44.【調合】練習

「うーん……」


『粉砕』を使って薬草をすりつぶしてみたが、思った通りの結果にならなかった。

 やっぱりまだイメージどおりになってないのかな……。


「はろー、リスナーの諸君。こんばんはー」


{こんばんはー}

{わこつー}

{こんー}

{こん}

{つか、ここどこ}

{どっか家の中みたいだけど}


「ここね、ある住人の家の中なの。で、私たちはいま【調合】スキルの練習中」


{なに!?}

{サイちゃんが生産スキルだと!?}

{驚くところそこかよw}

{だってサイちゃんだぜ?w}

{よみがえる【細工】の悪夢w}


「……昔のことは振り返らない女なのよ、私は」


{ちな、住人の家って基本放送禁止じゃね?}

{住人の好感度下がるよ?}


「その辺は大丈夫。許可は取ってあるから」


{ほーん、許可取れるんだ}

{へー}

{なあ、そろそろ触れないか?}

{だな。サイちゃん彼氏さん放っておいていいの?}


「配信開始することは伝えてあるから大丈夫だよね、フィート?」


 俺は顔だけ上げて頷いてみせる。

 そのまますぐにまた乳鉢とにらめっこだが。


{彼氏さん、すごい真剣ね}

{生産にハマるタイプだったか}

{【調合】ってどんな感じ}

{まだ情報で回ってないんだよな}


「えっと、【調合】スキルはね……」


 サイが調合スキルの説明をしている。

 その間に、さっき『粉砕』した薬草を『煮沸』してポーションにしてしまう。

 完成品は『初心者ポーション』、品質はB。


「まあ、そんな感じなわけなんですよ」


{へー}

{B級品でも錬金のA級品と回復量一緒か}

{それは夢があるな}

{で、彼氏さんはなにを悩んでるの?}


「今日中に初心者ポーションのA級品を作りたいんだってさ」


{彼氏さんったら勤勉}

{でも、初心者にはきつくね?}

{【錬金術】だったら熟練度二千はほしいぞ?}

{でもあっちって薬専門じゃないじゃん?}

{そっかこっちは薬専門か}

{ちなみに、彼氏さん、熟練度は今いくら?}


「おーい、フィート。スキルの熟練度はいまいくら?」

「熟練度?」

「あー、そこから説明かー」


 サイいわく、生産スキルには『熟練度』というパラメーターがあるらしい。

 これは生産をしていくとたまっていく。

 そして、これが低いとどうがんばってもいい品質にはならないそうだ。


「……そんなシステムがあったんだな」

「そういうことよ。ちなみに、いまの私の熟練度は五百くらいね」

「俺は……千二百くらいか」


{わお}

{彼氏さん、やり過ぎよ?}

{集中して生産しているとたまりやすいとは聞くがw}

{入門スキルとはいえ早すぎw}


「ねえ、フィート。それだけ熟練度たまってたら、レベルも上がってない?」

「え? ……確かに上がってるな」

「だったら、そのSPを生産スキルに注ぎ込んで生産スキルのレベルを上げれば、もっとやりやすくなるはずよ」

「そうなのか。わかった、やってみる」


 上がっていたレベルは4。

 取得SPは12。

 それをすべて【調合】スキルに使う。


「さて、『粉砕』っと……確かにやりやすさが段違いだな」

「でしょ? それだけの熟練度があれば初心者ポーションのA級品くらいなら作れるはずなのよ」

「わかった。『煮沸』っと。……うん、A級品になったな」


{おー、彼氏さんおめ}

{スキル覚えて初日でA級品って早くね?}

{初心者ポーションだろ? なんとかなるなる}

{彼氏さんの装備のおかげじゃ?}

{そういえば彼氏さんの装備ってクソツヨだったよな}

{彼氏さん、装備でDEX補正ってどれくらいかかってる?}


「フィートー、今度はDEX補正がどれくらいかだってさー」

「DEXか? えーと、グローブに+40が付いてるな」


{40ってw}

{中級生産者が全身につける補正の合計と同等w}

{彼氏さんの装備は強すぎるのだ……}

{やっぱり彼氏さんは俺たちのレイメントと違う}


