53.【初級調薬術】

 んー、レイメントの世界は今日も気持ちのいい晴れ具合だ。

 曇りや雨の日ってあるんだろうか?


 今朝は朝食を食べたら早速課金の準備をして『英傑の秘薬』を購入、即使用した。

 それによって現在レベルは1に戻ったわけだがSPはしっかり増えている。

 さて、なにを伸ばすべきか……。


「……まあ、まずはこれだよな」


 途中で上げるのを断念していた【調合】スキルを一気にマックスレベルまで上げてしまう。

 サイから事前に聞いていた通り、生産スキルは入門レベルでも50まで必要だったためかなりのSPを持って行かれた。

 そして、【調合】スキルがレベルマックスになったことと熟練度がマックスになっていることで、さらに上位のスキルが解放される。

 その名も【初級調薬術】、【調合】の上位スキルだ。


「……でもこれを覚えるのにSP30も持って行かれるんだよなぁ」


 結果として、今回のレベルリセットで入手したSPすべてを使用したことになるが……仕方がない。

 これもクエストを次に進めるためだ。


「そういえば、サイのやつはどこまで鍛えてるんだろ?」


 最低でも【調合】の熟練度マックスまではいっているはずなんだけど。

 これは会ったときに聞いてみないとダメかな?


「……さて、そろそろ待ち合わせの時間だけど」


 今回ログアウト場所に選んだのは人気の少ないファストグロウ西の公園。

 住人NPCの数はそこそこいるが、プレイヤーはほぼいない。

 レベルリセットもあるから少し早くログインしたけど、早すぎたかな?


「あ、フィートお待たせ。早かったね?」

「ああ。レベルリセットしようと思って早く来たんだ」

「おお、そっか。もうしたのか。それで、スキルはどうしたの?」

「【調合】をランクアップして【初級調薬術】にしたけど?」

「そっかー、そっちの道に進むかー」

「うん? どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない。私もリセットしちゃうねー。えいっと」


 サイは手慣れた手つきで神代の秘薬を使用してレベルリセットを済ませたようだ。

 サイの方は特にスキルをいじるつもりもないらしい。


「それじゃ午前の日課、精霊の森で薬草集めに行こうか」

「そうだな。……っとその前に。プレイヤーズマーケットに出品していたアイテムが全部売れたみたいなんだけど……」

「おっ、やっぱりか。それで、何分くらいで売れたの?」

「えーと、多分、出品してから十分ちょっとだな」

「予想どおりかな。となると、次回からはもっと値上げしなくちゃだけど、どれくらいが妥当なのか……」

「その辺の話ってサイでも難しいか?」

「私は売る側じゃなくて買う側だからねー。売る側の値段設定って詳しくないよ、やっぱり」


 サイでもよくわからないか。

 そうなると、やっぱり少しずつ様子見しかないか?


「売上金の話とかもあるだろうけど、いまは先に薬草採取を優先しよう。さあ、急ごう!」

「わかった。じゃあ、行こうか」


 いつもどおり、サイを抱きかかえて空に飛び上がる。

 そこから滑空して進めば精霊の森はそんなに遠くない。

 ……それにしてもいつになったら『飛行』を覚えるんだろうな?


