42.冒険者としての報酬は

{あー、なかなかいい配信だった}

{調合ギルドか、覚えたぞ}

{今度行ってみよう。今日は無理だろうし}

{俺、ちょうど街の南にいたから入門してみた。講座は随時受けられるらしいね}

{へえ、スケジュールが決まってるわけじゃないんだ}

{なんか、オンライン授業みたいな感じで個人単位で受けるっぽい}

{このゲーム、変なところで技術が進んでいるんだよなあ}

{そこが侮れないというか、足下をすくわれるというか}


「はいはい、コメントも盛り上がってるところ悪いけど、そろそろ配信終了のお時間だよ」


{おっとそうだった}

{サイちゃんお疲れ}

{乙乙}

{おつー}

{講座の様子は掲示板の方で報告するぜ}

{またねー}


 サイが配信を停止してこちらもすべて終了。

 あとは帰るだけとなった。

 天幕内には俺たちのほか、オババやオジジ、姫様に両ギルドマスターと豪華な面々が揃っている。


「お疲れじゃったさね。これで騒ぎも収まってくれるといいんだけどね」

「そうじゃの。これで収まらなかったらと思うと頭が痛いぞい」

「大丈夫ですよ。まだダメなら私がお薬でちょちょいとおとなしくしますから」

「姫様の手はあまり借りたくねぇな。……フィートにサイ、これで丸く収まりそうか?」


 俺たちに話を振られた。

 ふたりで視線を合わせたが、代表してサイが答えることになった。


「うーん、ある程度は収まると思うけど、数日は騒がしいかも」

「その心は?」

「調合ギルドの入門数って制限があるんでしょ? 入れなかった冒険者がまた騒ぐかも」

「……騒いでどうにかなると思ってんのかねぇ?」

「さあ? 私はそういう連中の考え方なんてわからないし」

「だろうな。フィート、お前さんはどう見る?」

「俺ですか? 俺もサイと同じ意見ですが……」

「違う見方もあると?」

「ええ、まあ」


 そこでちらっとオジジの方を見てから話を続ける。


「この騒ぎのひとつに空色マーチという冒険者を追い回している一団がいるそうなんですよ。そいつらがおとなしくなるかが未知数ですね」

「空色マーチか……聞かねぇ名だな」


 アーベックさんにはなじみのない名前だろう。

 だが、オジジには違うわけで。


「あやつか。ちなみに、なぜ追い回されておるのじゃ?」

「あん? オジジの知り合いか?」

「破門した冒険者じゃよ」


 オジジが簡単に説明したのを受けて、俺が冒険者側の説明を続ける。


「その空色マーチって冒険者は、最初に誰にでも【調合】を教えますよ、って大々的に喧伝したんですよね。それで騒ぎが起きたわけでして」

「なにか? 今日の騒ぎの元凶はそいつなのか?」

「元凶のひとり、ではあるんでしょうね。本人に悪意があったかどうかは別として」

「……儂も元凶のひとりじゃろうな。空色マーチにほかに弟子になりたいものがいれば連れてこいと言ったのは儂じゃ」

「オジジ……あんたもか」

「うむ、迷惑をかけたの」


 ぺこりと頭を下げるオジジ。

 アーベックさんはオジジの頭を上げさせて、俺に話の続きを促した。


「空色マーチはさっきまでいなかったらしいのですが、さっき戻ってきたみたいで。それを発見した一部の冒険者が追いかけ回しているらしいですよ」

「……話はわかった。が、そうなるとどうにもできねぇな」

「基本、冒険者ギルドは冒険者同士のいざこざには不介入さね」

「刃傷沙汰になるってなら話は変わるが……神代の冒険者同士だと、死んでも復活するからなぁ。どこまで面倒を見たものか」


 確かに、死んだら終わりってわけじゃない以上面倒なことこの上ない。

 ……ああ、でも、こういう考え方はできないだろうか。


「それがファストグロウの住人に迷惑をかける状況だとしたら?」

「……それなら介入するしかねぇな。その場合、その……空色マーチか? そいつも一緒にしょっ引かれるが?」

「それくらいは仕方がないんじゃない? 実際、これだけの大騒ぎを起こしちゃったんだし」

「……ま、本人に悪意がなかったにせよ、この結果は問題か。わかったその線で動こう」

「よろしくお願いします」


 どうやら、残りの問題についても冒険者ギルドがなんとかしてくれるらしい。

 空色マーチとやらには申し訳ないが……騒動を起こしたことは反省してもらおう。


「さて、それじゃ、これで今日は解散だな。まあ、その前に冒険者ふたりには報酬を出さなきゃいけないんだが」

