでしょうね」


 だろうな。

 簡単だったらこんなクエストを出してこないだろう。


「こうなってくると、人脈を当たるしかないわね」

「人脈ねぇ。誰に聞いてみるんだ?」

「そうね。まずは錬金術が必要って話だし、レールに会いに行ってみましょう」

「……それもそうだな。行ってみるか」


 善は急げとばかりにレールさんの工房まで移動する。

 まだ午後なのでいるかどうか不安だったが、今日はいたようだ。


「よう、サイの嬢ちゃんにフィート。今日はどうした」

「レール、ちょっと聞きたいことがあるの」

「聞きたいことねぇ。かまわんが、答えられるかは知らんぞ」

「かまわないよ。ええとですね……」


 レールさんに各材料の名前を告げてみる。

 だが、返ってきたのは「どれも知らない」という回答だった。


「わりぃなぁ。どれも聞いたことねぇわ」

「いや、気にしないでくれ。こっちもダメ元で当たってるから」

「そうか。それならいいんだが……そうだ、フィート。武器の更新はしてるか?」

「武器の更新? あれ以来してないけど」

「そうかそうか。ちょうどいい。新作武器があるから買っていかないか?」

「うーん、ものによるかな。とりあえず見せてくれ」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 レールさんが奥から持ってきたのは合計四丁の銃。

 形状からしてアサルトとスナイパーがふたつずつだろう。


「こっちが炎属性のアサルトとスナイパー。どっちも炎属性が30以上ついてる優れものだ。こっちは同じく氷属性版だな」

「へぇ。いつの間にこんなの作れるようになったのよ、レール」

「せっかくの上客だからな。俺もがんばって修行したのよ。そうして【中級錬金術】を覚えたら、一気に作れる装備が増えてなぁ」

「なるほど。確かに、いま装備しているものより一回りくらい強いな」

「だろう? 値段も高くなるが品質もピカイチだぜ?」

「値段は?」

「それぞれセットで三十万リルずつだ。どうよ?」


 三十万リルか。

 この性能なら高くはない……のかな。

 サイも特に口を挟まないし、問題ないのだろう。


「わかった。買わせてもらうよ」

「お、いいのか? 結構高値だが」

「俺も最近は稼げているからね。はい、六十万」

「確かに。それじゃ、その武器はアンタのものだ。大事に使ってくれよ」

「ああ。壊れそうになったら修理に持ち込むよ」

「そうしてくれ。……そういえば、前に売った武器ってどうなんだ? 一度も修理に来ていないが?」

「ああ、修理に出すほど使い込んでなくて。一応引き取ってくれるか?」

「そうだな。いまの装備と比べれば、完全に下位互換だからな。……なるほど、確かに修理の必要はないな。もう少し冒険に出たらどうだ?」

「それなりに冒険しているつもりなんだけどね」

「まあ、そこまでとやかく言う筋合いもないか。さっきの素材、なにに使うか知らないががんばって集めてくれよ」

「ありがとう、レールさん」

「またね、レール」

「おう、またな」


 レールさんの店を出て、お互い顔を見合わせてしまう。

 さて、これは困ったな。


「錬金術で作るって言うから錬金素材だと思ってたのに……」

「まさかレールさんも知らないなんてな」

「そうね。……それにしても、フィート。装備、買い換えてよかったの?」

「あれ? なにかマズかったか?」

「ううん。あのレベルの装備があの値段ならそこそこ安めだからいいんだけど。上位の狩り場に行かない限り使い道ないよ?」

「そこは……あれだ。お金に余裕ができたし、先行投資ってことで」

「まあ、フィートのお金だし好きに使っていいけどね。さて、素材探しどうしようか」


 さて、困ったな。

 ほかに素材について詳しそうな知り合いは……。


「オババとかオジジはどうだろう?」

「うーん、その辺は知っているかもしれないけど最終手段かな。多分、情報収集に関しても試されている気がするのよね」

「姫様だしなぁ。あの人、裏でなにを考えてるか見えてこないし」

「そうなのよねぇ」


 さて、それじゃあどうしよう。

 ほかに素材に詳しそうな人……。

 ああ、そういえばすごく詳しそうな人たちがいたな。


「なあ、サイ。生産職連合協同組合に聞いてみるのはどうだ?」

「生産職連合協同組合に? ……確かにあそこなら素材にも詳しいか。そうしましょう」

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