15.森の精霊と高品質ポーション
ゾンビグリズリーを倒し一息つこうとした矢先、声をかけられたので振り返るとそこにはひとりの女性が立っていた。
いや、足下が少し浮いているので立っていると言うよりも浮かんでいるが正解か?
「私はこの森に住まう精霊。人間からは森の精霊などと呼ばれていますね」
「そうですか。俺はフィートといいます」
「フィートさんですね。改めて、ゾンビグリズリーを倒していただきありがとうございます。これで、この森を包んでいた瘴気も少しは薄くなることでしょう」
瘴気……ねえ。
いかにもゲームらしい単語が出てきたぞ。
ここは話に乗っかるのが正解だろうな。
「瘴気ですか?」
「はい。この森は遙か昔、何者かの手によって封印されてしまいました。その際、用いられたのが邪悪な瘴気による封印だったのです。もっとも、地上まで影響が出始めたのは近年になってからですが」
「ここに来る途中、カラスが襲いかかってきたのもそのせいですか?」
「おそらくは。森に棲み着いた鳥が瘴気によって変質し、モンスター化したのでしょう」
大体のことは把握した。
さて、それじゃ、本題に入ろうか。
「ゾンビグリズリーを倒したということは封印も解かれたということですか?」
「いえ、ゾンビグリズリー一匹を倒したところで封印は解けません。数年分の力は失うでしょうが、封印は健在です」
「なるほど……それでは、俺が何回もゾンビグリズリーを倒すというのは?」
「それもできません。ゾンビグリズリーはこれでも賢いですからね。一度負けた相手には二度と戦いを挑みません」
なるほど、それで一度限りのボス戦だったと。
それならそれで、もう少しボーナスとかがあってもいいだろうに。
「ところで、フィートさんはおひとりでゾンビグリズリーを倒されたのですか? お仲間は?」
「俺はひとりで倒しましたよ」
「なんと、そうでしたか。さぞやご苦労されたことでしょう」
確かに、ポーションがギリギリだったよ。
帰ったらすぐに補充しないとピンチです。
「それではあなたにいくつか祝福を授けましょう」
〈スキル【植物知識】を取得しました〉
〈スキル【植物鑑定】を取得しました〉
〈『深緑の首飾り』を入手しました〉
〈『深緑の腕輪』を入手しました〉
〈ボーナスSP10ポイントを入手しました〉
ん、なんだかいろいろもらえたな。
もらえたものの確認はあとでするとしよう。
「いまのあなたに与えられる祝福は以上になります。力をつけたそのとき、またここを訪れてください」
力をつける……つまりレベルを上げることかな?
それをしたらまだなにかもらえるらしいぞ。
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ助かりました。ほかになにかお手伝いできることはありますでしょうか?」
手伝ってほしいことか……あ、それだったらあれについて聞いてみよう。
「この絵に描かれている薬草なんですけど、どの辺にあるかわかりますか?」
「どれどれ……これは日光草ですね。この精霊の森でしたら至る所に生えていますよ。……ただ、薄暗いので見分けがつきにくかったかもしれませんね」
「なるほど……それでいままで見つからなかったのかな?」
「そうだと思います。先ほど授けたスキルがお役に立つと思いますので、活用してください」
「わかりました。聞いてみたいことはこれで全部ですかね」
「そうですか。それでは私はこれで。なにかお手伝いできそうなことがありましたら、またここを訪れてくださいね」
そう言い残して姿を消す森の精霊。
精霊なのに話がわかるという感じだったな。
精霊ってもっとえらそうなイメージだったけど。
さて、もらったスキルとアイテムだが、まずはアイテムだ。
「『深緑の首飾り』は戦闘中HPがわずかに継続回復、『深緑の腕輪』は常にMPが少しずつ継続回復か。……序盤で手に入る割には強すぎないか?」
どちらもアクセサリー扱いなので早速装備する。
首飾りのほうは戦闘中しか効果がないが、腕輪は常時なのでいまでも回復し始めている。
戦闘中以外ならMPは常時回復するが、その回復速度が上乗せされた感じだな。
「さてスキルのほうは……まあ、見たまんまか」
スキル【植物鑑定】と【植物知識】はセットになっているものだった。
これがあると、視界にある植物の情報を得ることができるのだ。
