第8話 神様たちは裏切られたのです。
神様たちは自分たちがとりついた「ひと」たちの関係は決して悪くはありませんでした。
子供が生まれて成長が止まったと思われるあたりで、神様たちと心を通わすことができるか試されます。
ただこの地では子供がそんな歳まで育つこと自体が少なかったようです。その代わり、生き残った子供たちは神様を受け入れることはできたようです。
そんな風にして、何百年もの間、神様と「ひと」たちの関係は続いていました。
そんな中、無敵の兵士となった「ひと」たちは、もっともっと広い世界での戦に勝ち続け、「帝国」を作りました。
そして彼らは神様といた場所から、別の場所へとすみかを替えることにしました。もっと住みやすい場所へと。
その場所を都として「帝国」は発展していきます。どんどん広がります。
そして無敵の兵士たちは、とある行動を起こします。
支配下に置いた場所で暮らす「ひと」たちはたくさんいました。いろんな場所で暮らす「ひと」たちは、その場所に応じた形をしていました。
無敵の兵士たちは、その中でとある形をとった「ひと」たちを皆殺しにしたのです。
「さすがにあれは見たいものではなかったわ」
「俺も。あれは卑怯だと思う」
そう、卑怯です。
無敵の兵士たちは、他の場所で自分たちとは違う神様と一緒になって形を変えた「ひと」たちを選び、その全てを殺しました。
神様たちはさすがにそれには非難しました。
「どうしてなのかしら」
「神様は答えを俺にもダリヤにもくれないんだよな。どう思う?」
「わかる訳ないでしょ」
「じゃあ殺されなかったのは? 色んな形の『ひと』はいたけど。ずいぶん変わった形になっていたとしても、まったく手をつけられなかったところもたくさんあった」
「無敵の兵士にとっても、こわいものがあったってことかしら。変わった形になって何か不思議な力をつけた『ひと』もいたようだけど」
「うん。でもそれならかまわなかったんだと思う」
「自分たちよりは弱かったから?」
「ある程度強いのもいたと思うよ。でも弱くても消された『ひと』もいたろ?」
そうね、とうなづきます。小さく、弱々しい「ひと」たちもいました。うす暗い場所で身を寄せ合って暮らしているような。
「だから強さじゃないと思う。要は、あの岩の神様ではない、それぞれの別の神様がとりつくことで変わった『ひと』たち。それが邪魔だったんじゃないかと思うんだ」
「邪魔」
「そうでなくちゃ、そのあと、今まで住んでいた場所をもの凄い力で壊してしまおうなんて思わない――と、俺は考えるんだけど」
そうでした。無敵の兵士たちは、ついには自分たちが昔たどり着いた場所、生かしてくれた場所、神様が宿る岩全てを、恐ろしい光と熱で壊してしまうのです。
神様たちはもともと持っていた力で、遠くへ遠くへ分かれて「跳んだ」のだそうです。
そして今、イリヤと私の中にいる神様は、光と熱を放ちながら落ちて、砂漠を作ってしまったのです。
「――何だか大きな話すぎて。でも身体の中で確かにそれはあったんだ、って納得してるのよ。イリヤ、あなたこれをあっさり受け入れたのね。私のように眠ったりしてなかったし」
「お互い納得ずみだったからね。神様はゆっくり俺に教えてくれた。むしろダリヤの方がそのあたりは頭の中が大変だと思う」
そう言われてしまうと何か損したような気もします。
「ところでダリヤ、子供のことは少しおかあ様たちには黙っていてくれないかな」
「どうして?」
私は身体をひねって彼の方を向きました。
「ダリヤの中に子供は本当にできたばっかりなんだ。普通、女のひとたちは二月三月くらいで気付くんじゃない?」
「え、本当にできたばかりなの?」
「そう。本当にできたばっかり。ほら、七日くらい前の夜に」
ああそれは覚えがあります。何と言っても私たち、まだ若いですから。
私たちが本当に夫婦の仲になったのは結婚して一年くらいたってからです。なかなかその気にお互いなれなかったのです。一緒に暮らして同じ寝床で眠りましたが、それ以上のことはありませんでした。
ゆっくり、親のもとにいた時と違う生活の中で、それまでと別の顔を見るようになって、ようやくその気にお互いなっていったのです。
そして私も彼も、そのころから何かと冷やかされるようになりました。それと子供はまだか攻撃も。
「二月三月くらいは神様と話し合いしてるといいと思う」
「そうよね。考えてみれば、おかあ様方にわかったら、女天幕に引きずり込まれるのは目に見えてるわ……」
無論、出産育児の先輩方のおはなしは聞くべきでしょう。大切なことです。
ですが、まだこちらの頭の整理がついていないうちに別の方面からかき乱されるのは避けたいものです。
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