「だよねー。あー、私も新しいドレスが早くほしいなー」


{バトルドレスって全身装備だっけ?}

{頭除く全身装備だな}

{サイちゃんの頭装備って?}

{非表示にしてるけどサークレットのはずだぞ}

{そうだったのか}

{いっそのこと頭も新調すればよかったのに}


「頭装備までお金が回らなかったんですー。……そういえば、フィート。A級品のポーションってどんな味なの?」

「ポーションの味?」

「そう、ポーションの味。ポーションの品質によって大分変わるんだよね」


 そんなの気にしたことなかったな。

 ……飲みやすい味ではないと思ってたけど。


「とりあえず、一回の作成で五つできたし飲んでみるか」

「おっけー。……じゃあ、せーので」

「……なんだ、その前振りは?」

「マズかったらいやじゃない?」

「わかったよ。俺が先に飲むよ」


{彼氏さん、さっすがー}

{っていうか言い出したサイちゃんから飲むべし}

{A級品なんだからマズくはないっしょ}

{そうそう。……まあ高品質ポーションは不味かったんだけどさ}


「じゃあ、いくぞ」


 意を決してポーションのふたを開け飲み込んでみる。

 すると……。


「あれ、飲みやすい」


{え、まじ?}

{彼氏さんの表情を見るとマジっぽい}

{どんな味なの?}


 味か。

 あえて例えるなら……。


「んー? 濃いめの緑茶?」


{それは飲みやすそうだ}

{サイちゃん、食レポはよ}


「食レポ違う。では……あれ、本当にポーションなのにお茶っぽい」


{まじなのか}

{これは革命的だぞ}

{回復量は?}

{それ次第ではマジ革命が起こる}


「えっと、回復量はA級品で40だね。【錬金術】で作ったのより高め。ただし、薬草ひとつからポーション五本しか作れないから製造コストは倍」

「【錬金術】だと薬草ひとつからポーション十個が作れるのか?」

「そそ。だから製造コストが二倍なんだよ、【調合】」


{うーん、悩ましい}

{でも、初心者なら買いじゃないのか?}

{いや、製造コストが倍ってことは値段も最低倍にしなくちゃ成り立たないんだぜ?}

{ああ、そいつはきついな}

{うまく棲み分けができそうだなぁ}


「フィート、とりあえず試作品としてA級品を五十個くらい『調合』アーツで再現してちょうだい」

「わかったが……どうするんだ?」

「試作品っていったでしょ? プレイヤーズマーケットに放出するのよ、それなりの値段で」

「安値で、じゃないんだな」

「そんなことをしたらヘイトを買うからね。じゃあよろしく」

「へいへい。……一度作ってしまえば再現できるって本当に楽だよな」

「そうでないとやってられないって。数作らなくちゃいけないスキルは」


{んだんだ}

{彼氏さんはその辺まだ実感が薄いようね}

{錬金術士でさえ金策にはポーション数百個作るんだぜ?}

{とても手作業でやってらんないって}


「だってさ」

「俺はいま、コメントを見れないんだが」

「まあ、実感がないみたいなコメントが流れていると思えば」

「そっか。……ほい、できたぞ」

「おっけー。じゃあ、私はプレイヤーズマーケットに行ってくるね」

「おう、行ってらっしゃい」


{彼氏さんは一緒に来ないのか}

{調合の続きじゃね?}

{今度は無印ポーションだな}

{生産板見てきた。あっちもポーションの味が話題になっているようだ}

{さすが生産板、この短期間でよく【調合】を覚えた}

{……あれ? どうやってサイちゃんと彼氏さんは【調合】覚えたん?}


「それは道すがらね。じゃあ、またあとでねー」

「ああ、またな」


 さて、サイがいなくなって配信カメラも付いていってしまった。

 俺は……生産できる項目に『ポーション』が増えてるし、これを作ってみるか。


 このようにして、この日はひたすら調合を試して一日が終わった。

 ……サイのリスナーさんたちもよく飽きなかったものだな。

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