54.『抽出』からの『ポーションベース』
「ああ、そうじゃ。今日はお主に新しい技術を教えてやろうと思っとったのさね」
「新しい技術?」
「ああ、その名も『抽出』。【初級調薬術】用の新しいアーツさね」
調合系の新しいアーツか。
どんなアーツになるんだろう。
「ねえ、オババ。そのアーツって私には使えないの?」
「あんたには無理さね。スキルを【初級調薬術】に昇華させれば使えるだろうけど」
「うーん、そっか。そこまでする余裕はないからなぁ。残念」
「ま、フィートが覚えれば十分だろうさ。それじゃ、教えるよ。まずは普通のポーションを作っとくれ」
オババに言われるがまま、普通のポーションを作成する。
手作業をする必要はなく『再現』でいいらしいのですぐに完成だ。
「それじゃ、完成したポーションをひとつの瓶にまとめな」
完成した五本のポーションをひとつの瓶にまとめる。
そして、準備ができるとその瓶をオババが受け取った。
「よく見てるのさね。……まずは、魔力を全体によく通す。その次に、魔力で攪拌して分離させていく。最後に薬効成分とそれ以外を分離させれば……」
オババが説明しながら『抽出』を行ってくれた。
説明内容的には簡単だったが……結構難しそうだったぞ。
「さて、これが完成した『ポーションベース』さね」
「ポーションベース?」
「いわば、ポーションの薬効成分の塊だよ。……ああ、このまま飲むんじゃないよ。強すぎる薬効成分は毒だ。これもそのまま飲んだらダメージを負うからね」
「そんなのなにに使えばいいの、オババ?」
「それは自分たちで考えるのさね。……ああ、分離したもうひとつの上澄み液はただの水だから適当に処分して大丈夫だよ」
「わかりました。まずは自分でポーションベースを作れるように練習ですね」
「そうしな。薬草は十分に置いてってやるさね。がんばるんだよ」
調合室から去って行くオババ。
彼女を見送ったあとは、とりあえずもらった薬草をすべてポーションに変換した。
この作業はサイもできるので手伝ってもらう。
さて、問題はこのあとだぞ。
「まずは、五本分をひとつの瓶にまとめて……魔力を全体に通して……魔力で攪拌……!?」
攪拌させようとしたところまできて、ポーションがボフンと音を立てて消えてしまった。
幸い、瓶が割れるなどの被害は出ていないが……なにが悪かったのだろうか?
「大丈夫ですか!? すごい音がしましたが?」
「大丈夫だよ、クシュリナさん。フィートが『抽出』に失敗しただけだから」
「『抽出』になるほど。それでポーションが蒸発したんですね」
クシュリナさんは納得したようにうなずいている。
「……私も『抽出』を覚えるまでは何度もポーションを蒸発させてましたから」
「クシュリナさんもですか……」
「はい、私もです。でも、この工程を覚えておかないと、ミドルポーション以上のポーションに進めないんですよね」
「なるほどー。でも、そんな情報教えてくれていいの?」
「おふたりは兄弟弟子ですから。それに、母もある程度は正しい知識が広まってほしいらしいので」
「……調合ギルドはあまり積極的ではない?」
「あそこは学ぶものには門戸を開いているのですが、そうじゃないものには最低限の知識しか与えてくれないんですよ」
「あー、なんとなくわかった。私たちの故郷にも似たような学校ってあるもんね」
おそらく大学のことだな。
履修すればさまざまな授業を受けられるが、そうでなければなにも学べない。
調合ギルドって大学寄りの設定なのか。
「あと、ギルドに対する貢献度でもいろいろと教えてくれることが分かれているらしいですね。なので、あそこで学ぶ人はギルドの依頼も並行して受けているとか」
「へー。大変なんだね」
「まあ、授業料もバカにならないので依頼で稼がないと厳しい人も多いのが現実なのですが……」
「うーん、私たち神代の冒険者だとお金を持ってる人が多いから貢献度不足ってなるんじゃないかな?」
「その可能性はありますね。誰かが気付いてくれるといいのですが……」
「そもそも、この話を知らないんじゃないかな。そうなると結構厄介だぞ」
「まあまあ、フィート。私たちが悩んでも仕方がないって。どこかで知らせる機会があったら知らせましょ」
「そうですね。そうしていただけますか。……あ、そういえば『抽出』の練習中でしたね。よろしければアドバイスいたしますが」
おお、すでに覚えている人のアドバイスがもらえるならありがたい。
オババは成功例を見せてくれたら行ってしまったからな。
「お願いできますか、クシュリナさん」
「はい、喜んで」
クシュリナさんに見守られながらの二回目。
ほとんど同じところで蒸発が起こったが、原因をクシュリナさんが指摘してくれた。
なんでも、魔力で攪拌するときに瓶を動かしてはダメらしい。
俺は攪拌するイメージそのままに瓶も回していたそうな。
クシュリナさんから注意を受けて何回か試してみた。
だが、なかなか癖を直すのは難しい。
何度もポーションを蒸発させて挑んだ十数回目。
「えーと、攪拌は終わったから、薬効成分とそれ以外を分離……っと」
「……できましたね」
「できたね、フィート!」
「……これで完成か」
俺の目の前には、ポーションベースが完成していた。
ポーションベースには品質がないらしく、成功すれば同じように扱えるらしい。
もっとも、成功するまでが長かったが。
「さすがは神代の冒険者ですね。私は初めて『抽出』に成功するまで三日かかりましたが……」
「あー、まあ、一回目の成功ですからね。アーツとして扱えるようになるにはまだ数回成功させる必要があるみたいですし」
「あら? そうなんですか? 私のときは一回でアーツになったのですが……」
どうやら
ちなみに、アーツとして覚えるには合計十回成功させる必要がある。
「ともかく、教えていただいてありがとうございました」
「いえいえ。早くアーツとして覚えられるよう祈っていますね」
いままで教えてくれていたクシュリナさんも調合室から出て行き、俺とサイのふたりが残る。
「それで、フィート。このあとどうするの?」
「そうだな。さすがに狩りにいく時間はないよな」
「ないねぇ。狩りは夜にしようか」
「それじゃ、残りの時間は『抽出』の練習でかまわないか?」
「おっけー。がんばってねー」
インベントリからジュースを取り出し、くつろぐサイ。
さて、俺は成功の感覚を忘れないうちに『抽出』をものにしないと。
このあと、ポーションがなくなるまで練習に励んだ。
だが、成功したのは合計四回。
残りはまた明日ということで、晩ご飯を食べてログインしたあとは普通に狩りに行くこととなった。
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