この広場には、依頼されていた日光草のほかにも数種類の薬草が生えていたのでそちらも回収しておく。
このゲームの採取ポイントは一日で復活する上に、個人ごとに分かれているそうなので自分の分は根こそぎとってしまっても問題ないのだ。
あとは帰るだけとなったので、帰り道でも薬草類を回収しながら帰ることにした。
ときどき襲ってくるカラスはもう恐ろしくないので適当にあしらい、薬草回収をメインに行っていく。
薬草のほかにも毒草が混じっていることがあるが……こちらも念のため回収しておこう。
なにかの役に立つかもしれないからな。
さて、内部では合計五時間以上滞在した精霊の森だったが、出るときは三十分程度で脱出できた。
まっすぐ進めば精霊のいる広場もそんなに離れていないのかもしれない。
さて、晩ご飯の時間も迫ってきているし、早いところファストグロウに帰っていろいろ清算してしまおう。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「それでは精霊様にもお目にかかれたのですね。よかったです」
ファストグロウに戻ってきて、真っ先に顔を出したのはクシュリナさんのお店。
入手してきた日光草を買い取ってもらうためだ。
買い取ってもらおうと差し出した日光草の数に驚かれた。
そのため、詳しい話をすることになったらゾンビグリズリーや森の精霊の話もすることとなったのだ。
「それにしても、たくさんの日光草ですね。これだけあればこのお店だけでなく、市場のほうにも日光草製のポーションを卸せそうです」
「やっぱり、あの高品質なポーションは日光草でできていたんだ」
「はい。普通のポーションは薬草を使いますが、私の作るポーションは日光草を使います。同じようにMPポーションには月光草を使うのですが……採取してきていますか?」
月光草ねぇ……あったかな?
「とりあえず、採取してきたものをすべて出してみますね。その中で欲しいものがあれば買い取ってください」
「いろいろ採取してきたんですね! それは楽しみです」
目の色が変わったクシュリナさんの前に採取してきた薬草類を並べる。
薬草だけじゃなく毒草も混じっているが……この人なら大丈夫だろう。
「うわぁ……月光草だけじゃなくて解呪草や治毒草もあります。あ、こっちには痺れ罠に使う毒草も!」
「……毒草も扱うんですか?」
「それはもう、うちは薬屋ですから。治療薬だけではなく、猟師さん向けの毒薬も取り扱っていますよ」
それは気がつかなかった。
あるいは、知らないと買えない仕組みなのかもしれない。
「毒薬に興味がおありですか?」
「ええ、少し」
「……そうですね。フィートさんなら悪いことには使わないでしょうし、弱い毒薬でしたらお売りしましょう」
やっぱり許可制か。
でも、これで毒薬も買えるようになったようだ。
ナイフで戦うときとかに使えば便利なんじゃないかな?
「先にこちらの薬草の買い取りですが……全部買い取らせていただきます! お値段はこれくらいでいかがでしょう?」
なんとあれだけあった薬草が全部買い取ってもらえた。
そして買い取り金額も合計して八万リルと現在の所持金が二倍になる計算だ。
「俺のほうはかまいませんが……そんなに高値で買っても大丈夫なんですか?」
「お店のほうは心配ありません。むしろ、これだけの薬草が仕入れられたのであれば、この三倍くらいの売り上げが見込めますし!」
なんと、三倍も売り上げが出るのか。
それは凄いな。
「そういうわけですので、また薬草を集めましたらよろしくお願いします。さすがに、毎日持ってこられると、生産が追いつかないので一日空けてもらえると助かりますが」
「わかりました。また今度採取にいったら薬草を売りに来ます」
「ええ、よろしくお願いします」
最後にがっちり握手をして俺は店を出る。
……このお店でポーションを買わないのかって?
このお店のポーションって、いまの俺にはオーバーヒールなんだよ……。
クシュリナさんには。少しなら値引きしますよ、と言われたけどそれを考えても普通のポーションで十分なんだよな、これが。
さて、やりたいことはまだあるけど、とりあえず晩ご飯の時間だからログアウトしよう。
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