「とうちゃーく。さて、それじゃあ行こうか」

「ああ。……そういえば、カラスを倒したときの経験値ってどうなるんだ? いまのレベルは1に戻ってるわけなんだけど」

「ああ、それね。累積レベルの方が上がっていくと、レベル差ペナルティの幅が緩和されていくの。私くらいになればカラスの経験値は丸々もらえるかな?」

「俺は?」

「まだペナルティが入ると思う。ただ、私って累積レベルが高いせいでレベルアップが遅いのよ。その分を考えれば、ほとんど同じ速度でレベルアップすると思うよ」

「そっか。それならいいんだ」

「それに、カラスの目玉は経験値よりもお金だしね」

「……否定はしない」


 そのあと、午前中は精霊の森を巡って各種薬草集めをひたすら行った。

 金欠、というほどでもないが、お金はあって困るものじゃないからね。

 ……なにより、クシュリナさんとオババからなるべく多くの薬草を集めてくれと言われてるし。


 午前は薬草を集め。キリのいいところで終わらせて午後のログイン。

 まずはオババのお店に行って、集めた薬草の換金と自分たちの調合で使う薬草の購入を行う。

 そして、いつもの調合室にきたわけだが……。


「あれ、調合……いや、調薬か? ともかく作れるアイテムが増えてる」


 いままでは初心者が付くポーションとMPポーション、無印のポーションとMPポーションの四つだけだった。

 だがいまは、ミドルポーションにミドルMPポーション、それから耐毒薬に耐麻痺薬という四つの薬が加わっている。


「サイ、作れる薬が増えているんだが?」

「ああ、多分スキルをランクアップしたからじゃないかな? 熟練度の壁を越えたり、ランクアップしたりすると作れる薬が増えるから」

「なるほど。……サイってランクアップしてないのか?」

「……フィートがランクアップしてるなら別にいいかなって」


 なるほど、それもそうか。

 ふたりで同じスキルを極めていく理由もないものな。

 そういうことなら気にしないでおこう。


「そういうわけだから、今日からは私の分も日光草や月光草を使っていいからね!」

「ああ、わかった。……で、ミドルポーションってどうやって作るんだ?」

「材料は確か……」

「上薬草がふたつとヒールハーブがひとつさね」

「あ、オババ」

「フィート、あんたもう【初級調薬術】を覚えたのかい? さすが神代の冒険者は違うねぇ」


 オババの声には感心以外の響きも含まれているように感じる。


「まあ、そういうものらしいですからね」

「でも、油断しちゃだめさね。どんな作業でもそうだが、小さな一歩一歩の積み重ねが大事なんだよ」

「了解。それで、オババ。さっき言っていた薬草って取り扱いはある?」

「そんなに多くはないけどあるよ。知り合いの薬草屋も、最近は神代の冒険者が買っていくからってこっちに売れる量があまりないって話でねぇ」


 ……こんなところでも俺たちの話題が出るのか。


「……なんだか、すみません」

「いいってことさ。神代の冒険者が現れるってことは年単位で前から神託があったのさね。それを軽視していた連中が悪い」


 神託……ねえ。

 この世界の宗教事情ってどうなってるんだろうか。

 やっぱり神様=運営だったり?


「それよりも、ミドルポーションの作り方を見せてやるよ。よく見てな」

「ありがとう、オババ」


 オババに見せてもらったミドルポーションの作り方は、ポーションの作り方より複雑だった。

 いわく、なにも考えずに作ると品質が安定しないんだそうな。

 オババのまねをして何回か作ると品質Aにできたので、あとは再現でなんとかなりそうだ。

 ……問題は。


「俺たちは薬草を高値で買い取ってもらってるから問題ないけど、上薬草やヒールハーブって高いな……」

「市場にものが出回らないからねぇ。どうしても高くなっちまうのさね」


 俺のHPやMPならまだミドルポーションのお世話にはならないけど、普通のプレイヤーは大変そうだ。

 ……それにしても、それにしてもだ。


「熟練度を上げるだけなら低級リジェネポーションや低級メディテポーションを作った方がはるかにおいしい……」


 これらのポーションが高値で売れることを考慮しなくても、効率が段違いだ。

 まだ【調合】だったときから思っていたが、一個作るだけで三百とか手に入るのはすごすぎるだろう。


「当たり前だよ。難易度で言えばリジェネやメディテの方が何倍も上さね。お前さんたちは慣れてるから気にしないんだろうが、普通は『再現』でも成功率六割ってところなんだよ?」


 成功率六割?

 そういえば『再現』アーツを使う時に成功率が表示されてたけど……俺は常に100%だったな?


「あー、フィート? フィートの装備ってDEX補正めっちゃ高くない? アーツの成功率が高いとしたらそのせいだよ?」

「なるほど、理解した」


 つまりブリュレさんのおかげだな。

 感謝しておこう。


「そうだ、オババ。耐毒薬と耐麻痺薬って知ってる?」

「当然さね。どちらも状態異常を軽減する薬だよ」

「へぇ。無効化まではできないんだ?」

「無効化するにはもっと上位の、薬が必要さね。作りたいなら素材を売ってやるけどどうする?」

「買わせてもらうよ」


 さて、今日はもうしばらく調合を楽しむとしようか。

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