第四章 ゲーム四日目 【調合】狂騒曲

34.装備の受け取りと滑空スキル

『今日は先にオババのところに行ってるね。装備の受け渡しが終わったらフィートもすぐに来て』


 そんなメールが朝届いていた。

 なにがあったのかよくわからないが、とにかく急ぎの用事みたいなので朝食を済ませたら早速ログインだ。


「さて、まずは装備の受け取りだな。どの程度の装備に仕上がっているのか」


 昨日買った素材は、なんでもこのゲームでは最前線のプレイヤーよりも強い素材の可能性があるらしい。

 さすがにボス素材にはかなわないだろうが、通常素材で作った中では最強クラスになるだろうとのこと。

 ゲーマーとしては、こういうときやっぱりわくわくするものだなぁ。


 滑空を使ってブリュレさんの店の前へとやってきた。

 どうやら店はきちんと開いているらしい。

 それでは装備の受け取りといこうか。


「ごめんください」

「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょう?」


 店内には昨日はいなかった人がいた。

 プレイヤーではなく住人NPCのようだな。


「ええと、装備の作成を依頼していたものですが」

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「フィートと言います」

「フィート様ですね。それでは店長を呼んで参ります」


 店長を呼んでくる?

 ブリュレさん、まだログインしているのだろうか?

 それとも、一度ログアウトして朝からログインし直したとか?


 少し待っていると、ブリュレさんがやってきた。

 その顔には疲労の色がうかがえる。


「お待たせ。依頼の品は完成しているわよ」

「ありがとうございます。……ちなみに、休んでますか?」

「四時間は眠っているから平気よ。受け渡しが終わったら、また仮眠をとるつもりだったしね」

「そうですか……あまり無理はしないでくださいね」

「無理なんてしてないわ。むしろ、これだけの品を作らせてもらってありがたかったもの!」


 勢いよく返されたが、そんなに今回の依頼はよかったのだろうか?

 俺が疑問を浮かべていると、ブリュレさんは説明をしてくれた。


「いい、生産スキルには熟練度という項目があるの。これが一定以上たまらないとスキルレベルをいくら上げても次の段階に進めないようになっているわ」

「そうなんですね」

「ええ。そして、今回の依頼でもらえた熟練度は二万以上。普段の依頼と比べると五倍近い熟練度が手に入ったわ」

「……それってすごいんですか?」

「もちろんよ。それから、熟練度に応じて経験値も手に入るんだけど、こっちもすごくてレベルが3も上がったわ」

「それはおめでとうございます」

「そういうわけで、今回の依頼は私にとってもありがたかったの。納得してもらえた?」

「ええ、まあ。それで、完成した装備品は?」

「そうね。そちらも渡さなくちゃいけないわね。まずはこれ。【銀翼のジャケット】よ」


 手渡されたのは俺の翼の色に合わせた銀色のフード付きジャケット。

 持ってみた感じ、いままでのカウボーイ装備より軽く感じる。


「メイン素材はドラゴンレザーね。見た目よりはるかに軽いんだけど、すごく丈夫で魔法耐性も高いわ。……と言うより魔法耐性の方が普段は高いわね」

「普段は?」

「固有能力で【堅牢化】って言うのが発現したのよ。これを使うと、MPを消費する代わりに一定時間物理防御力を上げてくれるみたいね」

「……こういうことってあるんですか?」

「ボス素材でなら聞いたことがあるけど……通常素材では聞いたことがないわね。あと、ほかの装備にもついているけど、光属性と闇属性についてはサイちゃんからのプレゼントよ。あとでお礼を言っておきなさいな」


 自然と付与されたのかと思ってたけど、サイがなにかしてくれたのか。

 あとできちんとお礼をしなくちゃな。


「次に【黒夜のカーゴパンツ】。これもドラゴンレザーがメイン素材ね。【堅牢化】が使えるのも一緒よ」

「ありがとうございます。……それにしても、防御力が高いですね」

「このふたつで物理防御が六十に達しているわけだからね。普通、革鎧とかじゃないとあり得ない数値だわ」

「ははは……。次の装備は?」

「次は【竜兵のバンダナ】。素材は高品質マギスパイダーシルク製よ」

「こっちには特殊な効果はないんですね?」

「特殊効果はないわね。……頭装備で魔法防御20はおかしいけど」


 それは俺のせいじゃないと思うんだ。

 さて、次に行ってみようか。


「四つ目は【竜兵のグローブ】。これはドラゴンレザー製よ。使った量が少ないせいかスキルはついていないけどね」

「十分ですよ。それにしてもかなりステータスが上がりますね」

「防御や魔法防御を低くする代わりにステータス補正を強めにしたからよ。ほかに質問はある?」

「いえ。最後の靴の説明に移ってください」

「最後は【走竜のブーツ】よ。これもステータス補正メインの装備ね」

「……ずいぶん上がりますね」

「素材がいいからね。……そういえば気になったことをひとつ聞いていいかしら?」


 気になったこと?

