第7話 神様が見せてくれたものは多すぎます。
神様が私に見せたものはとてつもないたくさんの光景でした。
その意味を説明はしてくれていました。だけどそれをすぐに受け止めることはできません。あまりにも量が多すぎるのです。
「それは俺も同じさ」
私はイリヤの膝の間に座ると、彼にもたれかかりながらぶつぶつと神様から渡された光景の話をしていました。
遠い遠い昔、岩である神様「たち」は、その場にじっとしていたそうです。
ここではありません。ずっと遠いところだそうです。
天なのかと疑問に思ったところ、それとは違う、という答えが頭に直接伝わってきました。
長い長い間、無限に等しい程の長さ、神様たちは変わらない日々を送ってきたそうです。
ただそこにある日、何かが突然降ってきたのです。
私たちの幕屋よりは大きいですが、神様たちの宿る岩に比べれば、虫けらくらいの大きさの筒のようなものが。
その中からは、格好は違うけど、私たちと同じ「ひと」が出てきました。数は決して多くはないのです。私たちの部族の何倍かくらいだったのですから。
その「ひと」たちは、重そうに歩き、息も苦しそうにしていました。放っておけばそのまま死ぬはずだったと神様は言いました。
そこで神様たちはその「ひと」たちに取引を持ちかけました。神様たちの声が聞こえる「ひと」に、イリヤのように身体にとりつくことを。
その「ひと」たちの見聞きするものを神様たちは知れるし、彼らは生きにくい自然の中でもやっていけるということです。
その「ひと」たちの中でも何かあったらしいのですが、細かいことは神様もわからなかったそうです。
ともかく生き残ろうとする「ひと」たちにとりつき、神様たちはそれまで見たことのなかった世界を見ることとなりました。
神様たちは分かれても心を飛ばし合うことができたということです。とりついた方と岩に残った方の間で、それまで見たことのなかった広い広い世界を知ることができたということです。
ところがその「ひと」たちは、いつからか、ひどく大きな戦に乗り出していったのです。
神様がとりついた彼らは、無敵の兵となって、広い広い世界をとても少ない数で手に入れて行きました。
「でもその世界が、見たことないものばかりなの」
「うん。夜の空を、飛んでることもあったよな」
そうなのです。「ひと」なのに、そんなことができてしまうのです。
「あなたもできるのかしら」
「夜空の中で動くことはできるらしいけど、まず、俺らはそこまで行けないからね」
少なくとも今は、とイリヤは付け足しました。
「それから『ひと』たちは、……『帝国』を作ったのね」
「うん」
「イリヤが言う『皇帝』ってのは、それを作って、治めるひとのことなのね」
「神様のいた場所では少しやり方が違ったみたいだけど。たくさんの戦だらけの場所をその力で一つにしていったんだ。その『ひと』たちは。そして『帝国』にしていった。ただその代表を誰もしたがらなかったから、そこでは皆で話し合って決めることにしたらしいけど」
「イリヤは一人でやりたいの?」
「やりたいというか。やった方がいいんじゃないかとか」
「あいまいね」
そうだよな、と彼は寝起きで解いたままの私の髪をもてあそびます。
そうやってくるくると指に巻き付けると変なくせがつくからやめて、と言っているのに聞きません。
と言っても、今の私の頭はそっちに向いてくれません。
私はあれから試しました。やっぱりナイフを持ち出して、軽く腕にさっと当ててみました。
傷はできました。ですが、彼と同じです。血はすぐに止まり、あっと言う間に淡い色の新しい肌ができて、塞がっていきました。
小さな頃から走り回ったり馬に乗ったり狩りに行ったりで傷はよく作りました。だけどこんなに見ているうちに治ることはありません。ああ、彼と同じようになってしまったんだな、と私は妙に自然に感じていました。
それが五日間の眠りのおかげなのでしょう。信じにくいことも信じてしまわずにいられないのです。
あまりにも私だけでは想像もできないような光景を見せられてしまった後では。
ただ、変わったとはいえ、彼のように力もちになったりはしていないようです。
身体がただ強くなっただけのようです。そしてこのおとぎ話のような神様の昔ばなしは悲劇へと続くのです。
「何で」
私はイリヤの腕をきゅ、と抱きかかえました。
「どうしてあの『ひと』たちは神様たちを裏切ったのかしら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます