第5話:集団移住・国王視点

「負担をかけてすまないな、スミス公爵」


「いえ、民を護るのは王侯貴族の最低限の義務でございます。

 悪政に虐げられる民が保護を求めてきたら、追い返す事などできませんから。

 国王陛下や大臣の方々は何も気になさらないでください。

 それに、我が領地は例年の三倍の実りがございます。

 麦一粒の収穫も見込めない土地とは違いますから」


 スミス公爵が強烈な嫌味を言ってくるが、ひと言も返すことができない。

 それどころか、まともに顔を見る事もできないくらい恥ずかしい。

 それは余だけではなく、大臣や騎士団長達も同じだ。

 事もあろうに、跡継ぎと定めた子供が、国法を超える年貢を民から貪り、それが露見しそうになったら、隠蔽のために民を皆殺しにしようとしたのだ。


 しかも重税の理由が、悪女に貢ぐためだというのだから、自分たちの後継者教育が完全に間違いであった事、愚者であったことが明白となった。

 そのうえ、殺されるはずだった民が、我が娘で聖女のアリスから施しを受けて逃亡資金を確保し、事の真実を声高に叫びながら、王太子領から整然と隊列を組んで逃げ出したのだ。

 事の真実が王国中に広まり、王家と重臣たちの信望は地に落ちた。


「事ここに至っては寸暇も惜しい。

 直ちに王国の全騎士団を動員して、王太子たちを誅殺する。

 それ以外に民の信頼を取り戻す方法はない」


 余は覚悟を決めた、王太子も重臣の子供たちも誅殺する。

 そうしなければ王家も王国も滅びてしまう。

 これ以上肉親の情に溺れる事も、家臣を憚る事も許されない。


「陛下、どうか今しばらくお待ちください、それはあまりに情がなさすぎます。

 幸い民に被害はございませんから、まだ取り返しがつきます。

 これほどの過ちを犯したのですから、このまま跡継ぎにはできませんが、殺す事はありません。

 廃嫡にして、領地で余生を過ごさせればいいのでございます。

 そうすれば王妃殿下のお嘆きも少なくなる事でございましょう」


 フィンドデール公爵アルフィ卿が余を誘惑する。

 確かに王妃は王太子を溺愛していて、今回の件も若さゆえの過ちで、いずれは名君となると、廃嫡にすら反対している。

 アルフィ卿も子煩悩で有名で、正妻が子供を溺愛しているのも同じだ。

 余と違うのは、余が王妃の頼みであろうと政を私で歪曲しないところだ。

 アルフィ卿は子供のためなら平気で政治を歪めるのだ。


 しかし、子供たちの悪事を隠蔽することは不可能だから、減刑しようとすれば何か理由をつけて恩赦をださなければいけない。

 それに、恩赦を実現するには、スミス公爵の許しが必要だ。

 スミス公爵?

 スミス公爵がいないではないか?!


「スミス公爵はどこに行った?!」

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