 なにかあったのかな。


「はい、なんでしょう?」

「さっき自分用の素材を仕入れに例のお店に行ってきたのよ。そうしたらドラゴンレザーの値段がかなり……と言うか三倍くらいになってたわ」

「……えーっと、それは……」

「おそらく、昨日はあなたに買わせるためにあの値段設定にしていたんでしょうね」

「これはあとでお礼を言っておかないとダメかな」

「そうしなさいな。さて、装備の説明は終わりだけど、なにかほかに質問があるかしら?」

「いえ、特にありません。いろいろとありがとうございました」

「いいえ、こちらこそいい仕事だったわ。……そうそう、装備品は使っていると耐久値が落ちるからこまめに修理に来なさい」

「わかりました。どのくらいの頻度がいいでしょうか」

「そうね……サイちゃんのさじ加減次第だけど、三日に一度は顔を見せて。耐久値がなくなっても装備がロストすることはないけどね」

「了解です。それでは失礼します」

「ええ、またね」


 ブリュレさんの店を辞し、ハイジャンプで飛び上がって二段ジャンプで高度を上げる。

 眼下にサーディスクの街を見下ろしながら、コールカフでセレナに連絡を取れば、ドラゴンレザーの値段については気にしないでほしいとのこと。

 むしろ、三百万リルしか渡せなかった分のお詫びだと言われてしまった。

 ドラゴンレザーは装備に化けてしまったので、きちんとお礼を言ってから通信を切る。

 さて、このあとはどうしようか。


「ホームポータルからポータル間ワープで移動してもいいけど、滑空でグロウステップを飛び越えるのも楽しそうだな」


 思い立ったが吉日。

 すぐさま滑空スキルを使用してサーディスクからファストグロウ方面に飛んでいく。

 滑空スキルは少しずつ高度が下がっていく。

 ある程度下がったらいったん仕切り直さなくちゃと考えていたが、高度が一定以下になると再び二段ジャンプが使えた。

 それにより、ファストグロウまで一度も地上へと降りずに到着できそうだ。

 ……二段ジャンプの定義を考えてしまいそうだが。


 滑空スキルはライドで移動するよりも速かったらしく、四十分ほどでファストグロウ上空までたどり着いた。

 たどり着いた、のだが……。


「なんだ? なんだかファストグロウが騒々しいな?」


 ファストグロウの街並みの中を走り回っている人間たちがいる。

 おそらくはプレイヤーたちだと思われるが……。

 一体なにをやっているのか?


「サイは先に来ているはずだし、なにか知っているかもな」


 そう思いサイに連絡をしてみる。


『サイ、いまファストグロウまでついたが……なんの騒ぎだ?』

『あ、フィート。騒ぎには巻き込まれてない?』

『ああ。いまはファストグロウの上空にいるから平気だけど』

『なんでそんな場所に……いや、好都合なのかな?』

『なんなんだこの騒ぎは?』

『会って説明するよ。とりあえず、そのまま飛んでオババのところまで来て。そこで待ってるから』

『ああ、わかった』


 オババのところに行けばいいのか。

 まだゲーム四日目ではあるが、通い慣れた店に向かって飛んでいく。

 店の上空までたどり着いたら、急降下で一気に飛び降り、店の門を開けた。


「よくきたね、フィート。あんたひとりかい?」


 店で待っていたのはオババ。

 ただ、昨日に比べてなんだか険のある表情だ。


「ああ、俺ひとりですが……。サイは?」

「サイの嬢ちゃんなら先に来て奥で待ってもらってるよ。……まったく、あんたの同胞は困ったことをしてくれたもんだ」

「はい?」

「……ああ、事情をまだ聞いていないんだね。とりあえず奥にきな。……それから、新しい装備、なかなか似合っているよ」

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