「え、報酬?」

「おう、報酬だ。冒険者をただで働かせた、なんて知れ渡ったら冒険者ギルドの立つ瀬がないんだよ。そういうわけだから、報酬はおとなしく受け取れ」

「……サイ、どうする?」

「断る理由もないし、受け取っちゃえば? もらって困るものなら返せばいいし」

「わかった。それではひとまず受け取りますね」

「おう、そうしろ。まずは冒険者ギルドからだが、ふたりの冒険者ランクを上げてやる。サイはCランクに、フィートはDランクにだな」


 ランクアップか……これってすごいことなんだろうか?

 隣のサイに聞いてみるとちょっと意外な回答が返ってきた。


「半日程度の拘束時間でこの報酬なら破格だよ。私はもともとDランクだったけど、Dに上げてからあまり熱心にクエストを受けてなかったし、フィートなんてクエストをまったく受けてなかったわけだからGランクのはずだし」

「Gランクか……そんな簡単に上げてもらっていいのかな?」

「いいっていうんだからいいんじゃない?」

「おう、問題ないぞ。っていうか、ランクGからFまでは実力や人柄を確認するためのお試し期間みたいなもんなんだ。そういう意味でお前さんは、オババの薬草を集めてくれたりサーディスクで人助けをしてくれたり申し分ねぇからな。戦闘力がまだ未知数ではあるが、神代の冒険者ならすぐに追いつくだろうし、Dに昇格だ。ただ、戦闘力だけは早めにつけてくれよ」

「そういうことなら問題ないわよ。フィートの装備品、ドラゴンレザーとかを使ってる超高級品だから」

「……それなら滅多なことじゃけがをしねえだろうなぁ。だがDランクになれば護衛依頼とかもあるからな、連携とかの訓練も……ああ、そういう依頼を受けないってのも選択肢かお前らの場合」

「そう言うことですよ。まあ、昇格させてくれるっていうなら喜んで受け取りますけど」

「サイはちゃっかりしてんな。その方が冒険者向きの性格ではあるが。さて、冒険者ギルドからは以上だ」


 アーベックさんが一歩下がり、次に出てきたのは調合ギルドのマスターだ。


「調合ギルドからはあんたらふたりの入門資格証と薬草等購入許可証だ。わかりやすく行っちまえば、試験に合格した連中と同じ扱いにするということだね」

「えーっと、ありがとうございます?」


 正直、この報酬には疑問符が付いてしまう。

 俺たちが薬草を買う機会なんてまずないんだけど……。


「……まあ、あんたたちが調合ギルドうちで薬草を買う機会なんてそうそうないってのはわかってるよ。一応、報酬として渡せるものがいまはこれくらいしかないんだよ」

「いえ、お心遣いありがとうございます」

「そうかい? まあ、調合関係で困ったことがあったら尋ねてきな。相談くらいには乗ってやるよ。……その必要もないだろうけどね」


 調合ギルドのマスターの言葉からはどこか含みが感じられる。

 どういう意味なのだろうか?


「さて、次は私の番ですね」

「姫様からもですか?」

「はい。私からもですよ。ファストグロウが騒がしいのを止めてくれたお礼はしなくちゃですからね」


 騒がしくしたのは俺たちの事情なのに、なんだか悪いな。

 そんな考えが表情に出ていたのか、姫様にとがめられてしまった。


「ダメですよ、報酬はきちんと受け取らないと。仕事に見合った報酬を受け取るのが冒険者のお仕事……あれ? 逆ですね。報酬に見合ったお仕事をするのが冒険者ですよ」

「……わかりました。それで、姫様からの報酬はなにでしょう?」

「うーん、それは秘密です。数日準備に時間がかかるのでちょっと待っていてください。……ああ、あと、お渡しできない可能性もありますので、ダメだった場合は諦めてくださいね?」


 受け取れない可能性のある報酬とは一体なんなのか?

 とりあえず、了解のと俺とサイはうなずく。


「さて、最後は私からの報酬さね」

「オババもなにかくれるのか?」

「ああ、もちろんだとも。というか、こんな騒ぎにならなかったら、もっと早くに教えてやる予定だったんだがねぇ……」


 疲れたようにため息をはきながら首を振るオババ。

 いや、実際に疲れているのだろう。


「まあ、いいさ。私からお前さんたちに渡す報酬は【調合】スキルの知識と実践だよ。今日中にものになるよう仕込んでやるから覚悟しな」

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